9-3 新しい「おともだち」
「あっ戻ってきた」
寺小屋へと近づく俺達を目ざとく見つけて、グリフォンのイグルーが立ち上がった。
「おーいおーい。エヴァンスくーんっ」
いつもの羽毛ビキニ姿で手を振っている。寺小屋の「せんせい」ソラスや生徒のみんなが、つられて立ち上がる。見たことのない娘もひとりふたり交ざっている。この世界のモンスターはみんな勝手に動き回るようだし、寺小屋に顔を出すのも気まぐれだ。だからまあ、そういうこともあるだろう。
「外の世界から来た、『おとこ』という謎の存在」――つまり俺の噂を耳にして、興味を持った子が顔を出したのかもしれないしな。
「おかえりー」
「ねえねえ、どうだった」
「穴掘りうまくいったの」
「宝箱、あった?」
質問攻めだ。学習机に座ってお茶をもらいひと休みすると、俺とアンリエッタは教卓の脇に立たされた。もちろん宝探しの首尾をみんなに話すためだ。
「――と、いうわけなんだよ。みんなのおかげで無事、ふたつめの宝箱が手に入ったんだ」
「不思議よのう……」
ハイドラゴンのグウィネスが首を傾げた。
「『ムンムの種』……そのような宝、余は知らんぞ。何百年もの間、聞いたことすらない」
「ムンム……って何? って感じよね」
「そうそう」
みんな、口々に言い合っている。
「とにかく重いんだ。丸っこいから、あれをこう……地面に転がして」
バステトがジェスチャーした。
「両手でじゃらしたら楽しいと思うんだよな」
いやそれ、猫じゃん。
「そうそう。私もそう思う」
コマだけが、うんうん頷いている。こいつネコマタだからなー。
「それでエヴァンスくん……」
先生役のウエアオウル、ソラスが、眼鏡をくいっと直した。
「エヴァンスくんはこれからどうするのですか」
「第三の宝箱を探そうと思っている。みんな……俺達の居ない間に調べておくって言ってくれたけど、なにか情報とかないかな」
「それよ」
グウィネスが頷いた。
「余がひと飛びして、飛行友達が集まる山で聞き込みしてみた。そうしたら、ひとつあるようだぞ、エヴァンスよ」
そういや、飛行型モンスター仲間に聞いてみるって言ってたよな、たしか。空を飛ぶので行動範囲が広く、それに上空から見るのでなにかを探すには最適だとか。
「のう」
グウィネスに促され、「お初」の娘が立った。長い黒髪に赤く輝く瞳。スリムな体はボンデージっぽいボディースーツに包まれ、奇妙なことにフリルの付いたメイドスカートと黒エプロン、白レースのヘッドドレスを装着している。スカートといっても短いから、ボディースーツの下半身がちらちら見えている。
「そうよ。私が前、見つけていたの。険しい離れ山に囲まれた谷底だから、空からでないと近づけない。だから誰も知らなかったのよ」
「へえ……」
つまりこの娘も、飛行型モンスターなんだな。人型になってるから、元の姿は想像もつかないけど。
「何人かのともだちを連れて行ったけれど、誰も開けられなくてね。あなたなら開けられそうね。外の世界から来た……『おとこ』の子なら」
興味深げに、俺をじろじろ見てくる。
「俺達を案内してくれるか」
「もちろんよ、エヴァンス様」
助かった。この調子なら宝箱、次々に見つかるかもしれないな。
とはいえ、前回の穴掘り探索に続き、今回も課題はある。宝箱は、地上ルートが使えない場所にある。俺やアンリエッタが、どうやって空から近づくか。例によって動かすことの不可能な宝箱だろう。だから飛行型の女子に持ってきてもらうわけにも、いかないしな。
「ところで君の名前は」
「私? ルシファーよ。初めまして、エヴァンス様」
「ル……シファー……って」
俺の隣で、アンリエッタが目を見開いた。息を飲んでいる。
「ちょ……ちょっと待てよ」
ずかずか進むと、自称「ルシファー」の前に立った。意外に小柄だ。年頃の女子特有の、甘い香りがする……。
屈み込むように顔を寄せると、フリフリエプロンの膨らんだ胸に、小さな名札が見えた。
――魔帝♡ルシファー――
「マジか……」
魔帝……って早い話、魔王じゃん。圧倒的な魔力を誇る悪逆大魔王が、俺のダンジョンでは、かわいいボンデージメイドさんになってるってのか……。
「わあ、近くで見ると、すごくかっこいい……」
ルシファーは微笑んだ。
「これからよろしくお願いします、エヴァンス様」
俺の手を取ると、頬ずりしてきた。大魔王ルシファーが。かわいらしい美少女姿で。




