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シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第一部: 終わりと始まりの日 - 第五章: グレイシュバーグの胎にて
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第十七話: 異世界生物に困惑した二人

 それは、僕たちがまだ異世界へ来て間もない頃、巨大グマの死体を解体したときのことだ。

 獣の解体をすること自体、ほぼ初めての体験だった当時の僕らではあるが、それはどう見ても地球の動物にはありえない特徴として、(しば)し、頭を悩まされてしまった。


 胴体のほぼ中心、心臓の下、肝臓の裏側辺りに存在した大きな石のような何か。


 初めは胆石(たんせき)(たぐい)かとも思ったのだが、ちょうど涙滴型(るいてきがた)をした薄黄色いソレは、見ようによれば宝石と呼べなくもない独特の美しさがあり、結局、そのときは廃棄する内臓や血液とは別に取り分けておくこととして考えを保留した。


 やがて、雪原で狩猟を始めた僕たちは、どの生き物も体内に同様の石を持つことを知る。

 色や大きさは種類ごとにまちまちながら、形や質感はほとんど変わらないそれらに、異世界の不思議をまた一つ実感したものだった。

 とは言え、何の役に立つでもなく、精霊術で加工することもできない小さな石である。十個も集まった頃には二人ともすっかり興味を失い、手に入れる度に倉庫へと放り込むばかりとなり、次第に存在すら意識しなくなっていった。


「本当に何の役にも立ちませんでしたから」

「ああ、最初はおはじき(ヽヽヽヽ)にして遊んだりしてたんだけどなぁ」


 それらが少しだけ脚光を浴びたのは、チビどもを養い始めた頃である。

 こいつらのエサとして、僕らは解体時に余る内臓を主に与えていたのだが、この石も気にせずバリバリ食べてしまう様を見て、試しに倉庫の一画で小山を成していたソレをやってみたところ、どうやら好物らしいと判明、それからは処理を任せることになったのだ。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「食べたのはあの石か!? ケオニも体内に持っていたんだな?」

「にゃあ」

「ベア(きち)が完全に快復するため、必要だったのですか」

「わふっ」


 そうだったのか。

 山小屋(バンガロー)で療養していた間はどろどろの病人食ばかりを与えていたし……いや、一応は小動物の石も食べていたか? それでは足りなかったのか、あるいは、もっと大きな石が必要だった?


「なんにせよ、お前が元気になってくれて嬉しいよ、ベア(きち)

「ええ、本当に良かったです」

「にゃっ」


 どうやら必要だったのは石だけのようで、二頭はもう戦士ケオニの遺骸には興味を示さない。

 ケオニとベア吉は少し似たところがあるので、共食いに目覚めたのかと心配してしまったが、そうでなくて一安心だ。


「わふぅ!」

「な、なんだ? どうして怒ってるんだ」

「また松悟(しょうご)さんがおかしなことをお考えになったのでは?」

「別におかしくはないぞ。ベア吉とケオニが似てると思っただけで――」

「ばわっふぅ!」


 いや、毛むくじゃらだし、すぐに怪我(けが)が治るし、鼻面だし……ちょっと似てるだろう。

 一層強く(とが)めるようにグリグリと頭を押し付け始めたベア吉を「すまんすまん」と撫でながら、僕は気を取り直し、大幅に脱線してしまった話を戻すことにする。


「それはそうと、お前ら……だ!」


 言いながら、生き埋めになっている二人の弓ケオニへと目を向ける。

 月子とチビどもも弛緩(しかん)した空気を引き締め直し、僕の言葉を待つ。


 ここまで、やけに大人しく、まるで殊勝な態度で沙汰(さた)を待っている風にも見える弓ケオニたちではあるが、今更言うまでもなく、実際に何を考えているのかまでは分からない。

 胸から下を固い地面に埋められ、身動きが取れず両手だけを地面に広げる二人の前に座り込み、あぐらをかいてスコップを地面に突き立てた。


「ギギッ」

「ギギギッ」


 小さな声を上げ、拳を握り、二人はこちらを()め付けてくる。


「やっと落ち着いて話を聞いてもらえそうだな」

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