最終話: 魂の還る場所、二人の誓い
何一つ動く物がなくなった岩屋の中を二つの角灯が寂しげに照らし出していた。
どれくらいの時間が経っただろう。
やがて、どこからともなく、ごうごうという大きな音が聞こえてくる。
寂しげな真冬の砂浜へ大きな波が押し寄せてくるような、言葉も分からない外国の街で喧騒が近付いてくるような、そんな振動ともざわめきとも名状しがたい音だった。
それに、僕は、押し流された。
……僕。
男と少女、二人の側に立ち、彼らの最期を看取った僕は、どこか深い場所へ向けて流れていく圧倒的な何かに巻き込まれ、存在を、意識を、急速に取り込まれていってしまう。
そこでようやく気付いた。
――ああ、あの男は僕だったのか。
大きな河ともジェットコースターともつかない流れの中で、ただ意識だけがあるような感覚。夢を見ているとでも思えそうなところだが、そうではないことが確かなものとして実感できる。先ほど、見ていたこと、体験したことはどちらも現実であり、こうしている状況も現実であると。
――今度こそ、僕は本当に死んだというわけだ。……で、察するところ、これが転生か。
正直に言うと、生まれ変わるということが、未だにまったくピンと来ていない。
先ほど死んだ僕、今こうして思考している僕、新たな人生を歩むという僕、それらは果たして同一人物なのだろうか? ケオニ王の申し出を素直に呑めなかった理由の一端も実はそこにある。
もう白埜松悟ではない今の僕は、月子が愛してくれた僕なのか……?
二人の死に様を目にし、胸をかきむしりたくなる衝動を抱えつつも妙に冷静な今の僕は……。
まぁ、こうなっては考えても仕方のないことか。
それよりも、月子はどうしているだろう。この流れのどこかにいれば良いのだが。
我ながら、離ればなれになってしまえば、途端に不安が押し寄せてくるのは相変わらずだ。
考えてみれば、彼女と同じ場所に生まれ変われる保障などありはしない――。
いや、待て! そもそも……彼女は本当に死んでいたのか?
――まさか! たった一人、まだあの場に取り残されているということはないだろうな!?
ありもしない肉体がぞくりと震える気がした。
杞憂であったらそれで良い。
生まれ変わってすぐ彼女と再会できれば何も問題はない。
だが、もし……そうでなかったら……!?
戻らなければならない……あの場所へ!
今度は自分自身の意志で、あの遥かな高嶺へと!
――月子? 月子! 返事をしてくれ! なぁ、近くにいるんだろう?
叫びに答える者など誰もいない。
無数の魂が流れゆく大いなる響動きの中でかき消され、声どころか音にさえなっていなかった。
――月子、『二人で生きる』と君は言ってくれたな! それが僕たちの幸せだと僕も信じる! 必ず、君を迎えに行くよ。どこへだろうと、必ず! つきこ――。
やがて、そう叫び続ける僕の意識もまた、津波のような流れの中へと飲み込まれていった。
最後の最後に見たものは、はたして現実か。
さながらブラックホール。
あまりにも巨大な顎を開く……あれは……蛇の姿だったの……だろうか……?
そして……暗転。





