130.邪神と戦う
帝都を、魔族が襲ってきた。
でも私とルシエルで、サクッとやっつけた。
「ミカ神どの。お気を付けてくだされ。魔族は呪霊化するぞ」
魔族達は、死後呪いに転じることがあるのだ。それを呪霊化という。
『そう! このおれさま、ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウさまは、まだまだやれるぞぉお!』
「ヤル前から死んでるようなおまえが、一体何をするというのだ!」
ルシエルのツッコミを受けて、にやり……とヤルマエカラ・モウ・シンディリュウは不敵に笑う。
『確かにおれさまは、死んだ。だが! 死んだからこそ、できることがある! 召喚!』
上空に、大きな魔法陣が展開する。
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Sinri:大規模な召喚魔法陣です。ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウは、召喚獣を呼び出すようです
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召喚獣……ね。一体なにをするつもりだろうか。
「くくく! おれさまたち魔族は、バカではないぞ! ナガノカミ!」
「長野 美香だけど」
「ナガノカミ、貴様が魔族にとっての目の上のたんこぶであることは、すでに我等魔族の共通認識となっている! 貴様を……神を倒さねば、この地上を取れないとな」
ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウは、くっくっく、と余裕の笑みを浮かべてる。
「すでに死んでるくせに、なんだこいつの余裕は……! それに……あの魔法陣からただよう、圧倒的なオーラは一体……?」
おののくルシエル。
ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウはくっくっくとまだ笑ってる。
『神を殺すためには、何が必要か……。簡単だ! 同列の存在……すなわち! 同じく、神を使えば良い!』
「神……ま、まさか! 敵もまた、神を!?」
『ふっはっは! そうだ! いでよ……月と豊穣の女神、バステト神よ!』
「バステト……?」
魔法陣からゆっくりと体を起こしたのは、巨大な……獅子だった。
タテガミのない、ライオンだ。
体表は真っ黒く染まっている。
ぎらついた真っ赤な目に、鋭い犬歯。
全身から漂う邪悪なるオーラは、周りの草木を枯らしていく。
「へいSinri、バステトって?」
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Sinri:「バステト神」
→月と豊穣を司る女神。太陽神ラーの娘。
バステト神(邪神体)
→魂を呪霊に浸食され、無理矢理、暴走状態(邪神体)にされてる。
人間の抹殺のことしか考えていない
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……なるほど。向こうも神のカードを切ってきたってわけね。
それにしても……無理矢理暴走状態にさせられてる……か。
「…………」
いらっと、した。普通に。
昔の私を、思い出してしまう。働きたくないのに、無理矢理働かされていた、あの頃……。
「へいSinri、バステトは苦しんでいるんだよね?」
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Sinri:はい。とても
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「そっか……じゃあ、私がやるべきことは一つだね」
スッ……と私は構える。
「今から君の呪いを、解く……! だから大人しく……」
『ギシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
バステト神は一瞬で移動すると、私めがけて、爪での一撃を放ってきた。
「っとぉ、あぶない」
私はその場でバク宙し、バステト神の一撃を避けてみせる。
『ギシャシャァアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
距離を取ったところに、バステト神が爪で攻撃してきた。
ただ、距離が空いてるので、攻撃が空振りに終わる……はず。
「完全削除」
ばしゃり、と私は【それ】を写メって、対象を完全削除する。
消しきれなかった部分が、地面に大きな爪痕を残す。
「は、はやい……はやすぎて……戦いについていけない!」
契約神でしかないルシエルは、神と神の戦いは、目で追えていない様子だ。
「煉獄業火球!」
極大魔法をぶっ放す。
『ギッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
バステト神が爪で、極大魔法を切り飛ばす。 激しい爆風が周囲に拡散する。
「甘い……!」
私は爆風に紛れて、バステト神に接近。
「解呪……ぐっ!」
解呪しようとしたところで、横から、誰かに殴りつけられる。
なんとか結界魔法でガードし、致命傷は免れた。
「ミカ神どの!」
地面に叩きつけられる私。
ぺっぺっ、口に土が入った……。
「やるじゃあないの」
「いったいミカ神どのは何をやってるのだ……? 敵の攻撃を、すれすれで避けてるようだが」
「真理に敵の攻撃を予測してるの。だから、攻撃が直撃しなかったんだけど……」
敵のスピードが、AIの処理速度を上回ったのだ。
だから、回避できず、ガードするしかなかったのである。
「敵は厄介だ。ものすごい早さと柔軟性を持ち、その爪の一撃は神威鉄すらも引き裂く。飛ぶ斬撃に、影を使った分身まで使ってくる」
呪霊にとりつかれ、邪悪なる神となってしまったバステト神。
でもその力は、神に相応しいものだ。とても、強い。
どんな魔族よりも、遙かに強い。
『ふははははは! 見たか、死んでいった同胞たちよ! ナガノカミを今、このおれさま、ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウが討伐してみせるぞぉお!』
……はあ。まったく。
『な、なんだ……? なにため息なんぞついてるのだ!』
「いや、おめでたいなって思ってさ」
『おめでたい……? どういうことだ?』
「私にガードさせたくらいで、喜んでる、あんたの頭お花畑けっぷりによ」
私は■から、最高神の羽衣、そして幽霊ちゃんからもらった、霊毛(今はシュシュにしてる)を取り出す。
今まで魔族相手には、神プロテクトしてて、本気なんて一度も出したことなかった。でも……。
今は、手を抜いてる場合ではない。
相手は、操られてるとはいえ神なのだから。
『ふんっ! 衣装をかえたところで、なんだというのだ!』
「神プロテクト、解除」
『オゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!』
げっげっげっ、とバステト神もつられて、吐いている。
『ななん、なんだこの膨大な、力の波動はぁ……!』
私の体から湧き上がるのは、黄金のオーラ。
神の魔力……神気。
今までの私は、人と環境に配慮して、自らにプロテクトをかけていた。
力をセーブしていたのだ。
「神のプロテクトを、一段階……といたのよ」
『いいい、一段階でこれだとぉお!? なんだこの、圧倒的存在感は!?』
「何だと言われたら……現・最高神ですっと答えけども」
『は? はぁあああああああああ!? さ、さ、最高神!? ば、ば、バカな!? 最高神はダグザといって、天界にいて、地上には出てこれなかったはず!』
あー……なるほど。
「ダグザ……だぐ子は確かに今、天界にいるよ。天の最高神がダグザなら、地の最高神、それが……私」
最高神、としての力を解放した、私。
かたかたかた……とバステト神が振るえてる。
ガワであるバステト神がびびってるのか、あるいは、ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウが恐怖してるからか。
まあ、どっちでもあり得るし、どっちでもいいことだ。
「掛かってきなよ」
『う、うぉおおおおお! やれぇ……! バステトおぉおおおお!』
バステト神が私に向かって斬りかかってくる。
~~~~~~
Sinri:マスター、敵は飛爪という、斬撃を飛ばすスキルを使ってきます
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「大丈夫、真理。見えてるから」
私は……攻撃を避けない。
すっ……と。
飛んできた見えない斬撃が、私の体を、すり抜けていったのだ。
『ば、ば、ばかな!? こ、攻撃が素通りした!? そんなありえない!』
「これが、ありえるんだよ……ね!」
纏っている羽衣の先端を、握りこぶしに変形させる。
拳は凄まじい勢いでのびて、バステト神の顎にアッパーカットを食らわせた。
『ぐあぁあああああああああああああああ!』
「じゅ、呪霊に物理攻撃が……効いてる!? それにさっきは、敵の攻撃が素通りしたし……ミカ神どの、いったい何を……?」
ルシエルは神の戦いについてこれていないようだ。
魔族とともに、教えてあげよう。
なぜって、私の勝利が揺るいでいないからだ。
「まず、あんたの攻撃が効かなかったのは、私の纏っている、この、霊毛のシュシュの効果のおかげ」
『霊毛の……シュシュ!?』
「こないだうちに遊びに来た、ちっちゃな幽霊ちゃんから貰った霊毛だよ。これには、触れた物質を透過させる能力が付与されてるんだ」
霊毛のシュシュを身に纏っている私は、非物質化してる。
攻撃が、通らない状態になってる。
それゆえに、バステト神の飛爪がすり抜けていったのである。
『げほっ! げほげほっ! う、嘘だ……おれさまは、今、呪霊化してる! 肉体が無い状態だ! だというのに、ダメージが入ってる!? なぜだぁ!』
「そりゃ、あんたの魂に打撃を繰り出してるからね」
『た、魂への打撃だとぉ!?』
~~~~~~
Sinri:呪霊は肉体を持たない、魂だけの状態。魂に触れることは通常不可能。
しかし、魂のありかを全知全能で検索(知覚)することで、魂を認識し、攻撃が通るようになる
~~~~~~
『意味がわからん……! なんだそのめちゃくちゃな理屈はぁ……!?』
私はバステト神に近づく。
バステト神は必死に逃げようとするが、体にだいぶダメージが入ってるらしく、動けないでいる。
「大丈夫。バステト神。君は、殺さないよ。中に居る悪い奴だけ、葬り去るから」
最高神の羽衣は、万物に変形可能。
羽衣を分岐させ、1000本の腕を作る。
これぞまさしく、千手観音……ってね。
「ルシエル! 全知全能の剣を!」
「心得た……!」
ルシエルから眷属器、全知全能の剣を受け取る。
これには、禊ぎ祓いというスキルが付与されてる。
敵を弱体化させ、味方を強化する力。
私はまず、全知全能の剣で思い切り、バステト神……の中に居る呪霊の魂を叩く。
だいぶ弱っていたのか、バステト神の体から、呪霊ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウが飛び出る。
「みぃつけた!」
千本の腕で、握りこぶしを作る。
「無関係な子を、巻き込みやがって……! 天誅……!」
千本の腕で、私は、ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウに殴りかかる。
ドガガッ!
ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!
『ほげえぁあああああああああああああああああああああああ!』
魂を捕らえる打撃を、1000発ぶち込む。
「とどめ!」
私は羽衣で巨大な腕を作って、強烈な一撃を、呪霊に食らわせる。
どごぉおん!
~~~~~~
Sinri:魂ごと、ヤルマエカラ・モウ・シンディリュウは消滅しました。これで奴は復活することはないし、呪霊となって生者にとりつくことはないです
~~~~~~
真理が言うんだから、本当に魂から、消滅したんだろう。良かった。
呪霊が抜けた後、バステト神h、小さな小さな、子猫へと変貌を遂げた。
まだ、生まれて間もない子猫だろう。
~~~~~~
Sinri:バステト神の幼体ですね
~~~~~~
生まれて間もない神ってことか……。
白猫達と一緒で。まったく、ひっどいことしやがる。
「みー……」
弱々しく鳴く子猫の頭を、私は撫でて言う。
「もう大丈夫。悪い奴はぶっ飛ばしたからね」
バステト神は安心しきったように目を閉じて、寝息を立て出すのだった。
【☆★おしらせ★☆】
先日の短編
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