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3-1

姿見の前で、ああでもないこうでもないと自分が持ちうる限りの服をあてがって、私は頭を悩ませていた。


というのも、今日藤井くんと会うからで。一体どんな服を着ていけばいいのかわからない。昨日からずっと悩んでいるのにまだ決められない。


別にデートじゃないんだからと思いつつも、やっぱり身だしなみは相当気になるし、少しでもよく見られたいという願望がソワソワと胸をざわめかす。


メッセージを送ったことがきっかけで、藤井くんと会う約束を取りつけることができた。だから私はずっと後悔していた藤井くんへの気持ちを伝えようと思っている。


さて、この先の未来は吉と出るか凶と出るか。


どちらにせよ、私の後悔を晴らすのが目的なのだからあれこれ悩んだって仕方がないのだけど。それでもやっぱり好きな人に会うのは緊張するし、相反してたまらなく待ち遠しい気持ちにもなる。


「……よし、これにしよう」


シンプルなカットソーにフレアスカートを合わせて、フレンチシックに。小さめのショルダーバッグに貴重品を詰め込んで肩に掛けた。


たっぷり時間はあるはずだったのに、あっという間に出かける時間になっていて緊張が高まる。

軽くリップで化粧直しをしてから家を飛び出した。


待ち合わせ場所は駅前の本屋さん。

少し早く着いてしまったから、店内をプラプラ。

自然と足はスポーツ紙のコーナーへ。


バスケットボールの月刊誌を手に取れば、藤井くんの所属するチームの特集ページがあった。藤井くんの写真もいくつか掲載されていて、他にもないのかと探してしまう。


毎月購読している月刊誌はあるのだけど、この雑誌はノーチェックだった。藤井くんが載っているのであれば購入したい。いや、するべき。


「小野田ってほんとバスケ好きだよね」


「ひっっっ!」


突然話しかけられて跳び上がるくらい驚いた。

恐る恐る声の主の方へ顔を向ければ、いつの間にいたのだろう、藤井くんが横に立っているではないか。


「ふ、ふ、ふ、ふ、藤井くんっ!」


「小野田、驚きすぎ。……くくっ」


「やだもうっ、いつからいたの?」


「ついさっきだけど。なんか真剣に読んでるなーと思ってさ。それ、今月うちのチームが載ってるやつ」


「うん、藤井くん載ってるなーって思って……」


って、これじゃあ藤井くんを見てましたと言っているようなものじゃない?


どう言い訳しようか焦っていると「買うの?」と尋ねられ余計に焦った。


「いや、……どうしよう」


どうしよう……じゃなくて、私。

何だろう、こういうときの思考回路ってどうしてこうおかしな方向に進もうとするのか。落ち着け私。


「これ、俺が買って小野田にプレゼントしていい?」


「えっ? いやいや、自分で買うよ。ちゃんとお金持ってるし」


「そうじゃなくてさ、俺の特集ページ、小野田に見てほしいから」


「っ!」


何それ、何それ、何それー!

見てほしいって?

見てほしいって――?


私の動揺をよそに、藤井くんは「あ、俺の特集じゃなくてチームの特集か」なんて笑っている。そしてさっさとレジでお会計を済ませてしまった。

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