表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第二部: 君の面影を求め往く - 第一章: 南の端の開拓村にて
159/254

第四十三話: 立ちはだかる巨体

 第二部のほぼ全話に(わた)り、一部表現を変更しました。

一.脳内の松悟(しょうご)(ヘタレ)が発するセリフを行頭“――”から“『』”(くく)りに。

一.モンスター・ゴブリンの呼称をザコオニに(地の文とシェガロのみ)。

 大したことではありませんが、どうかご了承ください。

 いくら水気(みずけ)の少ない大草原(サバナ)と言えど、当然、場所によっては河川や湖沼が存在している。


 眼下に広がる湖はよく水を(たた)え、ざっと見たところ、琵琶湖(びわこ)くらいの広さはあるだろうか。

 湖水は極めて透明度が低い濃緑色(のうりょくしょく)ながら、エメラルドグリーンに輝く水面(みなも)はなかなか美しい。

 紅靄(あかもや)(さえぎ)られず見渡せる半径数キロの圏内でも、カバ、ワニ、フラミンゴ――どれも見知った通常の動物だ――などが群れをなし、多くの生き物たちのオアシスになっているようだった。


 ここがダンジョンの奥地という特殊環境でなければ、様々な利用価値があっただろうが……。


 その湖上を、ほとんど駆けているのと変わらないほどの早足で進む一団があった。

 何故か誰一人たりとも水に足を沈めることなく、吹き抜ける風に波立つ水面を踏みしめていく。

 数羽掛かりで非常に大きく重そうな荷を()騎羽(きば)たちでさえ、それは同様だ。


「「「メエェーエ」」」

「うへぇ、静かにしてくれよう」

「早く早く、早く早く……ハァハァ……」

「メエーっ」「んヴェェェエ!」

「オラオラ、ひよっこども! (のろ)すぎてヒツジが欠伸(あくび)かいてっぞ! もっと押せ、押せ!」


 今更言うまでもないだろうが、このアメンボのような一団の正体は我らがエルキル探索隊だ。


 護衛の【草刈りの大鎌(おおがま)】に前後を挟まれ、モントリー五羽と徒歩(かち)の男たち五人が重荷を運ぶ。

 縦一列に連結された荷車三台に載る荷は高木――根と葉をそのまま残す、あの牧羊樹(ぼくようじゅ)である。幹には果実である生きたヒツジたちも未だ繋がっており、非常に(やかま)しく鳴き続けている。


「水ん中を近付いてくる奴はいないよ! アンタらの方でもよく気を付けててほしいけどね!」

「周りにも敵影は無し。精霊術【水面歩き(ウォーターウォーク)】は急に切れたりしないから安心して」


 相も変わらず上空にて哨戒(しょうかい)と誘導を(にな)う僕は、そんな一団が汗だくになりながらヒーコラ行く、湖中島から対岸までのおよそ二キロメートルに及ぶ水上曳行(えいこう)を見守った。

 幸い、襲撃などを受けることもなく、半刻(はんこく)(一時間)も経ずして湖畔(こはん)への上陸を果たす。


 だが、異変が起きたのは、皆が地に足付けて一息()いた、まさにそのときであった。


「全員! すぐに水辺から離れて! 何か上がっ――」


 僕のその声を(さえぎ)ったのは、突如として湖より噴き上がった巨大な水柱である。

 高さ数十メートル、思わず間欠泉(かんけつせん)やクジラの潮吹きのイメージが脳裏を()ぎるも、膨大な水の中心部に浮かぶ濃い影がそんな長閑(のどか)な現象などではありえないことを示していた。


 噴水が宙へ飛び散っていった後に残されたのは、鎌首をもたげる長大な(あお)い蛇……か。

 太さは前世で見掛けた風呂屋の煙突(えんとつ)以上、長さは僕が浮かぶ地上十メートル以上の高さにまで達する。当然、それらは水中から垂直に突き出している部分だけでの話だ。


 湖岸に向かって大きな波を立てながら、蛇体はぐんぐんと(おか)へ迫ってきた。


 とは言え、僕らとて、いつまでもそんなものを悠長(ゆうちょう)に眺めているはずもなし。

 重荷を抱えているため、さほど移動速度は出せずとも、巨体を水中に(ひた)した奴よりはまだ速い。()うに揃って湖畔(こはん)を脱し、相当に距離を離すことができていた。


『いや、駄目だ! これは、まずいぞ』


「みんな、もっと急いで!」


 膨大な量の水を()き散らしながら湖の中より上陸し、ずぅーん! ずぅーん!という地響きを立て始めたソレは、もはや蛇とは似ても似つかない全身像を(あら)わにしている。

 速度の方も水中にいたときとは比較にならず、あっという間にこちらとの距離を詰めてくる。


「……チィ、やっぱりそうなるわな」

「真っ直ぐ追ってくるのかい!? すると目当てはこのバロメッツかねえ!」


 チラリチラリと振り返って確認する冒険者たちが、一様に苦々しげな表情を浮かべる。


「ギガント・ロクソドン……相手にしたくはなかったぜえ」


 鎌首をもたげた大蛇(おろち)見紛(みまが)う太さ長さの()を持つ、その姿は、山の如く巨大な(ジャンボ)ゾウだ。

 これまで幾度か、遠間で目にしていたが、先ほどまではどうやら湖の中を泳いでいたらしい。


 初めて近距離で拝むこととなった巨体は、地面から頭の上までの体高にして三十メートル超。僕がかろうじて棒立ちで浮かんでいられる高度のトリプルスコアに達する圧倒的威容(いよう)である。

 鼻の長さだけでも二十五メートルを下ることはあるまい。これは精霊術の射程距離をも上回り、あの内側に入らなければ、僕は攻撃を仕掛けることすら(あた)わないわけだ。

 その鼻の太さは平均して直径四五(しご)メートルほどもあり、風や火で包み込めるサイズですらない。


「ちょ!? とても倒せそうな相手だとは思えないんですけどぉ!」

「ハッハー! だから前に忠告しただろう! 腕っ()きを数百人も集めて周りを囲んでやれば、案外、何とかなるっていう話だけどさ!」

「いやいや、姐御(あねご)よ。攻城兵器と魔術師団も外せねえだろ。……まっ、なんにせよ、今みたいな小勢(こぜい)じゃどうにも打つ手はありゃしねえってこったがな」


 牧羊樹(ぼくようじゅ)を積む荷車とヒツジの群れを()いていく一団の最後尾にて、殿(しんがり)を務めるジェルザさんと戦士さんが軽い調子で言葉を返してくるも、その表情に余裕などまったく(うかが)えない。


 前世の建造物でたとえるなら、十二階建てのマンションといったところか。

 そんな物が四本足でずんずん歩き、後を追いかけてくるとか、本気で勘弁してもらいたい。


 背後より迫るジャンボとの距離は(わず)二三百(にさんびゃく)メートル程度、それも刻一刻と縮まってきている。

 単純に考えて、奴の一歩はこちらの二十歩にも相当し、追いかけっこをして勝てるはずがない。

 どうにか()けないものかと樹木や岩石の(かげ)に入るも、鼻や足の一振りであらゆる地形を粉砕し、奴は追いすがってくる。余計な動きは(かえ)って彼我(ひが)の距離を縮める結果を生むだけとなってしまう。


 凄まじい地響きに(おび)えるヒツジたちも足を引っ張り、もう追いつかれるのは時間の問題だ。


『そろそろ覚悟を決めるべきだろうな。どう考えても逃げきれそうにない』


「ぬぅん、このバロメッツ、今回は諦めるしかない……か」


 僕と同じことをマティオロ氏も考えたようだ。

 奴の狙いがこの牧羊樹だと決まったわけではないが、どのみち大荷物を()くのも限界だろう。


「自生地はもう分かってんだ! また()りに行けば良いさ! 今度はもっと慎重にね!」

「やむえまい! 貴様ら、荷車を――」


 しかし、僕らがそれを実行に移す暇もなく、事態はまったく予期せぬ方へと動き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
美しい湖の湖面を歩けるのは、通常ならとても楽しそうですが、羊連れでは大変ですね(^◇^;) そして現れる巨象!三頭犬に出てくるのよりよほどデカくて衝撃的なモンスターですね。こんなのにおわれたら、羊さ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ