181.日本人との、邂逅
スキュラの正体は、元地球人で、しかも日本人の少年だった。
場所は変わって、エア・バードの中。
コックピット内。
「な、なんだ!? どこなんだここは!?」
完全に、少年が怯えきっていた。
あれ、さっきは冷静だったのに……?
「そりゃ、転移のスキルを目の前で使ったからですよ」
呆れたように、真理が言う。
あ、そっか。一般人は、転移スキルなんて見たことないもんね。
「お、おまえは……なんだ!? 化け物か!?」
「違う違う。私は長野 美香。君と同じ日本人だって」
「う、嘘をつくな!?」
嘘じゃあないんだけどなぁ。
「嘘では無いが、真実でもないでしょう? マスターは日本人ですが、神ですからね」
「神!? なんだ神って!? 意味が分からないぞ!?」
あーあ、開田くんさらに混乱してるようだ。 そりゃそうだ。いきなり出てきて、神とか名乗る怪しい人物が、謎のチカラで転移なんてさせちゃあね……。
うーん、どうしよう。
事情……聞くのは簡単だ。全知全能で検索すればいい。
けれど……相手の個人情報を、相手の許可無く覗くのは、ためらわれる。プライバシーってもんが開田くんにもあるわけだし。
ならば、どうする?
とりあえず……本人から事情を聞きたい。なんで日本人がここにいるのかなって。
そのためには、落ち着いて貰う必要がある。なら……。
「まあまあ、開田君。落ち着いて」
「落ち着いていられるか!」
ちゃきっ、と衣服から、小型の拳銃を取り出す。
警察が使ってるものとは、異なる。なんか……安っぽい。
「ぼくを、元の場所へ返せ! さもなくば……! 撃つ!」
「ミカ神さま。ここはわたしが……」
オベロンが魔法を使って無力化しようとしてる。
でもこの子の、妖精王だ。力が強すぎる。
下手したら殺しちゃうかも。まあ、すぐに蘇生すりゃいい話ではあるんだけど。
蘇生できるからって、殺す必要はない。死ねば痛いんだから。
「オベロン、駄目。下がってて」
「しかし……」
私はオベロンを目で制する。彼女は、しぶしぶうなずいてくれた。ありがとう。
「開田君。銃を下ろしてちょうだい。まずは話し合おう」
「く、来るな! 来ると……ほ、ほんとに撃つぞ!?」
かたかた……と開田君が震えている。人を撃つのは初めてなのかな……?
てゆーか、なんで現代人が銃とか持ってるんだろう。
しかも軍服着てるし。もしかして……現代人じゃあないのかな?
気になることはたくさんある。けど……なんにしても、まずは対話だ。
「落ち着いて」
「う、うわぁあああああ! 来るなぁあああああああ!」
パンッ……! と開田君が引き金を引く。
銃弾が……地面に当たる。震えてるせいで、狙いが定まらなかったんだろう。
今のうちだ。
私は彼に近づいて、手を握る。
……冷たい手。とても緊張してる様子だ。そりゃそうだ。こんな訳分からない状況にいるんだから。
「落ち着いて、開田君。大丈夫、大丈夫だから」
「くっっ! なんて馬鹿力……! やはり化け物か……!」
「いや化け物じゃあなくて、私も日本人だってば」
「それをどう証明するというのだ!?」
どうって……うーん。どうしょうめいするか……。
あいあむ日本じーん、って言っても信じてもらえない……よねえ。
うーん……。ムズい。日本人の証明なんて……。
日本語をしゃべってる時点で日本人って信じてもらえないし。これは難易度高いミッション……。
そのときだった。
ぐぅうう~~~~~~~~………………。
「え? 君……もしかしてお腹すいているの?」
開田君から、大きなお腹の音が聞こえてきたのだ。
「ち、ちがう!」
開田君が顔を真っ赤にして、首を横に振る。 なるほど、そうとう空腹のようだ。
「ちょっちまってて。今、ご飯作ってくるから」
ぱっ、と私は開田君の手を離して、無防備に背中を向ける。
「撃たれちゃいますよ!?」
「撃たないよ、彼は」
オベロンが彼を指さす。
「彼が撃たないという根拠は?」
「勘、かな」
彼は悪い人には思えないし。勘だけども。
「そんな……曖昧な……」
「まあまあ」
ということで、私はご飯を作りに、食堂へと向かう。
「何処へ行く貴様!?」
と開田君が何故か後ろから着いてきた。なんで?
まあいいか。
「君、お腹すいてるんでしょ? ご飯着くってあげるぜ」
「ご飯……得体の知らない相手から施しなどうけん!」
ごもっとも。でも、私はお腹すいてる人をほっとけないのだ。
私はリビングへ向かう。
「ええと、確かさっき台所あさったときに……お、あった」
パックご飯。そして冷蔵庫のなかには、納豆と卵。
私はまずレンジでパックご飯を温める。続いて、ケトルでお湯を作る。
開田君は「なんだこれは……こんなのみたことがないぞ……」と家電類をみて目をむいていた。
「あれ、電子レンジも冷蔵庫も見たことないの?」
「れんじ……? れいぞーこ……?」
「日本人だよね君」
「そうだぞ」
なのに、レンジも冷蔵庫も見たこと無いって……?
軍服着ているし、やっぱり、私が生きていた時代とは、別の時代から着たのかなこの子……?
まあ、考えるのは後だ。今はこの子の空腹を満たしてあげるのが先。
「ちょっちまっててねー」
私はまずパックご飯を、レンジに入れる。
「箱に何を入れたのだ……?」
「ご飯」
「ご、ごはん……? 何を言ってる? 箱にいれて、米が炊けるとでもいうのか?」
「そうだよ」
「はぁ……?」
レンジをぴぴっと操作する。ターンテーブルが回り出す。
「な!? ど、どういう原理で動いてるのだ……!? これは……!?」
「私にもわからん」
「わからないものを使ってるのか!? 貴様!」
「うん、便利だし」
さーて、この間に他のもちゃちゃっと準備しちゃうぞ。
と言っても、納豆のパックと、生卵を出す。そんで、ケトルでお湯を作るだけ。
開田君は私の出す物すべてに、驚いてるようだ。
で、お湯が完成。
「あとはインスタント味噌汁をつくってーと」
「い、インスタント……? なんだそれは……?」
「あらしらないの?」
「知らん」
まじか。やっぱ現代人じゃあないんだな、この開田君。
ケトルを持ち上げて、インスタント味噌汁を作る。
ふわり……と味噌汁の良い香りが鼻孔を突いた。
「なんと……信じられん。火を使わず、味噌汁を作るだと!? き、貴様……なにものっ!?」
何者って……。
「ただの、日本人ですよ?」
「うそをつけ! 大日本帝国に、こんな技術は存在してない……!」
大日本帝国……ねえ。やっぱ開田君、大昔の人間っぽい?
あれ、大昔の人に、こんな最先端技術(レンジや冷蔵庫)見せて、いいのかな……?
……。
…………。
………………タイムパラドックスって言葉が、よぎった。
けどま、うん! 大丈夫大丈夫! 多分!




