第二十二話: 二人二人と去って、さて
僕が打ち上げた精霊術の烽火が効を奏し、ほどなく見回りの従士たちが駆けつけてきた。
「あああ! リーダー! いましたよ! こっち、こっち、こっちッス!」
「そっちか。ちょいと、坊! また一人で揉め事に――」
「いやいや、今回は僕じゃないよ? そこの【真っ赤な絆】の活躍だから」
「ホントでしょうねぇ? とりあえず、首突っ込んでないってんなら良いですけど」
「うん、僕は事が収まったところで烽火を上げただけ。ひどいな、すぐ疑ってさ」
『いや、そもそも一一〇番通報は事件を見付けたときにするべきだろう……まったく』
「ライレが先に突っ込んだせいで機を逸しちゃったんだよ」
こう見えて僕は領主の子という立場にあるので、たとえ領内でも一人でふらふらうろついたり、些細な揉め事であろうとほいほい首を突っ込んだりするのはよろしくない。
……いや、すまない。言いたいことは分かる。これまで散々そうしてきて今更だよな。
けれども、近頃の村は新参者が増えて治安も悪化傾向、いいかげん僕だって自重を覚える。
「クリスタ姉さんみたいに、護衛が務まる手下でも連れ歩きたいところだね」
『一応、ファルーラを専属として付けられているが……流石になあ』
と、独り言めいた会話をしている間に、関係者たちの聴取はあっさり終わっていた。
二人の酔っぱらいは頭を冷やしたか、自警団に大人しく従ったため、罰金と禁酒一週間という軽微な罰で済まされそうだ。鞭打ちや強制労働は疎か、晒し台に上げられさえしない。
ただし、この後、酔いが覚めるまで自警団の詰め所に拘留されることとなる。
一方、アザマースとライレも態度の悪さから軽くお叱りを受けてしまう。
然もあらん。渦中に相手を煽るような態度はいただけなかった。刑罰まではなくて幸いだ。
やがて、速やかにこの場の収拾をつけた従士たちは、酔っぱらいどもを連れて引き上げていく。
「ところでさ、俺はこの後どうすりゃいいのよ?」
「【名指し】を成功されちゃったら神殿へご報告に行くことになってるの。二人一緒にね」
己の立場を思い出したアザマースの疑問には当の星娘――シイリンが答える。
ちなみに、そこから先は、二人でアドニス司祭の祝福を受け、巫女に伴われて領主へお目通り、皆が見守る中で祝いの言葉と各種賞品を受け取る……という流れになっているはずだ。
「あーね、そいや他の奴らもやってたっけえ? そーいうイベントね。ライレは知ってたか?」
「……お、おう、まあ、決まりくらいはな」
今夜、既に数組のカップルが【名指し】を成功させ、マティオロ氏の前でお披露目されていた。
そのことに、ようやくアザマースも思い至ったらしい。
「だけど、領民じゃない君たちの場合、休日なんて貰っても困るでしょ? そこは残念だね」
「そうなんですよ。元々、明日はお休みのつもりで空けてましたから、ちっとも嬉しくないです。どうしようかな……ねえ、ライレ、あなたは――」
「ンだよ、俺のこたぁどうでもいいだろ」
「む、何よ、それ? 感じ悪いわね」
領民の場合、もれなく課されている労働義務――賦役が免除され、有り難がられるのだが。
「宿や酒場でもいろいろとサービスしてもらえたりするから聞いてみたらいいよ」
「あ、言ってたかも。だったら明日はそういうの回ってみようかしら」
「なあ、俺、まだ状況よく分かってねんだけど、神殿だっけか? 行くならさっさと行かね?」
というわけで、会ったばかりだが、この場でシイリン並びにアザマースとはお別れである。
「ライレ、ほいじゃ、ちと行ってくるわあ」
「ライレ、また後でね。お祭りだからってあんまり騒いじゃダメよ?」
「……ああ、じゃあな。……分かってるって、うっせえな」
連れ立つ二人を、祭り会場となっている神殿前広場へ送り出したところで、僕らは用を足しに向かう途中だったことを思い出し、競い合うようにトイレへと直行した。
その帰り、ほんの数十メートルばかりの夜道を歩きながら、僕はおもむろに切り出す。
「さて、ライレくん」
「な、なんだよ、白坊ちゃん。改まってよ」
「いや、少しだけ気になったことをハッキリさせておきたくてね」
と言うのも、今夜の【真っ赤な絆】三人の行動にはいくつか不可解な点があるのだ。
それが意味するところには大凡の察しが付いており、おそらく大した話にはならないはずだ。
しかし、あまり人に聞かせたい話でもない。
ちょうど二人きりになったここいらで少し突かせてもらおうかな。





