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シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第一部: 終わりと始まりの日 - 第五章: グレイシュバーグの胎にて
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第二十二話: 鬼女の見送り、下層の一行

 一方的に用件だけを告げ、謎の“声”はまた沈黙してしまう。

 以後、こちらが何を言っても応じてくれないのは前回と同様である。


「とりあえず、声の主が何者かは()いておくとして……、『この地から解放してやる』と、そう言っていた」

「素直に考えるのなら、この山脈のことでしょうね」

「下山するためには何かが足りていなかったと言うのかな。行けばパスポートでもくれるとか?」

「くすっ、ハイヤーを手配してくださるのでは?」


 冗談はともかく、またカーゴで()()なく旅するよりは希望があるかも知れない。


「これは、お誘いに乗るしかないだろうなぁ」

「罠の可能性も低くはありませんけれど」


 確かに、僕らを異世界人と呼び、まるで意図が分からない一方的な招待を告げてくる相手など、なるべくなら関わり合いになりたくないところだ。

 だが、ここで引き返して(ほこら)を後にしたとしても、得体(えたい)の知れない奴の手を逃れられるのか? それに、申し出を受けなかったことを後悔せずにいられるかどうか……。曲がりなりにも、この異世界で初めて出逢った言葉の通じる相手だ。貴重な情報を得るチャンスを棒に振るのか?


「いや、残念だけど、ここで会わないという選択肢は選べない」

「選択の余地がないというのは困ってしまいますね」

「他に頼れる者がいれば良かったんだが。最大限に警戒はしつつ、会うだけ会ってみるとしよう」


 僕たちの方針が決まったことを察したのか、二人の女性ケオニがこちらへ近付いてきた。

 そして、手に持つ角灯(ランタン)を差し出してくる。


「貸してくれるのか?」

「ギッ」

「そうか、ありがたく借りておこう。ここまでの案内に感謝するよ」

「ギギッ、ゲファウ」


 僕の礼に対し、女性ケオニはフンっとばかりに顔をそむけ、『別にお前たちのためじゃない、勘違いするな』とでも言いたげな鋭い声を上げた。

 なんとなくだが、感謝の意図が通じたような態度だと思える。


 借り受けた角灯(ランタン)は、(まばゆ)く光るテニスボール大の石を動物の骨による細工が囲む、凝った作りだ。

 燃料を入れたり、石を交換できるようにはなっていないが、使い捨ての道具だとも思えない。だとすれば、燃料()らずの永久光源? ひょっとすると不思議石材の一種なのだろうか。

 なんにせよ、光量は十分なものがあり、あって困る物ではなさそうである。


「グレイシュバーグ、ギーギオグ」


 最後に、警告ないし激励だろうと思われる言葉を赤毛ケオニが発すると、三人の案内役は扉の手前に固まったまま、こちらを見送るような雰囲気を(かも)し出した。

 彼女らの役目はすべて終わったということだろう。


 謎の声に従っていただけなのだとは思うが、短い間ながら彼女たちには世話になった。

 最初に出逢ったのが戦士団ではなく彼女らだったら無駄な戦闘を()けられただろうに……いや、それはあり得ない仮定か。

 門番の戦士団を(くだ)したからこそ謎の声に認められ、僕たちはここまで案内してもらえたのだ。

 それに、今後、再びケオニ族と敵対する可能性も決して低くはない。謎の声だってまだ味方と決まったわけじゃないのだから、無闇(むやみ)に情を移しすぎるのは危険だろう。


「それじゃ、行こうか」

「はい」

「みにゃあ!」

「ばうっふ!」


 三人の女性ケオニを後に残し、僕らは巨大な扉をくぐり抜けた。



 扉の先は、目に入る限りにおいて、特にこれまでと変わったところもない石造りの回廊だった。

 高さと幅もそれぞれ五六(ごろく)メートルといったところか。

 そんな回廊が正面と左右の三方向へ、ずっと遠くまで真っ直ぐ伸びている。

 やはり、いくつかの扉が壁に備え付けられており、その点でも印象はまったく変わらない。


 不思議石材によって空気が循環しているためか、(にお)い、熱、湿気……などの(よど)みも感じられず、閉鎖された地下施設の割りにさほど不快感はなかった。

 そう言えば、多数のケオニが暮らしていた上階でも、あまり(くさ)いとは思わなかったな。


 だが、やはりこのフロアにも生き物の気配はあった。


 もちろん、ケオニたちが生活している気配などは何一つ(うかが)えない。

 たたたっ!と何かが石の床を走る音、ダンッ!という乱暴に扉を開ける音、様々な鳴き声まで、耳を澄ませば長い回廊の先より絶えずそれらが押し寄せてくる。


 どれも近くの音ではなさそうだが、間違いなく数は多い。

 そのすべてが安全な小動物だなどと考えられるほど、僕たちは楽な旅をしてきてはいなかった。


「……いやいや、道案内が引き上げるには早すぎたんじゃないか?」

「結局、邪魔者を排除しながら、どことも知れない目的地へ向かうことは変わらないようですね」


 思わずぼやく僕らの声に、当然、女性ケオニはもう答えてくれたりはしない。

 先ほどまでのように、彼女たちが無口で無愛想だからではなく……。


 背後にそびえる大扉が、僕らの通過後すぐ元通りに閉ざされてしまっていたからだ。


 もはや前へ進むしかない。

 こうして、この下層――地下大迷宮の探索が始まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なるほど、声の主に合わないことには、この雪山を下山できない可能性があるんですね。 それでは確かに、合わないとこの先後悔しそうです。 ケオニさんたちも初めに思ったよりは意思疎通もできるよ…
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