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3-2

そんなわけで、バスケットボールの月刊誌を抱えた私は内心浮き足立っている。どこかカフェにでも入ろうなんて言うから二つ返事で頷いて、ブラブラ街を散策しているところ。


こうして藤井くんの隣に並んで歩くのは高校の時以来。懐かしい気持ちと、嬉しい気持ち。あの時よりも一段と凛々しくなった彼の横顔にドキドキと心臓が落ちつかないでいる。


乾いた風がそよりと揺らぐ気持ちのいい午後。

カフェはどこも満員で、しかたなくテイクアウトして近くの公園に赴いた。


公園の端には古びたバスケットゴールがひとつ。


「懐かしいね」

「懐かしいな」


二人ハモってしまい、思わず顔を見合わせて笑う。

この公園は高校の時の帰り道で、藤井くんと帰るときはいつも寄っていた思い出の場所。


「よくここでおしゃべりしたよね」


「したな。あの時は楽しかった」


「うん、私も。藤井くん練習後なのにここでシュート練習始めるし。タフだよね」


「小野田はいつも付き合ってくれたよな」


「だって楽しかったもん。藤井くんのシュート見てるの」


綺麗なフォームで次から次へとシュートを決めるの。まるでボールが吸い込まれていくみたいに綺麗な放物線を描いて、何度でも見ていられた。何も喋らなくても、藤井くんと共有したあの時間はとても幸せだった。


「私……、私ね、藤井くんのことが好きだったよ。ずっとずっと、今でもずっと、好き」


「小野田……」


言った。言えた。……けど、心臓バクバクして藤井くんの方を見ることができない。


長年の想いを口にすることがこんなにも緊張することだとは思わなかった。だけどどこかスッキリとした気分でもあり、やり遂げた感というのか、自分の目標は達成されたようなそんな心持ちだった。


正直、藤井くんの答えは求めていなかった。

伝え忘れたこの気持ちをきちんと伝えられれば、それでいいと思っていたからだ。


だけど――。


「先に言われた」


藤井くんは照れくさそうな笑顔を見せる。


「先……?」


「俺も小野田が好きだよ」


「…………え?」


聞き間違いかと思って藤井くんをまじまじと見るも、彼はやけに照れくさそうに頭を掻く。


「……うそ」


「俺、ずっと小野田に会いたくてさ。高校卒業して留学したらホームシックになったんだけど、でも親に会いたいわけじゃなくてこの寂しさはなんだろうって考えたときに小野田のことが好きだったんだって気づいた。でも今さらどうしようもないしって、諦めてたんだ」


「え……ずっと?」


「うん、ずっとだよ。まあバスケに打ち込むことで忘れようとしてたし、小野田は昔からモテてたからさ、もう彼氏いるだろうなって」


「モテてないし彼氏もいないし」


思わず全力で否定したら藤井くんはぷっと吹き出した。そんな笑顔にもキュンとしてしまう。


あれ? やばい。

藤井くんの答えは求めてなかったはずなのに。

この先の答えがほしいって思ってしまっている。

藤井くんの言葉が嬉しすぎて、どんどん欲張りになる――。


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