174.量産型の暴走
浮遊島にて。
私はログハウス前のキャンプチェアに座って、のーんびりしてた。
「はー……働かないってさいこーやわー」
日光浴する私。その隣に、ふぶきがやってくる。
狐耳メイドさんが私に尋ねてくる。
「主よ……何サボっているのじゃ? 他の子らは地上で仕事をしておるのに」
「いやぁ、私もね、忍びないよ? でもねえ、私はちゃんとやるべきことやってるんだ」
「ほぉ? やるべきこととは?」
「【何もしない】、よ」
「は、はぁ……?」
ふぶきは理解していない様子。
「こないだね、わかったの。私って……いるだけで他人にすっごい影響与えちゃうって。それはもう、めちゃくちゃ」
「え!?」
おっと、ふぶきが驚いている。
どうやらふぶきにとっても、初耳だったようだ。
「今さら!?」
「え? 今更って……」
「そんなのだいぶ前からわかっておったじゃろうがっ?」
「え、ええー……まじぃ……」
そうだったんだ……。私知らなかったよ。
自分にこんな影響力があるって……。
「まあ、主はパーじゃからな」
「いやパーって」
私の周り、ちょっと私への当たりきつくなーい?
まあいいけどさ。
「てことで、私は基本、この空に浮かぶ浮遊島で動かないことにしました」
「それが良いじゃろう。子供らも喜ぶじゃろうて」
そんな子ども達はというと……。
『ふぐー……』『しゅぴいぃい~……』
私の足下で、寝そべって寝ているのだ。
四神の子ら(黒姫除く)、麒麟のりん太郎、そしてフェンリル子ちゃんずにバステトの真白。
そして……。
『みかしゃまぁ~……しゅきぃい~……ぷしゅるるるう……』
フェルマァも、私の後ろで寝ている。
もふもふに囲まれて、昼寝。ああ、最高……。
皆ふわふわもふもふだし、あったかいしで、いつまでだって寝てられる。
「あー……しあわせー。この幸せな日々がずっと続けば良いのに~」
と、そのときだった。
「ミカ神さま」
オベロンがこちらにやってくる。
後ろ手で、ずりずりと、何かを引っ張っていた。
「オベロン……と、真理?」
自宅警備員こと真理さんが、オベロンにひっぱられていた。
首根っこをつかまれ、ずりずりと。
「一体どうしたの? ポンちゃん?」
「ワタクシのことをポンと呼ぶのは……きゃんっ」
オベロンが真理の耳を引っ張る。
「報 告」
「はひぃん……」
報告? 一体どうしたんだろう……?
真理が立ち上がって言う。
「問題が発生しました」
「問題? 下界に?」
「はい。ただ、下界といっても、エンデの外です」
私の治める国、神の国エンデ。その外で、問題が起きてるそうだ。
「そんじゃ、別に問題なんてなくない?」
私は確かに神だけど、別に慈愛の神様じゃあない。
自分の領土の外の問題まで、解決する義理なんてない。
「いえ、問題ありありなんです」
「ほぉ? どうして?」
「問題を起こしてるのが、量産型ミカだからです」
「おぃいいいいいいいいいいいいいい!」
量産型ミカめっ。何も問題起こさないって言ってたのにー!
「あ、主よ……量産型ミカってなんじゃ……?」
あ、そっか。ふぶきは知らないんだっけ。
「量産された私のことよ。なんか知らないけど、私が分裂したの」
「どういうことじゃあ!?」
ふぶきさんめちゃくちゃ困惑してる。
そらそうか。私だって言っていて意味わからないし……。
「分裂ってどういうことなのじゃっ!?」
「さ、さぁ……? なんか知らないけど、分裂して……」
ふぶきが頭を抱える。
『うるさいんだぜ……』『なによぉー……』
子ども達が起きてしまった。寝てたのに。ああ、ごめんよ君たち。
「あっちで話聞こうか」
私は、ログハウスの中へと戻る。
で、真理から事情を聞く。
「量産型ミカのひとりが、【迷宮都市ナント】でやらかしてるそうです」
「迷宮都市……ナント?」
って、どこ?
真理がデータをスマホに送る。
世界地図がスマホ上に映し出される。
「我々がいるのが、西の大陸と呼ばれる場所。で、旧・ゲータ・ニィガから、南に行ったさきに、フォティアトゥヤァと呼ばれる、南の国があります」
「フォティアトゥヤァ……」
南の国か……。あったかそ~。
「フォティアトゥヤァの国土はゲータ・ニィガと比べたら狭い。ですが、ここには巨大なダンジョン、【封神の塔】があるんです」
「封神の塔……」
字面から、なーんか嫌な予感しかしない……。
「封神の塔。それは、登ったものの願いを叶える、特別なダンジョン。そこのダンジョンを、厨二ミカがクリアしたようです」
「あいつここでてダンジョンなんてクリアしてたんかい……。それで?」
「クリア報酬として、ダンジョンの主となりました。主となり、ダンジョンを私物化。だれもダンジョンをクリアできなくなり、都市に人が来なくなって困ってるとのこと」
あいつマジ何してるの……!?
「てか……こうなる前に、真理、厨二ミカを止められなかったわけ? 量産ミカの居場所って、常に把握してるんじゃあなかったの?」
サッ……とポンが目をそらす。
オベロンがポンに代わりに言う。
「監視をサボっていたようです」
「おいいいいいいいいいいいいいい」
もー……! 真理ってばー……。
「だめでしょ、ちゃんとしないと」
「「それだけ!?」」
オベロンとふぶきが驚愕してる。ん?
「どうしたの?」
「もっとキツく叱らないと、またこのポンコツはやらかすぞ!?」
とふぶき。
「ミカ神さまは甘すぎます!」
とオベロン。
「いやほら、真理はほら……相棒だからさ」
「ま、マスター……トゥンク」
まあいちおうね。
「でも、まあ、これ以上騒ぎが大きくなる前に、ちゃんと報告できて、偉いじゃん。ちゃんと進歩してるじゃん。前は報連相できなかったし……って、真理さん? なんで目をそらすのかな……?」
するとオベロンが大きくため息をつく。
「……わたしが気づかなかったら、問題は放置されたままでした」
「は……? え、じゃあ、別に真理は問題を報告したわけじゃ……ないの?」
こくん、とオベロンがうなずく。おいいいい……。
「ちゃ、ちゃんと報告するつもりでした! 厨二ミカを捕まえて! ミスを帳消しにしてから、何事もなかったですよぉー……って!」
こ、こいつ……。
前の失敗から、何も学んでいない!
何の進歩も……ない!
「さすがミカが生み出した悲しきモンスター……」
「親子そっくりですね」
ふぶきとオベロンがダブルで呆れてる。
まあもうしょうがないね。この子は私から生まれ出たスキルだし……。
「状況はわかったよ。ようするに、南の国で、量産ミカがやらかして、その国の人たちが困ってるのね」
「そういうことです」
「ん。じゃ、動かないと駄目だね」
さすがに、量産ミカ関連を、誰かに任せるわけにはいかない。
自分のお尻は、自分で拭かないとね。
「全知全能抜きにしても、ミカ神さまの分体。恐ろしいチカラを持ってるから……そうですね。ミカ神さまが出動せざるを得ないですね……あんまり外出したくないですが」
オベロンは、多分私がまた他国で何かやっちゃいました、とすることを危惧してるのだろう。
まあ、やらかすだろうね。確実に。でも行かないといけねえわけっすわ。
「てことで、私、フォティアトゥヤァの迷宮都市ナントってとこ行ってくるね。ふぶき、留守番お願い」
「わかったのじゃ。子ども達の面倒を見るのじゃ」
さてメンツはどうするかな……。
「まあ、サクッと行ってサクッと帰ってくるだけだし、私一人だけでも……」
「「絶対駄目……!!!!!!!!!」」
ふぶきたちが、クソでかボイスで、待ったをかけてくる。
「爆弾を一人で他国に放り込むわけにはいかないのじゃ……!」
「化物に首輪を付けずに放り込んだら国が滅びます……!」
常識人二人に、めっちゃ止められたのだった……。




