2-2 俺ダンジョンの謎
「それで、お主のダンジョンはどうなんじゃ。レアリティーからしてあり得ないらしいがのう……」
突然、イドじいさんが俺ダンジョンについて尋ねてきた。
「はあ、N-でした」
「エヌマイナス……それはそれは……」
じいさんは黙った。厳しい瞳。なにか考えている様子だ。
「俺も驚いたんですけど、教師のマニュアルでも、正規のレアリティー分類には載ってなかったらしいですよ」
あの後の教室の大騒ぎを思い出しながら、俺は続けた。
なんでも巻末の「補遺」に、かろうじて記載があったとか。それも「レアリティーカラー『闇黒』は、エヌマイナス。欠番」と書いてあるだけ。詳しい解説はなにもなかったんだとさ。
それを聞くと、じいさんは笑い出した。
「じゃろうなあ……」
「それにしても『ノーマルの下』って、酷いじゃないですか」
「まあのう……。でも結果オーライじゃろうて。奇跡のレアアイテムを発掘して戻ったのだし」
「それも結果論でしょ。これからもあんなアイテムが入手できるとは思えない。ノーマルマイナスですからね」
多分あれは、スライムでありながら人型という、あり得ない存在からもらったアイテムだったからだろう。俺はそう踏んでいた。
エヌマイナスダンジョンの宝箱から、そんなものが次々に出てくるとは思えない。それにあのダンジョンではモンスター討伐はできない……というかしたくない。女の子だからな、相手。ならドロップ品も入手不可能だ。
最初のアイテムでハードルが上がった分、今度は急速にがっかりされて馬鹿にされる恐れだって、充分にある。
「それで、実際それはどんなダンジョンだったの」
「そうですね、カイラ先生」
どこまで明かすか、迷った。学園のクソ教師になんか、教えるつもりはない。俺のことを私利私欲で利用とするに違いないからな。だがこのふたりは別。最底辺の俺を、なにかと気に掛けてくれたし。だから話してもいいのだが……。
「教えてもいいですが、他の誰にも話さずにいてくれますか」
「おお、これは面白そうじゃな」
じいさんは大笑いだ。
「わしの祖霊に誓うわい。赤の他人には明かさないと」
「私も。あのいけ好かない教頭に脅されても、『そんなの聞いてない』と答えるわ」
俺は頷いた。
「まずダンジョンは、屋外型でした」
「ほう……。迷宮ではなく世界があるパターンか」
「そのタイプは、固有ダンジョンの二割程度ですね」
「統計ではのう……。わしのダンジョンもそうじゃ」
「私のは地上型ですが、迷宮の宮殿になってます。真ん中にミノタウロスが待ち構えている奴」
「それで……」
ここからが問題だ。
「モンスターはいませんでした」
「本当? そんなダンジョンがあるなんて、聞いたことはないけれど」
「少なくとも、俺達の知っているモンスターではありませんでした」
「ふむ……」
じいさんが唸った。
「とはいえ、まだわかりません。出会った存在に聞いただけで、俺が見聞きしたことではないので。ただ……出会った存在の話では、その世界のモンスターはすべて擬人化されているとか」
美少女化しているとは、恥ずかしいんでさすがに言えなかった。
「面白いのう……」
イドじいさんは笑っている。
「ではエヴァンス、お主が出会ったのも、人型だったのだな」
「はい」
「たまたま人型モンスターに出会っただけじゃないの。たとえばエルフとか」
「いえ、カイラ先生。俺が出会ったのは、スライムです」
「スライムが……人型」
カイラ先生の口が、あんぐりと開いた。
「それはさすがに聞いたことがないわね。イドさん、どうですか」
「わしも知らんのう、カイラ。……じゃがエヴァンスよ、そのダンジョンは貴重じゃ。レアリティーなど気にするな。そこで冒険を楽しむがいい」
言われなくてもそのつもりだ。俺は黙って頷いた。
「ひとつだけ……言っておこう」
じいさんは、俺の目をまっすぐに見つめてきた。
「そのダンジョンには、ヒエロガモスの地という場所があるはずじゃ。そこを目指せ」
「はい? ヒエロ……なんですか」
「ガモスじゃ」
「聞いたことのない地名ね。どうしてそんなことを知っているんですか、イドさん」
「なにカイラ、わしもいい歳じゃからの」
豪快に笑い飛ばした。
「長く生きておれば、いろんな話が耳に入ってくるでのう……。ほっほっ」
●次話「猫獣人バステト」、新キャラ登場で、クエスト発生!