第七話: 異世界人?と戦う二人
連中を制圧するつもりならば、当然、まず最初に狙うべきは弓矢をおいて他にないだろう。
三人一組で攻め込んできたバイキング風の戦士たちも気になるものの、やはり脅威となるのはあの強弓だ。旋風に守られた砦までは届かないと言っても、自由に撃たせていては不測の事態が起こらないとも限らない。
「火の精霊に我は請う、燃えろ」
特に動きをイメージしなければ、虚空に浮かんだまま、その場で燃え続けるバレーボール大の火の玉……それが、この火の精霊術【火球】だ。
めったに雪と風が止むことなく酸素も少ない高山環境で、問題なく燃え上がってみせる様から分かる通り、この火の玉は、出現してしばらくの間は周囲の環境に影響されないという驚くべき性質を持っている。試したことはないが、おそらく水中や真空中でも使えるのではなかろうか。それでいて触れるものを焼く力だけは普通の火と変わらない。
更に、射出するイメージで願えば、丸い形を維持したまま真っ直ぐ高速で飛んでいく。
つまり、【火球】は、たとえ暴風の中であっても吹き散らされることなく直進する!
戦士ケオニの頭上を越えて弓ケオニを狙う軌道をイメージし、火球を次々と撃ち込む。
その多くは躱され、外れ、防がれてしまうも、いくつかは奴らの長い毛や身にまとった衣服を燃やし始めた。
意外なことに、連中は随分と火を嫌っているようだ。
火球が降り注ぐと途端に算を乱し、こちらに対する弓矢の攻撃がピタリと止む。
「ヒヨス、月子、バイキングの方を頼めるかい?」
「バイキン――あ、はい、行けます」
「にゃっ!」
既に透明迷彩によって姿を消しているヒヨスが一声鳴いて飛び出していく。
……と言っても、砦の外壁を蹴るシュタッ!という軽い音が聞こえただけで、僕にもその姿はほとんど捉えきれない。
しかし、ヒヨスが戦闘を始めたことはすぐに分かった。
「ギギャッ!?」
こちらへ向かってくる戦士ケオニの一人、向かって右側に位置する奴――仮にC――の構えた丸盾が、目に見えない衝撃を受け、いきなり腕ごと大きく跳ね上げられたのだ。
おそらくは、透明化しているヒヨスの尻尾攻撃だろう。
「水の精霊に我は請う――」
すかさず、無防備になった戦士Cの肩口を目掛け、月子が精霊術を放つ。
空気中の水分が凝結し、鋭利な五枚の花弁を持った氷片と化す、水の精霊術【雪花の刃】。
複数の手裏剣……いや、氷の花が回転しながら飛び、目標の胸・肩口・上腕をそれぞれ大きく切り裂いた。
どれも決して浅くはない傷である。しかも、傷口より噴き出した血が流れるそばから凍りつき、見る見るうちにCの上半身左側を真っ赤な氷で覆っていってしまう。
腕の自由が利かなくなるほどではなさそうだが、負傷自体のダメージも相まって、大きな盾を掲げるには苦労することだろう。
「ガァアアア!?」
続けて真ん中のやや後方にいた一人――戦士Aが叫びを上げる。
攻撃を喰らったCの方へ意識を傾けた一瞬の隙を衝かれ、背後より不可視の斬撃を受けたのだ。
脚の後ろ、ふくらはぎ辺りを突然斬りつけられたAは体勢を崩し、そこへ間髪も容れず月子の【雪花の刃】が襲い掛かっていく。
途切れることなく続く透明化したヒヨスの奇襲と月子の精密射撃の連携に、戦士ケオニたちは手に持った棍棒を振るうことさえできぬまま翻弄され、やがて三人がお互いに背を預ける円陣を組み、こちらへ向かってくるどころではなくなってしまう。
そうして前衛の戦士ケオニ隊が足止めされてしまえば、後衛の弓ケオニ隊はもう止むことなく降り注ぐ僕の火の雨に右往左往するばかりとなった。
弓というのは、基本的に極めて繊細な武器であり、特に熱や湿気は大敵と言って良い。
ましてや、中世以前の複合弓となれば、火の粉に炙られただけであっても弦や合成部分などが伸縮してしまい、ひとたまりもないはずだ。
一つ、また一つと、手に持つ弓が焼かれてゆき……。
やがて、弓ケオニ隊の全員が、使いものにならなくなった弓を床へ投げ捨てた。





