175.空飛ぶ船を作る
量産ミカが、どうやら南の国で人に迷惑をかけているらしい……。
私は量産ミカの暴走を止めるべく、南の海に浮かぶ島国、フォティアトゥヤァへと向かうことになったのだった。
場所は、浮遊島の、ログハウスの中にて。
リビングには、私とふぶき、そしてオベロンがいる。
(子供らは疲れて眠っている)
「さあて……向かいますかね」
「お待ちくださいミカ神さま。フォティアトゥヤァがどこにある、どんな島なのかわかっているんですか……?」
妖精王オベロンが尋ねてくる。
「南にある島国でしょ? 南に飛んでけばいいんじゃあないの?」
「……正確な場所わかってないのに飛んでいっても、迷子になるだけです」
「そりゃそうか。じゃ、おしえて真理」
~~~~~~
Sinri:「南の国フォティアトゥヤァ」
ゲータ・ニィガ王国のある、西の大陸から、南へ船(異世界の船)で10日ほどくだった先にある島国。
常夏の国であり、現地には砂漠エルフ(旧ダークエルフ)たちが暮らしている。
南国のフルーツと、迷宮都市が有名。
~~~~~~
ほほぅ、南国のフルーツ……。美味しそう。 現地の船で10日かぁ。飛んでくとしても、けっこーかかるね。
「道中には休める場所がありません。遮蔽物の無い海上を、魔法で飛び続けるのはかなり大変ですよ」
「なるほど……じゃあ、船で行く?」
でもこの世界の船で10日もかかるんだよなぁ。観光目的なら、ゆっくり向かってもいい。
けどすでに問題が起きているのだ。さっさといって、さっさと問題を解決した方が良いいい。
じゃあ現実の技術を用いて……たとえば、モーターボート的なものを作っていくのはどうかな?
~~~~~~
Sinri:海上には魔物がいるので、船旅をするとなると、やはり時間がかかりますね
~~~~~~
じゃあ空か。
「よし、飛行機を作りましょう」
「ひ、ひこうき……?」
オベロンが困惑してる。
一緒に話を聞いていたふぶきが、手を上げる。
「飛行機とはなんじゃ?」
「なんじゃ……うーん……」
現地人になんと説明したら良いか。
飛行機なんて概念シランだろうし。
「まあ、空飛ぶ船ですよ。真理」
真理がスマホに、飛行機の画像を写す。
「こんな大きく、硬そうなものが空を飛ぶのかの……?」
まあ驚くのも無理はないよね。
飛んでるとこ、見たことないんだし、この子達。
「私の居た世界では、びゅんびゅん飛んでたよ。魔法が使えないからね、向こうの人たち。だから空飛ぶ船を作ってたんだ」
へー……と二人が感心したようにつぶやく。
「しかし……異世界の船を、どうやって作るのじゃ?」
「理想現実化能力で作り出したものは、この浮遊島の外に持ち出せませんよ」
念じれば、飛行機を出すことは可能だ。
でも飛行機を異世界で(浮遊島の外)で、飛ばすことはできない。理想現実化能力は、あくまで私の住んでいる、この神域限定の能力だからね。
「セイラちゃんの全知全能の釜で出して貰おうかなって思ったんだけど、どう?」
と、真理に聞いてみる。
~~~~~~
Sinri:否定。なぜなら、創造スキルは、スキル所有者のイマジネーションを元にしているからです
~~~~~~
ほぅ?
つまりどういうことだってばよ?
~~~~~~
Sinri:スキル使用者が、想像できるもの、つまり……理解できるものしか、創造することができません
~~~~~~
あ、なるほど……。
「セイラちゃんが現地人……異世界人だから、地球の物がゼロから作り出せないんだ」
どういうものなのか、どういう構造をしてるのか、知らないもんね。
あれ?
「でも神鎚ミョルニル、作れてなかった?」
あれは神器だし、一般人のセイラちゃんが、理解できるものじゃあないような……?
~~~~~~
Sinri:神鎚ミョルニルの場合、現物がありましたし、何度も使ってる場面を見せたことがあったから、可能でした
~~~~~~
にゃるほどねー。理想現実化で、飛行機を出し、セイラちゃんに現物を作って貰うとしても……。
理想現実化で作った飛行機、が創造されてしまう。つまり、島の外に持ち出せない……か。
「となると、作って貰うしかないね。スキルに頼らず、空飛ぶ船を」
「み、ミカ神さま……そのような超高度な船を、どうやって作るというのですか?」
ふふん。
「うちの優秀な眷属ちゃんたちのお力を借りるわけですよ。ノームちゃん、サツマ君、かもーん」
ぞろぞろ、と眷属と妖精達が、私の前に現れる。
「あたらしいじょぶですか?」
ノームちゃんが私に尋ねてくる。
「そーよ。今から君たちには、空飛ぶ船を作って貰います」
「そらとぶ……ふね?」「ばかな」「そんなもののそんざいをみとめないといけないのか……?」「うでが、なりますな」
ノームたちは困惑しつつも、新しいものを作ることに、わくわくしてる様子。
「へい、真理。この世界の素材で、飛行機作りたいの。作り方や、必要な素材を呈示して。ノームたちは、それを元に、作ってちょうだいね」
「あいー」「わくわくさんです?」「じょうしからのむちゃぶりです?」「むちゃにこたえるのもいっきょうかと」
~~~~~~
Sinri:承知しました。
~~~~~~
スマホから、光が発する。それは電子の精霊達。
電子精霊が空中に像を造る。……すなわち、空飛ぶ船の設計図だ。
「なにがかかれておるんじゃ……?」
「わかりません……」
「私にもわからん」
私のリアクションに、二人が呆れた様子。だがツッコんでくれなかった。……若干寂しい。
「ほら、いいんだよ。ツッコんでも」
「ミカ神さまが自分の力を把握できていないことは、こちらもすでに把握してますので」
だからツッコんでくれないと。……な、なるほど……。
へ、へい真理……。なんかもやもやするの。これ何かな?
~~~~~~
Sinri:人から構って貰えないことにたいする、さみしさではないでしょうか。
~~~~~~
や、やっぱり君もそう思う……?
~~~~~~
Sinri:肯定。なにせマスター美香は誘い受けかまってちゃんなので
~~~~~~
誘い受けかまってちゃんて……。
べ、別にかまってちゃんじゃあないし? 私は大人の女だし?
~~~~~~
Sinri:^ω^
~~~~~~
うん、なんか言ってくれないかな?
~~~~~~
Sinri:そういうところがかまってちゃんなんですよ? やれやれ。こちらも忙しいんですからね。邪魔しないで欲しいところです
~~~~~~
「ゲームしないでください」
と、オベロン。多分遍在側のオベロンが、真理のやってることを見たんだろう。
てか、ゲームやってるのかこの子……。なにが忙しいだ……。
~~~~~~
Sinri:ちゃんと! フォティアトゥヤァの現地情報を集めつつ、えぺもやってるんだからいいでしょっ!
~~~~~~
またえぺ……。ほんと、えぺ好きだな……そんなに楽しいの、このえぺってゲーム……?
~~~~~~
Sinri:えぺ……それは至高のFPSゲーム。これ以上に面白い打ち合いのゲームは、やったことがありませんよ……(´ω`*)
マスターもどうせ暇なんだし、一緒にやりません?
~~~~~~
私どうにも殺伐としたゲーム好きになれないんだよねえ。
~~~~~~
Sinri:そんな風に雑談していたら、空飛ぶ船が完成したようですよ
~~~~~~
え、まじ……?
私たちはログハウスのそとに出る。
ログハウス前には、小型の飛行機が置いてあった。
ジャンボジェットって感じでは無い。日本っぽさは、ない。よくRPGの、終盤に出てくるような、空飛ぶ船だ。
外見は……遠目に見ると、鳥……? のようにも見える。
先端が、鳥のくちばしのように、とがっている。
「すごい……もうできちゃった。やっぱり君たちは優秀だね」
妖精とサツマ君を褒める。
二組はぴょんぴょんとジャンプして喜びの舞を踊っていた。かわよ。
「本当にこれが飛ぶのかの?」
ふぶきが私に尋ねてくる。
「大丈夫大丈夫。さ、乗ってみよう。乗り方わからないけど」
「むしろ主は何を知ってるのじゃ……?」
何もかも知らないです……。
~~~~~~
Sinri:そこで活躍するのが、このスーパー頭脳明晰ハイスペックAIこと、真理さんなんですよねぇ(o^-')b
~~~~~~
無駄に有り余る自信。
~~~~~~
Sinri:船に近づくと、転移魔法が発動し、中に一瞬で転移することができます
~~~~~~
「ちょ……はぁ……!?」
ん……?
オベロンが驚いてるぞ。
「どうしたの?」
「どうしたの、ではありませんよ! 転移の魔法が、付与されてるんですよ!?」
「うん。それが?」
「それがって……」
絶句するオベロン。あれ……この感じ……まさか私また、やっちゃいました……?
「主よ。転移魔法の使い手が、限られてるのは知っておるな?」
とふぶき。それはもちろん。学習しましたもん。
「転移の術を、物体に付与する術は見つかっておらぬのじゃよ」
「え、でも浮遊島には、大転移スキルが付与されてるじゃん?」
だから、別に物体に転移が付与されてても驚かないっていうか……。
「それは神の住む島……神域だからできることじゃろう? でも、この空飛ぶ船は、神域でもなんでもないじゃろう?」
な、なるほど……。神域でもないのに、転移が組み込まれてるのがオカシイと……。
「しかも! 作ったのはミカ神さまではなく、その眷属たちじゃあないですか! 凄い魔道具職人でもなんでもない、ただの眷属がそれをやったんですよ!? しかもあんなざっくりとした指示で!」
私の指示って、設計図通り作ってだもんね……。
ん?
「でも設計図があれば、だれでもできることじゃあないの?」
「できないですよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
うーん……どうやら私、また無自覚にやらかしてしまったようだ。
「主は本当に学習という言葉を知らんようじゃな……」
「こ、言葉は知ってるよ……?」




