乙女の名前
その頃、怡君達はお父さん達と合流を果たしてたんだけど、乙女さん=秋葉さんは浴衣もはだけてあられもない姿で出来上がってたって話だった。しっかり見たなぁ悠斗!
で、また後で聞いた話。
乙女さんは硫黄臭のする霊泉を飲んでその効果を確認すると気持ちをリラックスさせた。
この機を逃さず何日も入浴してない秋葉さんは取敢えずチェックインの前に日帰り温泉にゴー。頭の天辺から足の先まで気の済むまで洗い、温泉を満喫。下着も衣服も全部新しい物に替えて生き返った気分になったって。そりゃ乙女さんもいい気分になって、そこに地元の濁り発泡酒をイン。すうっかり緊張をほぐしまくられた。
宿ではとうとう和牛デビューが待ってて、その旨さの軍門に下らぬ者があるだろうか、いやない。米沢牛の赤身、霜降り、極上霜降りの食べ比べで乙女さんは蕩けましたさ。
秋葉さんは乙女さんに語り掛けた。
「乙女さん。あなたの時代にあらへんかった美味しい物をたくさん食べはったでしょ。時代の変化を信じられへんでも美味しいは事実なんです」
「皇尊も今は武蔵、名前も変わって東京におわします。乙女さんには無念やろうけど土蜘蛛ももう退治されて久しい年月が経ってしもてるんです。どうか心安らかになって下さい」
「私の身体でよかったら貸しますから、思いっ切り美味しい物食べて呑まはって下さい」
久し振りのお風呂で気分がスッキリしたお父さんが酌をして、大いに呑んで食べたんだって。
秋葉さんとお父さんはその夜、久し振りの柔らかい布団で眠ったんだけど同じ夢を見たそうだ。
笛や金の音、琴なんかの伴奏に合わせて女性が唄いながら踊る夢だ。古墳時代の巫女神楽だと思うと秋葉さんは語ってくれた。
音楽や唄は素朴で古風な旋律だった。唄は声が綺麗だったとしか覚えてないけど、土俵のような土盛りの中央で、古墳島田を結った中年女性が弓を片手に踊る姿は優美だったって。乙女さんはやっぱり西の巫女だったんだって確証したのは装束品がシンプルだったからだ。顔も赤色で飾ってないし、襷じゃなくて袈裟っぽい服の上を胸の高い位置に帯を締められてた。
踊る途中に矢を儀礼的につがえるだけで何度か梓弓を鳴らした。すると放たれたモノは波紋を描い散り人々を、空間を祓い浄化したんだ。秋葉さんもお父さんも祓ってもらったんだって。
「おき」
最後に女性はそう告げたんだけど、それが乙女さんの本名なんだって秋葉さんは直感した。
連泊予定だったから朝は宿の人も放っておいてくれた。
アルコールの臭いに閉口して続き部屋で丸まってた小雪と八弥斗は、ちゃんと朝ご飯前にお父さんが散歩に連れてってくれたんだよ。
朝食も美味しいってまたお酒。そりゃ出来上がりもするよね。
お父さんは乙女さんから自由になったことを実感して秋葉さんの酒に付き合ったし、怡君が着いた頃は外湯めぐりを楽しんでたそうだ。浮かれて仕事関係や子供達に連絡するのも忘れて、解放の喜びに浸ってた。
巫女形埴輪は長卓の上に置かれて大福とお酒が供えられてたんだけど、埴輪を手に取って怡君は大層お冠になった。
「これどういうことなのよ!埴輪がただの埴輪になってるじゃない!」
浴衣の胸倉を掴み、起きねばビンタもお見舞いする勢いで秋葉さんに詰め寄った。
「おはようジュンちゃん。いい朝やね。グッモーニン、ボンジュール」
「どうしてこうなっちゃった訳なのかな?理由を述べなさい理由を!」
「何がどうなったって?」
「埴輪がただの埴輪になってるっての!これじゃ使い物になんないでしょ!何の為に忙しい中で連日あんた達を追い掛けてたと思ってんの?」
それが目的でしたか。
「ジュンちゃん美味いは正義やで~。日本列島何処行ってもお酒もご飯も美味しいわあ。よくぞ幸せの国に生まれたもんやわ。幸せ幸せ。山菜の天ぷらもウドの和え物もお酒によう合うし、幸せぇ。あらお父さんまでおる」
大地さんとお祖父ちゃんは一升瓶の残りを味わってたんだって。
「ほい、お疲れさん。キレイに上げてやったみたいだな」
「うん?そう?影も形もない土蜘蛛追うのもええ加減疲れたんちゃうかな?心配かけてごめんな。ま、温泉に入ってゆっくりしたって」
ジュンちゃんも綺麗でおちゃけも美味い、なんて唄ってたって。一体どれだけ吞んだんだろう。
「やってらんない!この埴輪がいくらになったと思う?喉から手が出る程欲しがって、億出すような連中がいるんだよ。何度か使ってから売りつけてやるつもりだったのに」
「アハハ、ジュンちゃんは阿漕だねぇ。生命力が強くてそういうとこ大好き~」
「私は大っ嫌い」
はだけかけた浴衣を思いっ切り開いてポイッと布団の上に捨てた。すっげぇー。大地さんはおちゃらけてるけど紳士だから目を逸らしたって。逸らさなかったのは悠斗だ。こらっ。
「こうなったら帰る。大地運転して」
「ええ~。俺も疲れたやん。温泉にゆっくり浸かって疲れを落としたいやん。それにもうおいちいおちゃけも呑んでもうた」
「一杯や二杯位で運転出来ない程柔じゃないでしょ」
「お巡りさんに捕まっちゃうかも」
「罰金なら私が払って上げるわよ!」
そんな怡君をお祖父ちゃんが宥めた。
「まあまあジュン。呑んでないのに自分で運転しないのはそれだけジュンも疲れてるんだろうが。姉がこんなですまんな。折角だからお前も休んでおいきよ。僕もホッとして疲れをどっと感じるんだ」
「ジュンちゃん、兄弟ってこういうもんだよ」
どういう意味かな悠斗君。
怒りの納まらない怡君だったけど、温泉の効能が美肌だったから、秋葉さん蹴飛ばして外湯巡りに行ったんだって。
けど怨霊に対峙した私達はまだそれどころじゃない。美味しい終わり方してない。フルーツたっぷりのデザートピザは美味しかったけど。
「弥生ちゃんをどうするつもりだ?」
「あいつ分かるみたいだったから口止めして監視してたのよ。面倒だからあたしの人形にしちゃおうとしたら抵抗してさ。うざいから殺してやろうとしたのに、こんなガキに助けられたからって余計なことベラベラ喋りやがって。お陰で母親にバレちゃったじゃない。警察が動いたんでしょ。母親から再三連絡があったけど全無視してやった」
「お母さんに菜々子は必要じゃなかったのか?」
「無視するのは今だけ、ほとぼりが冷めたらまた連絡するわ。私が捕まったってまだ未成年だし、人を殺したんでもないからね。元やくざの私の手下が、桜子だっけ?あの子を叩いた奴が今頃自首してるもの。ガキ共の証言がどうでも大人のやくざが自首したらそっちを信用するでしょ?」
確かにそうだ。
「前向きだね」
「菜々子は可哀想だったけど、結局魂は消えちゃったの。身体は貰う約束ではあったけど。あの子はこんな体どうでもいいって本気で思ってたんだから、正真正銘あたしは何にもしてないわよ。綺麗だし前の人生より楽しそう。きっと上手くやれる。手を組もうよお兄さん。JCは、好みなんじゃない?」
意味あり気に区切って私を見る。
「冗談抜かせ。俺は成熟した大人が好みだ。JCなんざお呼びじゃねぇよ」
「へぇ、綺麗な子連れてるのに?それだって後数年も待てばの話じゃない」
「で?手を組んで俺に何をさせようって?」
話題を変えるのに無理矢理感がある。
「この子みたいに鬱陶しく下手な正義感だして祓いに来る奴がいるのよ」
「そいつらからお前を守れって?お前を祓いたくてうずうずしてんだぜ俺は」
「バカな奴。後悔するよ。この身体だって…」
「菜々子ちゃんは本気で身体が要らなかったんだろうな。だとしても例えればそれは違法契約だ。約束を果たしてやったからって歩、お前の物にしていいものじゃない」
「その名前を呼び捨てするな」
本気で苛ついてる。名前を知られるって支配の第一歩だからね。
「どうして?お前の本物の名前と身体じゃねぇか。死んだからって無しには出来ねぇぞ」
「この…」
菜々子が固まったみたいに制止する。
「ここでは止めとけ歩。人様に迷惑が掛かる。死霊になって忘れちまったか?」
食べかけの皿の陰になってるけど中村歩の人型の中心に針が刺されてた。
スッと抜くと菜々子が吐息して固まりが解けた。
「弥生ちゃんをどうするつもりだ?無事なのか?」
「五月蠅いから猿轡はめてあるとこに居させてるよ。友達を傷付けたって騒ぎやがって。それまではあたしに怯えてた癖に」
「それが友情ってもんだろが。歩にだって生きてた頃はいただろ?死んでキレイに忘れちまったか?それとも友達の一人もいない惨めな人生だったか?性格的にそれっぽいよな」
「ふざけんな」
「それなのに結婚を考えてた男に振られた?相手に女でも出来たかな?三十代後半じゃあきついよな」
「くそ野郎!」
きゃあっ、悲鳴を上げたのは菜々子の方だった。突如として肩に怪我をして血が滲み始めてる。師匠が自分の前にひらひらさせた人型の、肩が少し焦げてる。
「自分は大切にしろ?」
「JCを苛めて楽しむ性癖かよ!」
「俺、バイだけど、どっちかってぇと男の方が好きなんだわ。男の範囲は広いが女は十代以下と五十代以上は圏外。あ、死霊はさらに圏外だからな間違えんな」
「クソが!」
「冷めちまったけど俺は飯を平らげてく、歩はさっさとこっから出てって俺に対抗する準備をしろよ。出来たらの話しな」
「絶対後悔させてやる」
美少女が美しさをドブに捨てて鬼の形相で吐き捨て、男達を従えてカフェを出てった。
見届けてから師匠にきつい目で睨まれる。
「アメリカでも働き詰めで、LINE一行で日本に帰らされて、帰国の疲れも取れない内にこれですか?俺働かされ過ぎじゃね?この件は身内案件だから吹っ掛けらんねぇんだぜ」
「偉い師匠!しかも死霊も惚れさせる程いい男だったとは。ハンサムではあるんだけどさ、死霊に口説かれるとは思わなかったよね。何処から見てもいい男なんだよ師匠は。その上頼りになるしねぇ」
「白々しい」
「まあまあ吹っ掛けて下さいよ秋葉さんに」
「秋姉に払わせるつもりかよ」
「お母さんが無一文になった時に金銭的なことは頼っておいでって言ってもらってるもん。それに秋葉さんが埴輪に乗っ取られなかったら、師匠を呼び返すこともなかったんだし」
「呼び返したのはジュン姉だからそっちに請求する」
「そっち⁉」
「そっち、しかも掛け持ちだ。お前に教えなきゃなんねぇ」
「ほえ?」
「何だぁその返事は?俺が式神出したのはちゃんと気付いてたろうな?」
「見えなかったけどJCの手にそっと手を重ねたとこで飛び立ったよね」
「式神は何してるでしょうか?」
「残穢を辿って弥生を捜してる!」
「バカ言え。あの子はきゃあきゃあ騒いでもそんなに弱かぁねぇんだ。お前に守られてるから安心して頼り切ってるだけでな」
「うう…」
耳が痛い。
「じゃあ何を捜してるんですか師匠?」
「お前バカじゃないはずじゃなかったか?」
「ええー、師匠なら歩を祓えるんじゃ」
「俺が優しい男だってこと忘れんな」
「!死体!もしかして本体って」
食べかけのパスタセットを食べ終えると、師匠はメニューを睨んだ。本日のケーキとエスプレッソを注文する。
「お前は自分が出来るからって基本をすっ飛ばす傾向があるからな。相手の実力を推し量れるようになれ」
「いい訳ですが、祓える相手だと思ったんです」
「本気出しゃあな。九字切っただけで菜々子ちゃんごと塵だ」
「いえいえそこまでは」
「その中間が難しいんだよお前には。あの手の怨霊祓うにはまだまだ自己流を脱してねぇんだ」
「ぐっ」
「祓えるってことだけは理解してるから過信して足を掬われる」
「ぐぐぐ…」
「お前の本気の祓うは塵にすることで除霊や浄霊じゃねぇ」
「ぐぐぐぐぐぐ…でもでも小さい奴は昔っから祓えてたんだよ!」
「お前、祓うのによく紙飛行機使ってるよな」
「はい」
「それが何処に飛んでったか確認したことあるか?」
「探したけど見付けられたことない」
「そのはずですよ。最後に塵になっちまうんだからな」
「そんなバカな」
「お前の祓うは台風でアリを吹き飛ばすと同じなんだよ」
「ひええ。そこまで言う?」
「しかもさっさと始末をつけたがるから索敵能力が上がらねぇ」
「索敵能力って、私はレーダー持ってない」
「索敵能力はレーダーだけじゃありません。式神使って敵の残穢を手掛かりに本体を探したり、憑りつかれた肉体に触れて怨霊の名前を探り出したりってなことだ」
どっちも師匠が中村歩にして見せたことですね。はい。
「ハンサムなお師匠様が何を言いたいか判るか?」
「何でもかんでも塵にしないことと索敵能力の強化」
「が、う、ち。基本をちゃんと終えるまで大物祓う時は、師匠や怡君にバックについてもらえって話だ。アンダスタン?」
質悪いけど左程大物だって思わなかったなんて絶対言わない。
「それはそうと師匠、遺体を引き揚げるってどうするの?私は背中怪我してるからあんまり兵力にならなくて申し訳ないんだけど」
「帰国早々そんなことするかい。茜さんとも約束してるしな。人脈を頼る」
「師匠人脈が広そうだもんね」
「お前も知ってる人だ」
あ…、零班、ですか。
公安の中でも特殊な班なんだから本当は軽々しく頼ったりしちゃダメなんだよ。うちは身内が零班で事件としても関わったことあるし、向こうでもスカウト対象にしてるみたいだから特別なだけだからね。
凄いよ~、日が暮れる前には引き揚げ隊が編成されて、人の少なくなった湖面に乗り出してた。
私達はとある橋の近くの駐車場に車を停めると、夕陽が沈む中、橋の上からその様子を眺めてた。師匠はスマホで場所を指示してる。
場所がピンポイントで判ってる訳だから作業自体は短時間ですんで、野次馬もそんなに増えなかった。
中村歩は自分の死体が浮かばないように重しを腰や足に括り付けてたんだ。
それで見つけて欲しかったって?
「なんだか話が早いね。零班の実力って奴かな?」
と呟くと師匠から答えがあった。
「零班でも調査されてたみたいだな」
「中村歩を?」
「それに力を与えてた物を」
「はいー?」
未練を残して亡くなった魂の怨霊化っていうのはままあって、基本その程度の物はよっぽどのことがないと零班は見向きもしない。そういう部署じゃないからね。
なんだけど、去年辺りから何故か全国的に霊的なモノの動きが活性化してるんだって。で、その根本に古代の遺跡が関係してるのが判明してきた、って話なんだ。
「活性化?」
「不審死が増えてるってことだ。突如としての活性化には地球の周期だのじゃなくて、人間が関係してるのが判明したんだ。誰が何の理由でそんなことをしてるのか探ってる最中で、思い当たることがあったら情報を寄こせとさ」
「誰かが中村歩に力を与えた?」
「厳密には古代の遺跡を覚醒させようして、その余波で歩が分不相応な力を得た。でなきゃイジイジこの世と自分を捨てた男を呪いながら湖底に沈んでたろうよ」
「湖底に遺跡なんてあったんだ」
「ダムが完成したのは戦後すぐだ、充分な調査もなくダムの底に沈まされたってことだな」
「でも遺跡があったことを知ってた人がいたってことだよね」
「どうかな?レイラインだの龍脈があるだろうが。まあレイラインなんざどうとでも線を引ける訳だが。龍脈だって道を変えることもある。ただ血管みたいに力の線は走ってはいる。助けを借りることもあるんだしな。大地の血管の上にあれば遺跡同志が触発されて活性化もするさ」
それで埋もれた遺跡を発見することもあるんだそうだ。
「歩が沈んでた近くに遺跡も沈んでる。それは零班が調べることになるだろうな。零班にしたらそっちが主目的なんだからな」
遺体は完全に白骨化してた。
追加情報として、師匠の見立て通り中村歩の自殺は失恋が原因だった。二十代から付き合って、三十代後半になって別の女と結婚すると告げられた。彼女は本気の恋だったけど相手はただの遊び相手、所謂セ〇レだとしか思ってなかったんだ。書置きを彼の部屋に残して自殺したんだけど、恐らく狂言だと判断されて相手にされなかったから、生存を確かめられもせずに湖底で今日に至ったんだよね。
うん、家庭の事情が複雑だとさ、男女関係も簡単にどっちが悪いって見方になんないんだよね。男の騙しのテクニックが巧かったのか、遊びでもいいからって付き合ってもらって、その内本気になってくれると期待してたってのもあるしね。物語にするなら理由なんて幾らでも考えつける。
相手の男は結婚して子供も生まれて順調に出世してたらしいのに、最近一家揃って不審死を遂げてた。何も家族まで巻き添えにしなくたって。
きっと復讐の味をしめたんだろうな。
なんだか背中の傷がムズムズと痛痒くなってきた。薬が効いてないんじゃなくて、何かが傷から侵入しようとしてる感じ、やたらを神経に障るんで無意識に全身に力がはいった。「むん」と力を発散させると可視化できない何かが剥がれてった感覚があった。
「お前ときたら…」
「何ですか師匠?」
「今の無意識にしたろう?」
「はい?」
「無意識に祓う癖が着いちまってるから索敵能力が上がらねぇんだよ」
「祓ってた?私?」
「……」
師匠ったらそんな目で見たら嫌です。
「悠斗でなくお前が禍ツ神の器に選ばれなかったのはそれだな。不快だと無意識に祓っちまう。反対に悠斗は相手の聖邪なんざ拘らずに受入れちまうからな」
やっぱそう思いますか。
「問題ですよね」
「それが心得違いってんだ」
「え!」
「車に戻るぞ、きちんと準備して中村歩を祓いに行く」
とっとと背中を向けられてしまった。
産土神に地場の産物って割と威力があるんだよね。師匠は御神酒に地酒を用意してからボートに運んだ。夜のボートは危険だから情報料に零班から一艘と一人借りれたんだ。
そしたら吃驚、ボートに居たのは既知の人物で、アフリカで悠斗がお世話になった渡辺さんだった。
五十過ぎの背は長身手前で太ってるんじゃないけど肉付きは悪くない人だ。親父とか兄貴的な位置にいっちゃう面倒見の好い人なんだよ。それで一流の陰陽師なんだ。
そんな人が渋い目をして私達を見てる。良識人のそういう目は辛いなぁ。
「金鵄が飛んで来たってぇから来てみたらお前達か。金鵄は穂那実が飛ばしたのか?」
目立つ物飛ばすんじゃない悠斗。
「私じゃないです弟なんですけど」
「悠斗か…あいつはなぁ。零班にスカウトされたくなきゃ目立つことはするなって言っといてくれ」
「はい、じゃあ最後まで追えなかったのは?」
「うちの連中が捕まえようとして失敗したんだ」
それで弥生の居場所を最後まで探れなかったんだ。相模湖周辺の建物に入ったとこで誰かに式神を消されたとは聞いてた。
悠斗、私達姉弟は慢心してるよ。帰ったら二人で反省会だ。
「久保菜々子のことも調べさせてもらった。昨夜の事件は昼前にやくざが自首してきたって話だ。確認の為にお前に話を聞こうと警察が家を訪問したのに不在だったってな。無理して怪我は大丈夫なのか?担当刑事も心配してたぞ」
「傷が疼くんで動かずにいられなかったんです」
「ハードボイルドだな」
なんでそうなる?
「菜々子さんの苛めも聞きました?」
「苛めグループがひでぇ死に方した後、久保菜々子の交友関係がべらぼうに広かったってのも聞いた。その誰もが久保に人形のように従ってるってな。新興宗教団体だって?」
渡辺さんは失笑する。本来の意味での失笑だよ。
「辻褄合わせに友達が…、友達の親戚を悪くは言えないじゃないですか」
「目撃の多いマンションを捜索したらビンゴでな。久保には逃げられた。同じ年頃の少女と一緒にな」
「弥生だ。因みに菜々子ちゃんに憑りついてる怨霊の正体は中村歩だって突き止めたのは、うちの優秀な師匠です」
視線が師匠に移った。
「アフリカ以来だな」
「会わない方がいい相手だってのは承知してますけど、会えて嬉しいですよ」
「師匠も大変だ、長谷川姉弟が弟子だとな」
「怡君にも扱き使われて暇なしですよ」
「そっちの方の情報も欲しかった。船を出すにしてもまだ時間があるだろう。話を聞かせろや」
「船が確保出来たら腹拵に行くつもりだったのにぃ」
思わず言葉が出ちゃった。
「あんだけ食っといてもう腹が減ったってか!アメ車並みの燃費だな相変わらず」
「怪我を治すにも栄養がたっぷり必要なんです。ってか渡辺さん何処で覗いてたんですか!」
「部下からの報告だ。弁当買ってこさせるからそれで我慢しろ」
「成長期なんですよ私」
「前に会った時も成長期っつってたけどな。何処か成長したか?」
私の瞳孔は開きまくった。
「三cm弱…。厳密には二・三cm…」
「ほぼ同じじゃねぇか、栄養は何処に消えてんだ?」
私は言ってやりましたよ。
「トイレ」
目を閉じて渡辺さんは眉間に手を添えた。
「おじさんが悪かった。何が食べたい?」
人生勝ち負けじゃないけど、勝った!
天下のグーグルル・マップを拡大すると、出鱈目な湖岸の曲線の合間、湖の中に「しめ縄」とだけ記された場所がある。それは湖の底に沈んだ村で祭られていた神を祭ったものだ。
深夜の月が丸い。完璧な満月じゃないけど、ほぼほぼ満月。月明かりに岸で夜釣りをしてる釣り客の姿が浮かび上がる。結構いるもんだな。
森に近付くともう虫の声が騒がしい。電灯に羽虫がジャンジャン飛んで来て閉口した。初夏を迎えて生命力が溢れ出す緑と土と水の匂いを暗い分敏感になった鼻が嗅ぎ取って咽そうだ。
しめ縄の内側にボートを付けると師匠は灯を絞って、揺れないようにして舳先に神饌を並べてく。作業の間も祝詞を何度も繰り返してた。
「とほかみゑみため
かんごんしんそんりこんだけん
はらひたまひきよめたまへ」
「産土神にお力をお借りするんだ。神饌は決まりに囚われずに地場の物がいい」
なので米に塩、お神酒として地酒の一升瓶が二本、釣り客から買った大きなブラックバス、地元で加工されたハムのアイスバインとバインシンケン。産直市場で揃えた地場産の野菜と果物だ。
「仏教が浸透したから神様へのお供えでも生臭物を避ける傾向になっちゃいるが、神様は本来生臭物が大好きなグルメなんだ」
師匠はそう言って神饌を揃えたんだ。
そして中村歩の人型と久保菜々子の人型を重ねて置く。
「お前は神通力に溢れてるから独力で終らせようとするが、大きなモノを祓うなら産土神に任せた方が自然に終わるんだ。悲劇だがこの土地で起こったことだからな」
最後にそっと湖に身を浸して禊ぎをした。背中に怪我があるから私は絶対出来ない。まだ水も冷たいのに。濡れた服を私の目を全然気にしないで用意しておいた新しい服に着替える。神主や神職の装束じゃないシンプルな服だ。
渡辺さんは口出ししないで見守ってくれてる。
「そこまでしなきゃダメな相手なの?」
「怨霊の大小は関係ない。産土神にお任せする時の礼儀みたいなもんだ。歩は死亡日時が不明だしな少し頑張ってもらわんと。始めるぞ」
ボートに上がると榊を手に、中村歩と久保菜々子の名を唱え生年月日を告げてお神酒を一本中身を全て湖に捧げる。
この場が清浄地になって空気が変わる。冷たいだけじゃなくて清い。
暗闇から突然それを破壊しようとする者の声が届いた。
「やっと見つけた!何やってんのよ、止めなさいよ!菜々子がどうなってもいいっての?」
灯も持たずに暗い森を歩いて来たんだ。吃驚する。灯を絞ってるから目を凝らしても全身が見えない。
「歩、お前の身体は揚がったぞ、本当の身体がな」
「もうこの身体が私の本当だ!菜々子から復讐の対価に貰ったんだ。違法だろうがどうだろうが知るもんか!」
灯が乏しくて声しか頼りにならない暗闇で、私は必死に目を凝らして弥生の姿を捜した。歩の背後にノロノロと動くものの気配がある。
「弥生!私だよ」
反応がない。
「あんたもいるんだ。子供が歩いていい時間じゃないよ!」
夜目にも真っ赤になった目が私を射竦める。怒ってる怒ってる。当然っちゃ当然ですけどさ。やっぱ背筋がひんやりする。深夜は怨霊の時間でもあるしね。
歩がもっと近付くと後ろにぼうっと弥生の白い顔が浮かび上がる。
「この世に死霊の闊歩する場所はない。今なら浄霊してやる、観念して黄泉路を辿れ」
「絶対嫌!」
少女が癇癪起こしたみたいな口調で、泡を吹く勢いで拒絶する。
「あたしは今度こそ幸せになるんだ!」
「人生は一度きりだ。だから悔いなく生きなきゃならないんだ」
「知った風な口を利くんじゃない若造が!菜々子の母が悲しむ姿が見たいのか?」
「見たい見たくなじゃない。それが天地の理だ」
「嫌だ嫌だ嫌だ。折角若くてキレイな身体が私の物になったのに!絶対に離れない」
「その割には粗末に扱うじゃないか。お前、自分の身体なら綺麗でもパパ活なんてしたか?」
昼間と同じ問いに瞬間歩の動きが止まった。
「他人の身体だから人生だから、都合よく粗末に扱って気にも留めねぇんだろうが。それを菜々子の母親は喜ぶと思うか?赤の他人に娘の身体がいい様に扱われて。そんな奴に娘の身体を使って欲しいと思うか?その状態を菜々子本人が望むか?それが厭で堪らなくてこの世から魂を消しちまったんだろうが!」
菜々子ちゃん、私達みんなをあなたは知らないけど、弥生も桜子も克美も、私だってそれでも生きていて欲しいと願ってたんだよ。そりゃこの世の誰にもあなたの幸せは保証出来ない、幸せは自分でなるものだから。けどどうか生きてそうなって欲しかった。
「最初に汚したのはあたしじゃない。今更な話じゃないか。もうどう扱おうとこの身体はあたしのもんなんだ!」
唾を飛ばして叫ぶ様は醜悪そのものだ。
「お前の復讐だって終わってるはずだろう。家族諸共捨てた男を憑り殺したんだ。それで終わりにしちゃどうなんだ?」
「それがどうしたってんだよ!そんなの私の味わった苦しみには何にもなりゃしないんだ!私は菜々子だ」
この女気色悪い。けどいくら気色悪くても私が手を出しちゃダメなんだ。歩がどんな人間だろうと祓う私達がそこまで堕ちちゃダメだ。この国に生まれた人間として祓ってやらないと。そしてそれは師匠の役目だ。
「癪に障る!分かったお前は殺してやるよ。見てくれがいいからいい思いさせてやろうと思ってたのに!人の好意を無にしやがって、後悔しやがれ!」
枯れ枝が次々に師匠を襲うが、易々と払われた。
「器を一度でも手に入れた死霊は、器が老いれば必ず新しい器が欲しくなる。絶対だ。それは赦されない。従う気がないなら、強制的に除霊する」
「やってみろよ!」
何本も束になった蔓が首を襲うのを払いながら、師匠は「布留の言」を唱えた。
一二三四五六七八九十
布瑠部 由良由良止 布瑠部
この一から十までは十種神宝を表している。
瀛都鏡 (おきつかがみ)
邊都鏡 (へつかがみ)
八握劔 (やつかのつるぎ)
生玉 (いくたま)
足玉 (たるたま)
死返玉 (まかるがえしのたま)
道返玉 (ちがえしのたま)
蛇比禮 (おろちのひれ)
蜂比禮 (はちのひれ)
品物比禮 (くさぐさのもののひれ)
『ギヤーーーーっ』
と死霊の悲鳴が上がった。
その神宝の霊力で怨霊を調伏する、その気になれば死者を生き返させられる位強力な祝詞なのだ。
弥生が心配で堪らなかったけど、調伏が終わるまで一切合財手を出さないと約束させられてしまってる。歩の後ろの闇で弥生らしい影がゆらゆらするのを見守るしかない。どうか無事でいて。
「産土神のお力賜れ。死霊となりし中村歩を祓い給え、久保菜々子を浄め給え休め給え」
師匠がお神酒以外の神饌を湖にそっと落としていく。どれ一つとして浮かんだりしないで水に消えた。
「や、止めて!」
弱々しい菜々子の声が懇願する。
「お兄ちゃん、菜々子苦しいよ。お願い止めて、菜々子を助けて」
その可愛い声の主を捜して、助けるよと約束したくなる声だった。
助けたかったよ菜々子ちゃん。
一二三四五六七八九十
布瑠部 由良由良止 布瑠部
もう一度「布留の言」が唱えられると巨大な半透明な手が何かを菜々子ちゃんから剥ぎ取ってしまった。力を失くした身体がその場に崩折れる。
『嫌だぁ!あの世になんて行きたくないぃ。助けて!なんでもするから助けて』
半透明の中年の長い髪の女が足掻いてる。これが中村歩なんだ。
『ねぇ助けて、もう悪さはしないから!』
今更なんだよ。
『誰にも迷惑掛けない。ひっそりと暮らす、約束する!』
私はもう歩を視なかった。いつの間に動いたのか渡辺さんが気を失った弥生を抱えてくれてた。
叫び声が途絶えて、迫るような虫の声と匂いが戻って咽そうになった。
そのまま弥生を連れて帰ることは出来なかった。連れて帰るならその間のことを人々が納得するような説明を考えつかないといけない。菜々子ちゃんが遺体になった理由や死因を疑問を抱かせずに説明するなんてとても無理な話だ。だから二人の久保さんは渡辺さんに任せて私達は一足先に帰宅したんだ。
帰宅して一本残したお神酒を開栓して師匠は失望した。中身は一滴残らず産土神に持って行かれてしまってた。
「お下がりとして残して下さらなかったか。いけず…」
私はお祖母ちゃんに明るく「ただいま」というところまで頑張った。
「穂那実!」
車を駐車場に入れるとすっ飛んで出て来てくれたんだ。お祖母ちゃんに強く抱きしめられると、背中は痛かったけどホッとした。ホッとしたら身体を支えてらんなくなって、気が付いたら懐かしい自分のベッドの上で、ゴールデンウィークもとっくに終わってた。
身体が重い。小雪が上に乗ってた。
信じられなかった。そりゃ怪我もしてたし疲れてたけど、何日も眠る程だとは考えてもみなかった。ただお祖母ちゃんが雑炊を作ってくれた時だけたまに起きて口に運ばれるままに食べてたらしい。食い意地が汚いのは幼い頃の貧困の所為なんだよう。
その時も鶏ひき肉ともやしの中華風雑炊の香りに誘われて目を覚ましたんだ。幼児期の貧困が…。
「良かったわ。幾ら何でもそろそろ病院に連れて行かないとって、修吾さんとも相談してたの」
「お祖母ちゃん、心配かけてごめんねありがとう」
途端に一度にみんなの名前が浮かんで、誰の名前を最初に出せばいいか分かんなくて「みんなは?」って訊いたんだ。
悠斗達もとっくの昔に帰宅してて、大地さんはいつの間にかふらっといなくなったらしい、お礼を言いたかった師匠はアメリカにトンボ返りしてた。お父さんは私を気にしながら仕事に出掛け、悠斗は当然中学だ。
ベッドの傍らには布団が畳まれてる。私の部屋に泊まり込んで文字通り付きっ切りでお祖母ちゃんは看ててくれたんだ。
「お祖父ちゃんや怡君は?」
「怡君は仕事に出掛けてるわ。良平さんは車椅子を離れられたのが嬉しくて堪らないみたい。ここの庭も気に入ってね、菜園の世話をしながら、わんこ達とアジリティしながらなんとなく一日庭にいるわ」
私の上の小雪に苦笑する。
「お祖父ちゃん良かった。それで…」
「お友達でしょう?弥生ちゃんは無事で良かったわ、翌々日にお母様と一緒に来てくれたのよ。桜子ちゃんと克美ちゃんだって何度もお見舞いに来てくれてたのに、あなた目を醒まさないんだもの」
すいません、夢も視ずにぐっすりです。
「皆さん心配して下さってたんだけど、桜子ちゃんと克美ちゃんはちょっと怒ってたかな?抜け駆けして私達を連れてかなかったって」
それは後に当人達に平謝りすることになる。二人だって行きたかったよね。
「菜々子ちゃんのことはどうなったか知ってる?」
「――」
話したものだかどうだか悩んでる感じだったから、「お願い」と瞳に力を込めてお祖母ちゃんを見詰めた。
「恒平は渡辺さんが上手くやってくれたって、中村さんって方のお葬式を上げたらアメリカに帰ってったの。お骨は知り合いのお寺の無縁墓地に葬ったって伝えてやってくれって」
約束を守ったんだね。
「弥生ちゃんのお母様はとっても怖がってたわ」
警察は菜々子ちゃんの死因を服毒に因る自殺だとした。
克美達の口からの出任せが上手に使われてて、新興宗教団体が手入れを受けた際に数名の信者は逃げた。その内に菜々子ちゃんと弥生が含まれてたんだけど、相模湖畔の森で公権力に団体が弾圧された際に飲むようにと指示されてた薬を飲んだのだ、と説明されたそうなのだ。
「口止めだろうって、私背筋が冷たくなって鳥肌が立ちました」
おばさんは蒼褪めて身震いした。弥生のその間の記憶はぽっかり抜けてるんだけど、それは誘拐された際に何らかの薬物を服薬させられたからだ、ということになったらしい。信者のほとんどが服用させられていて、それで易々と教祖に服従したんだと。そして信者達が犯した犯罪にも意識が希薄で、悪い夢から醒めたようだったのはその所為なのだろうと。
以上が警察の見解だった。
未成年なので菜々子ちゃんのことも弥生のことも公表されず隠密に処理されるとおばさんは結城刑事に告げられて、菜々子ちゃんが亡くなったと分かってからお母さんの絵美さんとも全く連絡が取れなくなったから、おばさんはその事だけは心から安堵したんだ。
弥生はほぼ何も喋らずに「穂那実さんには酷い目に遭わせてしまいました」と俯いてたって。
ゴールデンウィーク最終日に訪れた際、菜々子の遺体を引き取った絵美さんはおばさんにも身内の誰にも報せずに、直葬、最近耳にするようになった通夜や告別式をしない火葬式なんだけど、それをして遺骨を持ち帰ったのだと、結城刑事に告げられたことを話したそうだ。それでまた連絡を取ろうとしたけど、やはり通話もメールもLINEにも返信はないのだと。
その日は弥生のお母さんの麻由子さんはお祖母ちゃんと二人長いこと話したんだって。
シングルマザーで一人娘という境遇まで同じの、従姉妹がどんな気持ちでいるか考えると、他人事でないだけに我が子が帰って来ても素直に喜んでいられない。夜も眠れないのだと。
ごく普通に生きてたおばさんが想像も出来ない苛めを菜々子ちゃんは受けた。それは人間として女として母として、色んな角度から麻由子さんを慄かせた。
苛めグループが全員不幸にあったとしても、苛めは終わっても菜々子ちゃんの苦しみは終わらない。それで元々神社仏閣にお参りするような菜々子ちゃんが新興宗教にのめり込んでも仕方ないことだと思うし、娘を支える従姉妹にしてやれることがあるなら寄り添ってやりたいとも思ってた。
如何わしい宗教に弥生を巻き込もうとしたのは赦せないが、気持ちは解からないでもないから憎めないし、一言も謝って来ない絵美さんを責める気はあるが、独りで抱え込んで苦しんでいるのを思うにつけ、絵美さんの身が案じられてしかたがないのだと。
お祖母ちゃんはただただ聴いてたって。
「聞いてあげるしかないの。元気づけたってすぐに元気になれる訳ないじゃない。しばらくは麻由子さんにも苦しいばかりの日が続くのよ。口にはされてなかったけどマンションだって跡始末しなきゃならないんだし、仕事だってしなきゃ生きていけない。知った風な口なんて気に障るだけ」
「そうだね」
日々が続いて行くというのは、苦しくても生きて行く為のあれこれをしなきゃならないってことだ。
「弥生が心配だな」
「だったら夕方起きて待ってなさい」
どういうことだろうと思ったら、学校が始まってから夕方三人揃って私のお見舞いに来てくれるのだという。勿論、弥生、克美、桜子の三人だ。
「今日もきっと来てくれるわよ」
お祖母ちゃんが空の器を下げに降りるとしばらくしてお祖父ちゃんが顔を覗かせてくれた。疲れさせたくないからって、十分程だったけどお喋りした。