プロローグ
表向き失踪して死亡届が出されてる、陰陽師を副業にしてたお祖父ちゃんに会わせてもらえたのは、無事志望高校に合格してからだった。私からしたら楽勝だから受験期でも全然問題なかったんだけど、どちらかっていうとお祖母ちゃんとか叔母の秋葉さんの心の問題だったんだ。
お母さんは蚊帳の外。お祖父ちゃんが失踪してからのお祖母ちゃんは、コツコツ仕事するのが性に合わないって、お金持ちの男性を食い物にしてた(母談)から、そんな母の選んだ男なんて父親だとしても最低な奴に違いないって思い込んでて、今に至るも父親の話題に興味を示さないんだよね。
お母さんって思い込み激しいから、真偽とか確認したりしないでずっとそうだって思い込んで自分の真実にしちゃうタイプ。それを修正するのってすっごく体力も精神力も使うから、最早誰も真実を知らせて思い込みを是正しようなんで欠片も思わない。そういうとこ損だと思うんだけどな。
それに私と弟の悠斗は一昨年再婚したお母さんとは同居してない。交際してた頃に悠斗と喧嘩して飛び出して、お相手んち、夏秋俊平さん宅に泣きながら駆け込んだんだ。で、とんとん拍子に婚約、妊娠発覚、結婚と怒涛の展開でさ、バリ島で出産して日本に帰って来てからもずっと俊平さんちにいる。
そんなんだから身内、肉親とかっていっても色々あるんだってわかるんだ。それには俊平さんの長男の眞宙がうちにいたことも手伝ってる。私と同い年だから東京の高校受験して今は一人暮らししてるんだけど。二人が人目も憚らずラブラブってでさ、父と息子のどちらも退かない性格ってのもあって、妹の柚巴ちゃんみたいにお母さんのとこに駆込むのも向こうの家的に微妙、っていうのがあったらしく、それで我が家に転がり込んでたんだ。その頃はまだうちのカッコイイ実父とは暮らしてなかった。
ま、眞宙の祖父とうちの祖父は従兄弟同士だから身内でもある。
お手伝いの黒谷さんはいたけど、それでも子供だけじゃ、って感じでお祖母ちゃんや自由業の秋葉さんは頻繁に来てくれるようになって、俊平さんの弟の恒平さん(陰陽道を私達に教えてくれてるから師匠って呼んでんだけど)はほぼ居候になっちゃった。
だからその頃から我が家は賑やかになった。いつだって親戚やら彼らの友人やら誰かが家にいるんだもんな。引っ込み思案でなくて良かったよ。
秩父で借りてた家も広くて、それもあるよね。借りる時に私と悠斗で広い家じゃないと嫌だってお母さんに耳タコしたって経緯があってね。お母さんそれにキレて十LDKの家の見取り図持って帰って来て、広過ぎて最初は笑っちゃったよ。結果的にはそれが良かったんだ。
先祖代々秩父で農業に従事してたおうちだったから、家も庭もよく手入れされてた。邪霊や物の怪の類もまるでいなくて綺麗だったんだ。そんなおうちでも子孫は農業から離れちゃったんだよね。
借家をお父さんが買い取って家主として引っ越して来てからも賑やかなのは変わんなくて、変わって欲しくなかったから嬉しかった。
以上の出来事で私が学んだのは、人間ってとんでもなく我儘で譲らなくって、その癖子供とか親とかちゃんと愛してるってこと。それぞれの人生もあるから一番シンプルでいい方法とかも取れなくて、この場合で最善って方法になるんだね。
人に訊かれたら、私も弟もそれはそれなりに楽しんでるんだけど、説明がうざいから、かといってそういう素振り見せたら変に思われるんで、色々要約して話してた。
それがお祖父ちゃんに会わせてもらう前の私の状態。
遅くなりましたが、私は長谷川穂那実といいます。