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シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第一部: 終わりと始まりの日 - 第四章: 果てなき雲上の尾根にて
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第二話: 二人の新生活

 洞外活動は無理をしない範囲で行っていく。

 今更ながら、そんな当然のことを肝に銘じつつ、しばらく控えめに採集をしている僕たちだが、それでも食料や素材は一切不安がないほど順調に貯まってきている。

 この日も雪舟(そり)には、満載(まんさい)とまでは行かずとも、十分な量の収穫物を積んで帰ってこられた。


 岩屋の中まで()いてきた雪舟から積み荷を下ろし、種類ごとに解体や下処理などを行った後、次々と玄室の倉庫まで運んでいく。


 いつものことではあるが、この搬入作業はなかなかに大変だ。

 みす……月子が精霊術で造りだした土人形たちが手伝ってくれはするものの、自動的に下まで運んでいってくれるわけではなく、僕らが同行して操作してやらなければならないため、結局は一緒になって岩屋と玄室を幾度も往復することになる。


 ピっピっ♪ ピっピっ♪


 収穫物を担いで洞窟内を進む八体の土人形を、月子がホイッスルを吹きながら先導していく。

 実を言うと、僕にはホイッスルが何の役に立っているのか、よく分かっていないのだが、まぁ、彼女のすることにそうそう無駄があるとも思えないし、改めて確認する必要性はなかろう。


 ピピ~♪ ピっ♪


「ふぅ……、おつかれさま、月子」

「おつかれさまです、松悟(しょうご)さん」


 玄室の入り口――門の前に到着した僕たちは、土人形たちを整列させながら、互いの労を(ねぎら)う。


「大した距離でないとは言え、坂道を何度も往復させられるのは年寄りには(こた)えるよ。やはり、いずれはここまで雪舟を入れられるようにしたいところだな」

「松悟さんはお若いと思いますけれど、そうですね。結局はそうする方が楽かも知れません」

「そうと決まれば、明日辺りから少しずつ洞窟の通路を整備していこう」

「はい、とりあえず門を開けますね。地の精霊に我は請う(デザイアアース)――」


 月子の請願(せいがん)に合わせ、玄室の門が開け放たれる。


 と、そのとき!

 突如、玄室の中から小さな何かが姿を現し、僕たち……いや、前にいる月子へと飛び掛かった。


 僕は反射的に登山杖(ステッキ)を振るい、それを叩き落とそうとする、が。

 その必要もなく、月子はあっさりとその何かを両手で受け止めてしまう。


「にゃあ」


 安堵(あんど)する僕の耳に飛び込んできたのは小さな鳴き声。

 いや、飛び掛かってきたときから目では認識していた。

 ただ、頭では理解できていなかったソレは、軽く前屈みになった月子によって膝の高さほどでそっと捕らえられた、掌サイズより少しだけ大きな白い生き物……子猫であった。


「どうして猫がいるのでしょう?」

「どこから入り込んだんだ」

「にゃっ」

「……わふぅ」

「「え?」」


 戸惑う僕らの耳に続けて飛び込んできたのは、また別の鳴き声。

 聞こえてきた方向――足下(あしもと)へと目をやれば……。


「クマ?」

「子グマですね」


 そこには、いつの間にか、ころころとした小さな黒いクマがすり寄ってきていたのだった。


     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 玄室の中へ入ったところ、この二匹の出所(でどころ)はすぐに判明した。

 一目で分かる、あからさまな痕跡が残されていたのである。


 玄室の中央にある円舞台――談話室(サロン)の左右に転がっているのは、大きな穴の空いた二つの球だ。

 淡く鈍い利休色(りきゅういろ)の緑と黄でそれぞれ塗られている二つのまん丸い玉である。

 それらは、まったく同じように穴の外側へ向けて破片を散らばしており、見たところ、中身は空っぽ……となれば(おの)ずと答えは導き出される。


「卵だったかぁ」


 これらは元々、緑色と黄色に淡く光り輝いていた。

 手触り、見た目、ほどよい温かさが良いとして、座席の横に調度品として置かれていた物だ。

 つまり、眼前に転がっているのは、例の二つの宝玉、そのなれの果てなのである。


 いやはや、まさか正体が生き物の卵だったとは想像もできなかったよ。


「ダチョウの卵なんて比較にならない硬さと大きさだったからなぁ。それに――」

「どう見ても哺乳類のようですけれど、卵から(かえ)るのですね」

「絶対におかしいだろう!」

「にゃあ!」

「わふぅ!」


 月子に抱かれた白い子猫と僕に抱えられた黒い子グマが抗議するかのように鳴き声を上げた。

 いや、サイズや重さまで全然中身と合ってないし、明らかにおかしいからな?


「まぁ、百歩譲ってそれは()いておくとしようか。だけど、そんなに馴染(なじ)んでいて良いのか? お前たち……」

「みゃ?」

「わぅ?」

「何か問題が?」

「いや、たぶん問題は大ありだと思うんだが」


 そう、この小さな猫とクマは僕らとは因縁浅からぬあいつらの特徴を備えている。


 生まれたばかりだとは信じられないほどに丸まると太った黒い子グマ。

 白い毛皮に淡い灰色の斑点模様をうっすらと散らした子猫……いや、子どものヒョウ。


「僕はそいつの親の仇だぞ、きっと。それに僕らは、こいつらの親を食べたんじゃないか?」


 (しば)し、二匹の反応を待つ僕たち……だが。


「……にゃあ」

「……わふ」

「特に気にしていないようですね」

「どうやら、そうみたいだな」


 二人きりの異世界生活に、いきなり二匹の同居人が生まれてしまったらしい。

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