表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シールディザイアー ~双世の精霊術師、遙か高嶺に手を伸ばし~  作者: プロエトス
第二部: 君の面影を求め往く - 第一章: 南の端の開拓村にて
120/254

第六話: 楽天的な僕

 ジェルザさんの攻撃を認識した瞬間、僕は垂直ジャンプし、丸太の如き脚を回避していた。


「な、いきなり何すん――!?」


 着地した僕は、すかさず彼女の凶行を(とが)める……しかし、堂々たる巨躯(きょく)を誇るはずの女丈夫(じょじょうふ)は、目を離した隙などほぼ無かったにも(かか)わらず、またもや眼前より消失しきっていた。


「きゃっ」


 と、背後で小さな悲鳴が上がる。

 振り返って見れば、ざっと五六(ごろく)メートルも離れた位置に仁王立ちしているジェルザさん。

 彼女の片腕には……ファルが抱き上げられていた。


(ボン)! アンタは強いし賢いよっ! でもねえ、もしもアタシが魔物だったら、このちびっ子は今頃どうなってたか、そういう想像はできてないみたいだね!」

「わぁ、たかーい! たかーい!」


 いや、分かってはいる。


 草原(サバナ)の深い草むらの中には、何が潜んでいてもおかしくはない。

 冒険者たちが周囲を警戒し、僕が側に付いていたとしても、草の根元に空いた小さな巣穴から恐ろしい毒蛇が飛び出し、ファルへと襲い掛かる……そんなことだってあったかも知れない。

 隅々まで村人たちの目が行き届いた村の中とはわけが違うのだ。


「納得したかい! 自分だけの問題じゃなかったってことをさ!」

「はい」

「ぜるざおねぇちゃん! はやい! すごいねー! さっきのもう一回できる?」

「ちびっ子! アンタもあんま危ないとこに付いてくんじゃないよ! 分かってんのかい!?」

「きゃー! おっきな声!」

「……親に言っとかないとダメみたいだねえ、こりゃあ」


 その後、改めて男たちを叱責し始めたジェルザさんに(うなが)され、僕たち二人は家路に()いた。


 ファルを家まで送り届け、彼女の家族にジェルザさんからの言付け――今朝の出来事を余さず告げると、父親は頭を抱え、母親は目を吊り上げていた。


「ばいばい! また後でね、白ぼっちゃん!」

「うん、じゃあね。……たぶん今日はもう会えないと思うけど」


 いや、この子のことだし、案外ケロッとした顔で遊びにやって来るかも知れないな。



     ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 さて、僕の方はまだ朝の仕事が残っているし、後には両親に叱られるイベントも控えている。

 そう考えると、少しばかり気が重くなってきた。


 ……まったく、まるっきり子どものような考えなしの性格が嫌になる。

 女児(じょじ)と一緒になって泥だらけで遊んだり、仮にも三十年以上生きてきた大人なんだぞ、僕は。

 こんな(ざま)を彼女に見られたら、一体どう思われてしまうことか、はぁ……。


「またあの子のことか。そんな風にうじうじ(ヽヽヽヽ)してるヘタレより大分(だいぶ)マシだと思うけどね。実際、今の僕は子ども以外の(なに)でもないんだしさ。おかしいことなんてあるもんか、年相応だよ」


『それはまぁ、外見だけはそうかも知れないが……って、おい! いい加減、ヘタレとか呼ぶの()めてもらえないか、楽天家!』


「お前が頭の中でぶつくさ(ヽヽヽヽ)日本語を喋るの止めてくれたらね」


『こちとら考えることしかできないし、お前以外に話し相手すらいないんだ。仕方ないだろう。気に入らないなら、そろそろ僕の身体(からだ)を返してくれ』


「やだよ。もう怖いのや痛いのに耐えるときだけ呼び出されるのはまっぴら御免だね。ず~っとしんどいこと押し付けられてきたんだから、今度は役割交替と行こうじゃないか」


『……そこは申し訳ないと思っているよ』


 (はた)から見る者がいれば、独り言を口にしているようにしか思えないだろう。

 たった一人、村の中を歩く幼児――シェガロは、()の思考に対していちいち言葉を返してくる。


 そう、姿なき僕(・・・・)とシェガロとの間に、疑いようもなく会話が成立しているのだ。


 僕ことシェガロは、前世の記憶を持つ異世界転生者である。


 が、実は、前世の僕である白埜松悟(しらの しょうご)という男の中には、幼い頃から別の人格が存在していた。

 僕自身、それをハッキリと認識していたわけではない。

 ただ、()え難いほどの痛みに見舞われたとき、時折、身体(からだ)から心が追い出され、苦しみに(あえ)ぐ自分自身を冷静に俯瞰(ふかん)しているような気になることがあった。


 では、そのとき、僕の身体を動かしていたのは一体、どこの誰だったのだろうか?


「覚えてないだろうけど、他にもいろいろと僕が肩代わりしてきたんだよ? 感謝してほしいな」


 つまり、今現在、僕の新しい身体(からだ)となった五歳のシェガロは、厳密に言えば()ではない。

 この、もう一人の僕“楽天家”なのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
むむむ、確かに松悟さんにしてはちょっと楽天的な感じはしたんですよね。だけどまさかの別人格だったとは、おどろきです! 最初、転生した時に自分とは別の子供の体に意識だけ入っちゃったのかと思ったのですが(…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ