最終話: 二人の路逝き、神の祝福
「それで、えっと、どこまで話しましたっけ? もう全部話したってことにしちゃおうかなぁ。……でも、こういうとき絶対後になって忘れてたの気付くんだよね。なんか、ほら、大事なこと。あ! そうそう、チートですよ、チート。みんな大好き、チート!」
「チート……つまりは、いわゆる才能という認識でよろしいのでしょうか」
「勉学にしてもスポーツにしても、それが確かなものとして授けられるなら次の人生での大きな助けになるだろうな……ん? そう言えば生まれ変わる先はどういった世界なんだ?」
「言ってませんでしたか? って、そうだ。テンプレ異世界じゃこの人たちに通じないんだった。もお!! いちいち脱線させるからですよ! 私、順番に話せないとダメなんですよ! 謝って!!」
「ご、ごめん」
「申し訳ありませんでした」
いちいち脱線させてるのは神ちゃんの話し方が要領を得ないからなんだが。
曲がりなりにも神様の端くれだけあって理不尽だな。
『まぁ、車が脱線しないだけ御の字か。運転に集中しているせいで理路整然と話せないんだろう』
「まずですね、あなたたちが送られるのは中世風ファンタジー世界です」
「何と言ったか、確か……いわゆる『剣と魔法のヒロイックファンタジー』で合ってるかな?」
「おお! だいたい合ってます。月子さんの方はご存知ありませんか? 中世ヨーロッパに近い文明レベルで、王様と宗教の権力がすごく強い感じですね。剣だの槍だの弓だのでしょっちゅう戦争してて、あと、神話とかお伽噺とかで伝えられてるような魔法が現実的な技術の一つとして広まっていて、ついでに妖精さんやモンスターがそこらで暮らしてる世界です。分かります?」
「なんとなく理解できました」
……中世ヨーロッパか。
大丈夫なんだろうか? ひ弱な現代人にとって決して生きやすい時代ではないよな。なんなら、生まれ変わった瞬間に死んだとしてもおかしくはない。
そうか、てっきり現代的な文明社会で人生をやり直せるのだとばかり。考えが甘かった。
「いえ、松悟さんが想像しちゃってるリアル中世よりは生きやすいと思いますよ。なんたって、魔法がありますから、ある面では近代……いやさ、現代をも超えてます。チートもあげますし」
「不安は残るが、元々は神罰ってことらしいし、過酷だとしても受け入れるよ」
「だいじょぶですって。ネガってるなぁ、もお! 詳しいことは現地で生きて覚えてってもらいますけど、わざわざ送るのに、いきなり死なせたりしませんよ。私を信じて任せといてください」
「「……」」
彼女の言動のどこに信頼できる要素があるというのか、美須磨と共に返す言葉を失う。
これは最悪も覚悟しておかなければならないかも知れない。
「それでお待ちかねのチートなんですけど、内容はこっちで決めさせてもらいました」
「要望を聞いていただけるわけではないのですか」
「ええ、はじめはリストの中から選んでもらおっかと思っていたんですけどねー。お二人とも、あんまし詳しくないなら強くて汎用性が高いのをあげちゃう方が良いのかなって思って。あー、そうそう。これ内緒にしといてくださいね。けっこうとっときのレア能力なんですよ」
「ちょっと待って。内緒と言われても、生まれ変わった先で大っぴらにできない力なんて困るぞ」
「え? どんどん使ってくれて良いですよ?」
「ん?」
「ん? あー、内緒っていうのは言葉の綾です。上司とかに見つかると困っちゃうんで。今回は魂だけ送ることになってるんですよねー。記憶の引き継ぎもコストに見合わんからやめようって言われてて。でもこちらの都合で人生終わらせておきながらお詫びもないとか人道的にどうなの?って私なんか思っちゃいますよね。人道? 神道? かしこみかしこみ」
「それはそれで問題はないのでしょうか?」
「このところ羽目を外し過ぎちゃう転生者さんが増えてて社会問題になってるんですよ。世界のシステム壊した挙げ句、神殺しだーっとか言って乗り込んできたり。でも、お二人ともそういうタイプじゃなさそうですしね」
それはまぁ、たとえ力があったって世界や神様に喧嘩を売る趣味はないな。
希有な才能を与えてもらう以上、できれば世のため人のため有効利用したいとは思っているが、僕個人としては今度こそ平穏無事に人生全うできるなら、それで十分だ。
とは言え、こんな風に神様都合で突然人生終わらせられたりしたら、自棄になったりする人がいるだろうことも理解できなくはない。
「まー、なんにしても、お二人はあちらの世界に行った後はもう自由にしてくれて良いですよ。また神様が出てきて強制リセットみたいなことは起きませんから。あ、逆に、依怙贔屓したりもこれ以上はできませんので悪しからず」
正直、保護観察付きの執行猶予を受けるイメージだった……どうやら違うらしいな。
確認していいものか内心で迷っていたところ、期せずして有り難い言葉が聞けた。
「それでお待ちかねのチートですけど、あれれ? これさっきも言わなかった? やっとかよ! また脱線させられちゃいそうだからとっとこ続けよ。お二人に差し上げる能力は【精霊術】です」
「精霊術……ですか?」
精霊? というとアレか? 万物に宿る神霊的な存在だったか。アニミズム信仰の?
「正式にはエレメンタル・アクトと言います。森羅万象のあらゆる理を司る精霊たち……って、お二人にはこういう説明じゃダメなんだった。えっと、えと、つまり、喩えるなら分子や原子に言うことを聞かせられる能力? 身の回りのものにですね、微かな意志があって。水でも火でも空気でも地面でもお願いすれば自由に操ることができるんです。すごくない?」
「「……?」」
うん、何を言ってるのか分からない。
「もお、物分かり悪いなー。もう時間押してきちゃってるから、巻いてくよ。試せば分かるから、ともかくいろいろやってみて。我は求め訴えたりぃ……じゃなかった、『ほにゃららに我は請う』って相手に向かって呼びかけてからやってほしいこと言う感じです。はい、りぴーとあふたみー。『ほにゃららに我は請う』」
「「ほにゃららに我は請う?」」
「ぐぅ~っどぅ! 実際に試すときは“ほにゃらら”変えてくださいね」
グッドと言われてもまるで理解できないよ? 何をやらされたのやら。
「なあ、もう少し詳しく――」
「ハイ、ハイ、次行きますよ! 次! 加速!」
神ちゃんはハンドルを握って前方を見据えまま、器用にシフトチェンジの操作をし始める。
うーむ、とにかく美須磨と一緒に後でいろいろ実践してみるしかなさそうだ。
「さてさて、名残惜しいですが、お別れの時間がやって参りました。後は頑張ってください」
「うん、今以て理解は追いついていないのだけれど、神ちゃんが神ちゃんなりに一生懸命便宜を図ろうとしてくれたのは分かるよ。ありがとう」
「神さま。救ってくださってありがとう存じます。お世話になりました」
「うむうむ、くるしゅうないぞよ。そだ! 最後に女神らしく一つアドバイスしちゃおっかな。ごっほん、うふん、あはん、よく聞くのじゃ、人間どもよ。汝らはじゃな、もっとこうガーっと! もう、ちょっと……あー……いえ、やっぱやめときましょ。こういうのふざけちゃダメですよね。お二人とも、何と言うか、次はあまり堅く考えずに楽しく生きてください。どうかお幸せに」
『神ちゃん……。はは、最後だけは少し神様らしかったかもな』
「じゃあ、いってらっしゃい。……ポチッとな!」
突然、後方の窓が、そんな構造になっているはずもなかろうに、ツーボックスカーのトランクリッドのようにバタン!と音を立てて上へと跳ね上がる。下部のトランクルームごと!?
同時に、僕たちが腰掛けている後部座席のシートが背後へと高速で滑り出し、シートベルトに固定されたままの僕らは、全解放されたキャビン後方より車外へ射出された。
「ちょおおおおおおお!!」
「……っ!?」
「それでは、お達者で~!」
チクショウ! やっぱり最後までグダグダだったな!!
以上で第一章が終わり、次回からは第二章の異世界編に入ります。
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