第十五話: 縛られた鬼と立つ男
いろいろあったが、僕らはどうにか祠の玄室門入り口を守るケオニの制圧に成功した。
バイキング風の戦士ケオニは二人が氷ダルマ、一人は丸焼き。
そして、弓ケオニは二人が生き埋め、一人はボロ雑巾のようになって【大地の楔】で拘束中。
ちなみに、ほぼ無傷で生き埋めになっている弓ケオニ以外の生死はまだ確認していない。
岩石の手で拘束中の弓ケオニは、空中で意識を失うまでヒヨスになぶられ続けていた奴だ。
全身の傷は治ってきているものの、身動き一つせずぐったりとしている。精神的なショックが大きかったのだろうか……。
こいつらをどうするか、それが問題だな。
「火傷を負った方は早く楽にして差し上げた方が良いのではありませんか?」
「それも慈悲だとは思うが……」
異世界、中世ヨーロッパに準ずる文明度、他に人がいるのかも分からない高山に住む蛮族……捕虜の扱いなど定められているはずもないので、捕らえた僕たちが処遇を決めなければならない。
殺す、解放する、交渉材料にする、懐柔する、奴隷にする……思いつくのはそんなところか。ろくな選択肢がないなぁ。いっそのこと、このまま放置してしまおうか?
戦闘を終えた僕たちは、一旦、砦まで戻り、カーゴビートルに乗り込んでベア吉と共に改めて戦場跡までやって来ていた。
その間、奥の玄室門は扉を開け放たれたまま、戦闘不能となった六人のケオニたちも変わらず残されていたのだが、現在に至るまで新たな増援が出てくる様子は見られない。
意外なことに、生き埋めになっている弓ケオニも騒いだりせず、ずっと大人しくしていた。
ふむ、この様子なら改めて交渉を試みてみるのもアリかも知れないが。
「ともかく一人ずつ状態を看てから決めよう」
「はい」
「にゃあ」
「……わふぅ」
カーゴの中と外でじっと座っていたヒヨスとベア吉も、僕の言葉に賛同するかのように鳴いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
確認した結果、丸焼きになった奴だけは全身の火傷が治る様子もなく、完全に虫の息だった。
ボロ雑巾になった奴もあぶなそうな状態に見えるのだが、こちらは徐々に傷が治ってきており、ケオニどもの不死性を考えれば、意識が戻るまではどうなるか分からない。
意外にも、氷ダルマには余裕がありそうだ。ヘタをすれば体内まで凍っていてもおかしくない状況にも拘わらず、白目を剥きながら時折「ゲヒッ」と下卑た笑いを漏らし、ちょっと死の危険がありそうには思えなかった。
なんとなく、月子の目が据わっている気がしたが、見なかったことにしておく。
僕らは、火傷で瀕死の戦士ケオニAを生き埋めの弓ケオニたちの前まで運んだ。
やはり特に声を上げるでもなく、その様子を眺めていた弓ケオニだが、僕がスコップの先端を戦士ケオニへ突きつけると、嘲笑いや哄笑ではない「グッグッグッ」という深い笑声を漏らし、二人揃って首を斜め上へクイっとしゃくって見せた。
「はぁあああ……」
「松悟さん、よろしければ私が――」
「やめてくれ。君にさせられるか、こんなこと」
「みゃ?」
「……わうぅ?」
「いいって、気を使わなくても大丈夫だよ」
月子ばかりかヒヨスとベア吉にも心配されてしまうとは、気持ちを表に出しすぎだな。
まぁ、チビどもなら何も気にせずやってくれるのだろうが、もう覚悟は決めてある。
既にここまでしてしまったのだから、しっかりと最後まで自分の手でケリをつけよう。
そして胸に刻む。
これは、重傷を負った奴を楽にしてやるため、止めをやるのではない。
僕たちが生きるため、襲ってきた相手の生命を奪う……いや、奪ったのだと。
「火の精霊に我は請う、燃える刃を成せ」
請願に応じ、スコップの先端が火をまとう。
僕はそれを大上段に振り上げた後、戦士Aの首へ向かって真っ直ぐ叩き下ろし、転がっていくその頭を見送ったのだった。





