110.ゴキブリ並の生命力がある魔族も、倒す
帝国病院にて。
医者のふりをしていた藪医者、もとい、ヤブイッシャをボコった。
「よくやったルシエル」
「ミカ神どの……ぐっ……!」
ルシエルがその場に崩れ落ちる。
「ルシエルさんっ!」
リシアちゃんがルシエルに近づく。
彼女の顔色を見て、目を剥いてつぶやく。
「お、お母様……ルシエルさんが……し、死んでる……」
「どういうこと……?」
その場にいたセイラちゃん、グランセさんもまた崩れ落ちる。
「きさまぁ……! よくもぉおおお! わたしの計画の邪魔をしてくれたなぁああああ!」
ぶっ飛ばして、空の彼方に消えたはずの……ヤブイッシャの声がする。
窓の外には、一匹のゴキブリがいた。
人間サイズのゴキブリだ。二足歩行をするゴキブリ。
「あんた……ヤブイッシャだね」
「そうだ! これが、わたしの真の姿だ! どうだぁ! 美しだろうぉ!?」
「いや、普通にきしょいわ」
人間サイズのゴキブリとか、キモイ以外の感想が出てこない。
「で、あんたが……私の大事な人たちを、殺したの?」
リシアちゃんやルシエルといった、大事な人たちの命が奪われてる。
私のはらわたは、ふつふつと煮えくり返っている。
その一方で、感情的には成っていない。不思議な感覚だ。
これが神の感覚? なのかはわからない。
だが、ここで怒って無策で突っ込んで、やり返えされたら……おしまいだ。
今この場で、生きて立っているのは私だけだ。
魔族を倒すことのできる人物は私しか居ない以上、やられるわけにはいかない。
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ヤブイッシャが生きてる理由
→魔族ヤブイッシャの能力【吸魂】を使用したから
能力【吸魂】
→他者の命を奪い、ストックする。自身が死んだ際に、その命を使って復活する
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「あんたが生きてる理由はわかった。能力を使ったのね」
「ふん! そのとおり。さすがだな、【葬送の邪神ナーガミカ】!」
……は?
「なに、その、葬送の邪神ナーガミカって」
「魔族の間での、貴様のあだ名だ。我ら魔族を、数多くあの世に送ってることから、付けられたのだ」
なるほど……だから、葬送の邪神ナーガミカ……ね。
色々突っ込みたいが、ツッコミ役が死んでしまってる以上、それは後回しだ。
「しかし……さすがは邪神。我が能力を受けてもピンピンしてるとは……だが! これはまだ序の口だ! 本気の吸魂を見せて……」
ゴキブリもとい、ヤブイッシャの背後に、一人の女性が現れる。
「消えろ!」
セイラちゃんの侍女、シェルジュが、いつの間にか背後に回っていたのだ。
「!? 貴様どうして……」
「ぜやぁ……!」
シェルジュが手に持ったナイフで、空を飛んでるヤブイッシャの、背中を切りつける。
がきぃん!
「!? そんな、金剛石すら切断する、振動カッターが!」
「甘い甘いぞお! ふぅん!」
ヤブイッシャがシェルジュの顔面を思い切り殴りつける。
どごぉん! という音とともに、シェルジュが地面にたたきつけられた。
「シェルジュ!」
私は窓から身を乗り出す。
クレーターとなっている場所に、シェルジュが……いた。
しかし、シェルジュの体がバラバラになってる。
そして、切断面からは、ケーブルだの、機器類が覗いていた。
「まさか……人間じゃあない……?」
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シェルジュ
→高性能な魔導人形
魔導人形
→魔道具技術を使って作られた、人型ロボット
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……シェルジュ。あんた、ロボだったんだ。
だからヤブイッシャに命をすわれても生きていたわけか。
「ふぅはっはっは! 見たか! 我が黒光りする外郭は、神威鉄ですら砕けない代物なのだぁ!」
ルシエルのツッコミハリセン攻撃を受けても無事だったのは、固い外郭に包まれていたからのようだ。
それと、ルシエルが純粋に、神としての力に目覚めて間もないからってのもあるだろう。
神がまともにやって、このゴキブリごときに、後れを取るはずがないから。
「邪魔が入ったが……くらえ! 全力の……【吸魂】ぅう!」
ヤブイッシャが両手を広げる。
瞬間、やつの周りに光が集まり出す。
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ヤブイッシャの悪行
→人間に擬態し、医者として病院に潜伏。呪いで病人を弱らせ吸魂していた。
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「上からの指示で、目立つなといわれていたからな! 今までは病死を偽装していたが、もう偽装はしない! 全力全開で、この帝都の連中から、全魂をぬきとってやるぅうう!」
どさり、どさり、と倒れていく人々。
そんな中で私は……。
「きかないけどね」
「なにいぃいいいいい!?」
ヤブイッシャが驚愕する。
私はやつの前まで、飛ぶ。
最高神となったことで、私は羽衣を手に入れた。
だぐ子も使っていたこの羽衣は、纏うことで、神性を手にする。
神は重力というルールに縛られず、結果、こうして浮かび上がることもできるわけだ。
まあ、飛翔魔法で飛べはするけど。羽衣つかえば、魔力を使わず飛べる。
「ば、ば、馬鹿な!? 全力の吸魂を受けて、なぜ貴様は生きてるのだ!?」
「絶対防御を纏ってるからだよ」
絶対防御。最高神スキルの一つだ。
どんな攻撃も、能力も、通じなくなる最強の鎧を纏っている。
「ば、ばかな……! 葬送の邪神ナーガミカはこんな防御能力を持ってるなんて、聞いてないぞ!?」
魔族側で、ある程度、私の情報が共有されてるようだ。
まあ、あんだけの数をボコって葬ってきたのだ。知られててもおかしくはない……。
けど、ほぼ全員生きて返していないのに、どうやって、情報を伝達してるんだろう。
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魔族の情報伝達方法
→テレパシーによって、同族に思念を伝達することができる
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なるほどね。
キエリュウ一族みたいに、魔族にも家族がいる。で、そいつらには思念を送ることができる訳か。
ということは、このゴミにも家族がいるわけか。なるほどね。
「魔殺呪文」
キエリュウ一族からラーニングし、私が手を加えた、魔族を即死させる魔法を発動させる。
高密度の魔力が光線となり、ヤブイッシャに襲いかかる。
ビゴォオオオオオオ!
「ぐぎゃぁあああああああああああああああ!」
超貫通力を持つ魔殺呪文がヤブイッシャの心臓を正確に貫く。
だが……すぐに彼の体が光り輝くと、傷が癒えた。
なるほど、吸魂の能力か。
奪った命を使い、自らを蘇生させたわけだな。
「だから? 魔殺呪文」
「あびゃぁあああああああああああああああああ!」
もう一度魔法を放つ。死ぬ、生き返る……。
「ま、ま、待ってくれ!」
「だめ」
ビゴオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「い、いいのか貴様ぁ……! わたしが生き返る都度、奪った命が使われるんだぞぉ!?」
にちゃあ……と笑みを浮かべるヤブイッシャ。
「おまえが何度わたしを殺そうと、わたしは生き返ることができる! しかも、人間の命がその都度、ヒヒ! 消費される……うぎゃあアアアアアアアアアアアア!」
ヤブイッシャを殺す。
「は、話を聞いてなかったのか!? わたしを殺すたびに命が失われて……」
「ああ、大丈夫」
私は言う。
「みんなもう、生き返ってるから」
「なんだとぉおおお!?」
上空に、四神の娘達が立っている。
彼女たちは距離を取って、この帝都上空に立ってる。
彼女らを、光の線が結んでいる。そして、巨大な光の立方体が、帝都をつつんでいた。
「死者蘇生、【四神方陣の術】」
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死者蘇生【四神方陣の術】
→四神を使った、広域蘇生術。四神を結んでできた空間内にいる死者を、復活させることが可能。ただし、膨大な魔力量および、死者の肉体が必要となる
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「私の作った空間内の命を……全て復活させた」
「な、な、なぁ!? なんだそりゃあああ!?」
驚愕するヤブイッシャ。
「ふざけるな! そんなデタラメが通じるわけがないだろぉお!」
「通じるよ。だって……ね、ルシエル」
ばっ! と地上からルシエルがジャンプして、こちらへとやってくる。
「ミカ神どの! アタシにやらせてくれ」
「もちろん」
飛び上がったルシエルが、眷属器を構える。
「神に、魔族ごときのルールが、通じる訳ないだろぉおおおお!」
ツッコミパワーが眷属器に込められる。
ルシエルはハリセンを一閃させた。
すぱぁあん! という音とともに、ヤブイッシャを頭を打ち砕く。
すぐさま再生するヤブイッシャ。
「ば、ばかな……!? こいつの力量では、わたしを殺すことはできな……ぐべやぁ!」
またも、ルシエルがハリセンで頭をぶち抜く。
「だいたい! 帝都の人間まるごと復活させるって! もうそれ完全に人間のやることじゃあないから!」
すぱーん!
「葬送の邪神ってなんだ! アレのパクリじゃあないか!」
すぱーーーーん!
「まあ確かに魔族殺しまくってるって共通点あるけどさ!」
すっぱぁあああああああああああん!
そう、ルシエルの力は、突っ込めば突っ込むほど、強くなるのだ。
ツッコミどころが多ければ多いほど、威力を増す。
ルシエルはハリセンを何度も振り、ヤブイッシャをボコボコにする。
「ひぃい! ひぃいい……た、たしゅけ……」
「助ける訳ないだろうが! どれだけの人間の命を奪ってきたと思ってるのだ貴様は!」
ルシエルがハリセンを構え、勢いよく祓う……。
「いやだ! 死にたくないぃ!」
「そうやって殺した相手を、おまえは全員殺しただろうが! 報いを受けろ!」
スッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ツッコミ強化されたルシエルの一撃を受けて、ヤブイッシャが完全消滅する。
ふぅ……。
『くそぉおお! こうなったら……呪霊だぁ!』
ヤブイッシャの死体から、死後呪いに転じたヤブイッシャが出てくる。
「はい、お疲れ。【完全削除】」
ぱしゃ、と写メをとると、ヤブイッシャが完全に消え去る。
ふぅ、これでよし。
「ミカ神どの……最初からそれやってくださいよ!」
と、またも突っ込まれる私。
「いやこれ、一回で一度しか殺せないからさ。命を削ってもらう必要があったのよ。ありがとね。お疲れ」




