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179.海の化け物



 南の国へと向かう私たち。これがバカンスならいいんだけどね。


「まもなく、エア・バードは目的地である、南の国フォティアトゥヤァへと到着します」


 リビングで昼飯後のティータイムを楽しんでいると、真理がそういう。


「あら、もう着くんだ。けっこー速いね」

「優秀で高性能なAIによるルートガイドのおかげで、想定よりも速く到着することが可能になったのですドヤァ……」


 真理さん褒めて欲しいのか、私をチラチラと見やる。はいはい。

 私は真理の頭を撫でる。


「やっぱミカママが一番です~……♡ どっかのガミガミババアとは違って」

「なんですかわたしのことですかお尻ペンペンしますよ?」


「ひっ……! DV母! ミカママたすけて~」


 真理が私の後ろに隠れる。もうすっかりお母さんな私である。私まだ29歳……30にもなってないんだけども。

 もうでっかい赤ん坊ができてしまった。やれやれ。


「もうすぐフォティアトゥヤァかぁ……何事もなく到着しそうでなによりだわ」

「どういうことですか?」


「いや、ほら船とか飛行機ってさ、漫画だと事故に遭うのがテンプレみたいなもんだから」


 船ならクラーケンに襲われるとか。

 飛行機なら、墜落するとか。そういったハプニングが無く、空の旅をできたなって。


「さすが高性能AI。事故らないように、ちゃんと安全なルートを選んでくれてたおかげだね」

「ふふん……まあ、高性能AIであるワタクシなら、それくらい……………………あ」


 あ?


「え、なに……あ……? って」

「ま、マスター……。ちょっと、まずいかも」

「まずい?」

「敵です」

「ふぁ……!?」


 がくんっ! とエア・バードが急停止する。私たちはソファから転げ落ちた。


「て、敵って……あんた全知全能インターネット使えるんだから、事前に敵襲は察知できるんじゃあないの?」

「はい、本来なら……。ただ……」


「ただ?」

「余裕ぶっこいて、ちょっと検索サボっていたら……海の中から敵が急速接近してることに、気づくのが遅れてしまいました……てへっ」


 ……はあ、もう。

 この子ってばもぉ……。


 まあでも、まだ敵に襲われてるだけだ。殺された訳じゃあない。それにま、殺されても蘇生できるしね。


 ということで。


「真理、状況説明」

「【スキュラ】、に襲われてるようです」

「スキュラ?」

 

 真理が空中に、魔法でモニターを作る。

 外の様子が映し出される。


「なんじゃこれ……? タコの……バケもの……?」


 海上には、下半身がタコ、上半身が人間の……馬鹿でかい化け物がいた。

 これがスキュラ……?


「見ての通り、上半身は人間、下半身は海獣といった構成の、海の怪物の一種です。現在、我らの乗るエア・バードは、スキュラの触手に絡め取られてる状態です」


 エア・バードがミシリ、ミシリ……と音を立ててきしんでいる。


神威鉄オリハルコンでできたエア・バードの機体がきしんでいます! なんて膂力……! このままでは我らは絞め殺されてしまいます!」


 うーん……。


「前から思ってたけどさ、神威鉄オリハルコンって、そんな凄い金属じゃあないんじゃない?」

「はぁ!? な、何を言ってるんですかこんなときに!?」


「いやほら、神威鉄オリハルコン製品ってさ、なんか凄いって言われてるわりに、全然凄くないなぁって」


 たとえば、真白。うちの子猫ちゃんは、ひっかくだけで神威鉄オリハルコンを切り裂くことができる。

 スキュラも、神威鉄オリハルコンをへし折ろうとしてるし。


神威鉄オリハルコンってそんなすごくないのかなって」

「こんな時にぼけてる場合ですか!?」


「いやぼけてないんだけど……」


 割とガチめにそう思ってるって感想を伝えただけなんだけどね。


「マスターマスター。そんな場合じゃあないですよ。このままではエア・バードが大破し、我らは海の藻屑ですよ」


 その割に、真理はそんな慌ててる様子はない。


「なにゆえ?」

「ワタクシは電子機器をとおして、転移できますからね」


「あんた自分だけ逃げるつもり? もー、卑怯者なんだから~」

「マスターだって、全然焦って無いじゃあないですかぁ~。いざとなれば大転移グレーター・テレポーテーションで逃げれるからって~」


 まあねー、ってことで、そんなに焦っているわけじゃあないのだ。

 オベロンも飛べるしね。


「ああ、どうしましょう……」

「ま、でもせっかくサツマ君たちが作ったものを、壊されるのは良くないね。彼らに申し訳ない……ってことで」


 大転移グレーター・テレポーテーションを発動。

 少し手前に転移することで、触手から逃れることに成功。


「よくも我らが神を殺そうとしましたね! 許すまじ! 風刃ウィンド・エッジ!」


 エア・バードの正面に、魔法陣が展開。

 巨大な風の刃が、スキュラのクビめがけて飛ぶ。


 がきんっ!

 だが、風刃ウィンド・エッジはスキュラの触手にはたき落とされてしまった。


 触手が少しかけていた。けど、すぐに再生したのだ。


「なんだ、スキュラって雑魚そうだね」

「は……? な、何言ってるんですかミカ神さま……?」


「いやほら、風刃ウィンド・エッジって初級魔法でしょ? 初級魔法でダメージを負ってるんだから、たいしたことないなって」

「いやいやいや……! あの魔法は、ただの風刃ウィンド・エッジじゃなくて……って、ミカ神さま! 敵の攻撃が来ます!」


 ぎゅんっ! とスキュラが10本の触手をこちらに向けてくる。

 私は右手を前に出す。


風刃ウィンド・エッジ


 ズバアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 スキュラの触手がスパッと切れた。

 ついでに海もスパッと割れた。


「ほら、スキュラの触手キレたじゃん? やっぱたいしたことないって……ねえ?」


 風刃ウィンド・エッジ一発で切断できるんだからさ。


「いや、マスター。妖精の魔法出力は、人間のそれより上なのですよ?」

「ほぅ?」


 つまりどういうことだってばよ……?


「妖精の魔法と、人間の魔法では、同じ初級魔法でも威力が段違いなのです」


 え、つまり……さっきオベロンがぶっぱした魔法は、かなり威力が高かったってこと……?


「そういうことです。まあ、マスター美香の魔法出力と比べたら、塵芥のようなもんですけどね」

 

 へえ……魔法って、たとえ初級魔法でも、使い手によって威力が異なるのかぁ。

 勉強になるなぁ。


 にょきにょきっ、とスキュラの触手が再生する。

 ……ん?


「妖精と、神の初級魔法を受けても、消し飛ばなかったってことは……」

「そうですよ……スキュラは……」


「あんま強くないってことだよね?」

「なんっっっっっっっっでそうなるんですか……!!!!!!!!!!!!!!」


「だって、言うて初級魔法だし」

「さっきの話聞いてました!? 聞いてすぐ忘れたんですか?! 鶏ですかあんたぁああああああああああああああああ!」


 いや鶏じゃあないけどさ……。

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― 新着の感想 ―
もうダメだミカはある意味自分を捨てた馬鹿王子の同類になりつつあることに気づいてない。
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