178.エア・バード探索
空飛ぶ船エア・バードにのって、南の国へと向かっている。
あと1日も掛からずに、目的地である迷宮都市ナントってところに、到着するらしい。
ちょっと暇になったので、エア・バードの中を探索することにした。
「じゃ、私ちょっと中見てくるから」
「マスター! 一人だけサボってずるい! ワタクシもサボりたいのにっ!」
操縦桿の前に座る真理が、悲鳴を上げている。
背後には教育ママ、もといオベロンが立っていて、彼女を監視してるのだ。
「サボるんじゃあないよ。中の点検だよ」
「嘘つきー! サボるくせにー! きゃんっ!」
オベロンが真理の頬をつねる。
「仕事しなさい。リモートでも事務仕事できるでしょう? ルシエルさまやセイラさま、リシアさまから送られてくる報告書を、ミカ神さまでも読めるようにしてください」
「ひぃん……」
……みんな働いてるなぁ。私だけか。こんなのんびりしてるの。
「真理、やっぱり手伝おうか?」
「いえ、ミカ神さまはやる気を温存しておいてください」
やる気の温存って……。
「どうせ、現地についたら、ミカ神さましかトラブルを解決できないので」
「そう思う根拠は?」
「量産型ミカが、どんなことをしてるのかわかりません。が、相手は量産型とは言え神さまなのです。同格であるミカ神さまでしか、相手が務まらないのです」
そっか。なるほどね。だから、私は現地で戦うために、チカラを温存しておけってことか。
「真理のおもりは任せてくださいまし」
「マスターたしゅけてぇ~……」
うーん……。不憫。
「ちょっと休憩とろうよ。この子も無理矢理働かされるより、自発的に動いてもらったほうがパフォーマンスいいだろうし」
「ましゅたぁ~……」
はぁ……とオベロンがため息をつく。
「……ミカ神さまに、エア・バードの内部を案内するのですよ」
その条件で、休ませてあげるということらしかった。
ぎゅんっ、と真理がコックピットから私の元へやってきて、抱きついてくる。
「やっぱり真理のママはマスター美香だけです! あんな妖怪ガミガミババアは駄目です!」
妖怪ガミガミババアて。多分オベロンのことだろうけど。
酷いこと言うなこの子……。
「友達の悪口は感心しないな」
「友達なら叩いたりつねったりしないと思いますっ」
「まあそうだけどさ。でも、そうしないと君サボるじゃん」
「だからといって暴力は駄目ですっ。子供の情操教育に悪いですよ! 将来自分の子供にもそんなこと平気でするような大人に育ってしまったらどうするんです!?」
大前提として、真理はAIなんだけど……。子供ってどうやってつくるんだろうか……。
データファイルをコピペするとか……?
まあいずれにしろ、あんまりギスギスした雰囲気って好きではない。
真理のサボり癖はなんとかしたいけど、真理も友達だ。彼女に無理矢理労働を強いるようなことはしたくない。
私自身、ブラックな環境で、奴隷のように強制労働させられてきたからね。
「マスターは良いママになれますね」
「ありがとう。結婚の予定はないけどね」
「え、そうなんです?」
「うん。別にいいかなって」
もう娘はたくさんいるし(リシアちゃんとかセイラちゃんとか真理ちゃん0歳児とか)。
「恋愛は?」
「きょーみないし。ダルいし」
めんどくさいし。
それより家でのんびりしたいしね。それに別に結婚のメリットもないっていうか。
「マスターはすでにお金、女、権力、全てを手にした女ですもんね」
「言い方よ……」
まあ言い方はあれだけど、真理の言うとおり、今は全て足りているのだ。
不足分を、他者に求めようとしていない。だから別に結婚する気はない。したい相手もいないからね。
「はい、雑談していたら、リビングスペースにつきましたよー」
コックピットを出ると、廊下が延びていた。ちょっと歩くと、リビングスペースへとやってきたのだ。
ちょい広めのリビングだ。ちゃんとテーブルもあるし、ソファまで完備。
台所まであるし。冷蔵庫、電子レンジもある。
「水出るの?」
「でますよ。水の魔法が出るように、術式が組まれております」
蛇口をひねると、ちゃんと水が出た。おお、すご……。
って、あれ?
「コンロないの?」
「ないです。火を使う料理はおすすめしません」
「あ、そっか。ここ、空の上だもんね」
「肯定です。なので、料理は冷凍食品のものを用意しております」
KAmizonで冷食を買っているようだ。
真理はサボり魔だけど、ちゃんと仕事しはするんだよね。仕事さぼるけども。
「れいとーしょくひん、とはなんですか、ミカ神さま?」
「あ、君は初めてだったね」
リビングスペースには冷蔵庫が置いてあった。業務用のでっかいやつだ。
でも、中には生鮮食品は無かった。
飲み物のボトルがいくつかあるくらい。
冷凍庫側の扉を明ける。
中には、これまた地球ではよく見るような、冷凍食品がたくさん詰めてあった。
「メニューはワタクシの独断と偏見で買いました」
「そこは私の許可貰いたかったんだけどね……まあいいけど」
この子ほっとくと、なんでも自分でやろうとしちゃうんだよねぇ。有能なんだけど。そういう独断専行がいきすぎるところを、なんとかしてほしい。
「購入するさいは、伺いをちゃんと取りなさい」
とオベロンママ。
「ひぃ……! ままぁ~……継母がワタクシを虐めるよぉ~……」
どんな家庭環境なんだ……。ママが二人いるけど……?
「マスターは大黒柱でありママなのです」
複雑な家庭環境ですね、長野家……。
「で、なんだけっけ。冷食ね。これをね、暖めると、ご飯ができるの」
「こ、この箱に……こんな冷たいものをつっこむのことで、料理なんてできるのですか……?」
まあ異世界人からすれば、レンジでチンなんて概念ないし、疑いたくなる気持ちはわかる。
「まあ、見てなって」
冷凍スパゲッティを、電子レンジであたためることにする。
オベロンは包装されたスパを、しげしげと見ている。
「やってみる?」
「は、はい……」
オベロンが、おっかなびっくり、ぴっぴっ、とボタンを押し、加温スタートさせる。
「わ! う、動き出しました……うぃいいん……って……中で回ってます……なんですかこれは……」
すると、真理がにまぁ……と邪悪な笑みを浮かべる。
「爆弾です」
「なっ!? ば、爆弾!?」
「ええ。オベロン。あなたは爆弾のスイッチを押してしまったのですよぉ~」
真理のやつ……嘘をおしえてやがる……。
真理なんて名前のくせに……。
今までの仕返しだろうか。うーん……。
「あわわ……どうしましょう……わたしのせいで、エア・バードが爆発を……」
「オベロン。大丈夫だから。真理の嘘だから」
オベロンがギロリ、と真理をにらみつける。
「ぷぷぷ。慌てふためくオベロン、可愛かったですよお……」
かぁ……とオベロンが顔を赤くする。
「こらこら、からかわないの」
「はーいママ」
真理はオベロンに復讐できて、満足そうだった。
「ごめんね、うちの子0歳児だから、許してあげて」
「ええ、わかってます、ミカ神さま。0歳児の赤ちゃんですもんね。仕方ありません。ただ……」
オベロンが指を立てる。
小さな竜巻が発生する。
「どひぃいいいいいいいいいいいいい!」
真理が空中に放り出されて、どしんと床に尻餅をつく。
「嘘は、ついてはいけませんと……ちゃんとおしえないと駄目ですね」
「まあそこは同意」
真理が嘘ついたら困るからね……。
「目が回ります~……」
と、茶番していたら、冷食が完成したようだ。
レンジから取り出す。
蓋をペリペリと剥がすと、ナポリタンの、トマトの良い匂いがしてきた。
「わ! すごいです……お湯でゆでてないのに、パスタが完成してます……!!」
「食べてみたら」
「はいっ」
部屋に備え付けてあった、プラのフォークで、オベロンがナポリタンをちゅるっと一口食べる。
「お、美味しい……! こんな簡単に、こんな美味しいパスタがでてきしまうなんて……! この箱……すごいです!」
「まあレンジが凄いっていうか、地球の食品会社が凄いんだけどね」
よく分かってない様子のオベロン。ちゅるちゅる、と冷凍パスタを食べている。
「ワタクシは冷凍の今川焼きを温めてます」
いつの間に……。
ちーんっ。
ドアを開けると、ほっかほかの今川焼きが出てくる。
私も一つもらう。
はふはふっ。
あまっ。うまっ。冷凍食品とは思えないクオリティ。
「最近の冷食って、どれもクオリティ高いね」
一人暮らししていたとき、よくお世話になった。
何度も食べたけど、うん、手料理には及ばずとも普通に美味しいのだ。
このクオリティのものを、冷食で食べれるんだから。
「食品会社さんには、頭が上がらないね」
「神が頭が上がらない相手なんて……ショクヒンガイシャさまは、さらに高位の神さまなのですか?」
いやなんでそうなるの……。
「そうですよぉ……。ショクヒンガイシャさまに、五体投地しないとですよぉ……きょんっ!」
またオベロンママに折檻されてる、真理。
「な、なぜ嘘とバレたのですかっ?」
「あなたの顔を見ればわかります」
「エスパーか!」
「いえ、駄目AIの教育係です」
「駄目AIって言った! ママー! この教育係クビにしてー!」
そんな風に、和やかに食事を楽しんだのだった。




