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言葉は残酷だ。

たった一言、自分にとっては何でもない言葉が、時に人の心に重くのしかかる。それは逆もまた然り。


「藤井と小野田って付き合ってんの?」


そんな男子たちの会話が聞こえて私は向かっていた足を止めた。

聞かれている相手は藤井省吾くん。バスケ部の二年生。私の好きな人。


私はバスケ部のマネージャーをしていて、藤井くんと同級生で同じクラス。藤井くんとはバスケ部に入ってから知り合ったけれど、仲が良くなってからはたまに一緒に帰ったりもする。


中学の時は私もバスケ部だったけど運動音痴すぎて挫折。私は自分がバスケをするんじゃなくて、男子バスケットボールのスピードと迫力のある試合を応援するのが好きなんだと気づいて、高校では男子バスケ部のマネージャーになった。


飲物やタオルを用意したりたまにボール拾いをしたり、試合の時にはスコアを付けたりと忙しいけれど、男子バスケを近くで見られることがとても嬉しい。


藤井くんはずば抜けて背が高いわけじゃないけれど、誰よりも一生懸命ひたむきに練習する姿を見て気づいたら好きになっていた。


藤井くんは私のことを嫌っている素振りもなく、むしろちょっと好意的に見られてるんじゃないかって期待なんかもしちゃったりして。


だって一緒に帰るときだって藤井くんから声をかけてくれるし、いつも笑いかけてくれるし。でもだからといってどちらかが告白するわけでもなく、仲良しな関係が続いていた私たち。


そんな私たちの関係に疑問が投じられた一言だった。


「お前ら仲良いじゃん、付き合ってんの?」


ドックンと心臓が変な音を立てる。

藤井くんはなんて言うんだろう。

不安と期待で息を潜めて隠れていると、藤井くんの静かな声が聞こえた。


「別に付き合ってないよ」


それはもう、あっさりと。もちろん、付き合っていないのは事実だけど、抑揚のない声からは藤井くんの感情は読み取れない。


「マジ? じゃあ俺、小野田に告っていい?」


「いや、俺に聞かれてもな。好きにしたらいいんじゃない?」


ドックンドックンと、脈打ちながら、背中に冷たい汗が流れた。

目の前の景色が急に色あせて見える。


好きにしたらいいんじゃないって、そんなの、そんなの、――あ、これ失恋だ。


思ったら、私はしばらくその場から動けなくて、彼らがいなくなるまでじっとしていた。この状況で出て行けるほどメンタル強くない。


やがてポロリと雫が地面を濡らす。

ポロリ、ポロリと止めどなく溢れてきて、泣くほど藤井くんのことが好きだったんだと実感したけれど、藤井くんの気持ちは遠くて。


近くにいた手の届く存在だと思っていただけに、ショックは大きかったようだ。

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