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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界警察24時!万引きGメンオカモト

作者: ヒロモト

「このキュウリ一本にも生産者さんの思いが込められてるんですよ」


ファルトール王国自警団の『鬼のオカモト』は我々取材班にそう言ってエルフの経営するスーパーに入店すると『オーラ』を消した。流石ベテラン。キュウリを買いに来たただの客にしか見えない


「あ。あの人。見て。あの人やるわ」


「……」


豪華な服と宝石を身につけた女性がカートを引いている。我々にはオカモトがなぜ彼女を疑うのか分からなかった。

『あんな貴婦人か万引きなんてするか?』『カメラに撮られてるからってオカモトは見栄をはっているのか?』と取材班が思ったその時だった。


「……はい。やった」


オカモトはなんとも辛そうな表情をしていた。


「まぁ。まだレジ通ってないけど……アウトだろうなぁ」


これを見て我々はオカモトは本当は自分の勘がハズレて欲しかったのだと思った。

『……盗らないでくれ』。オカモトはそう願っていたのだろう。しかし彼女はオカモトの想いを裏切った。

オカモトが彼女の後ろにピタリとマークしている間に我々はカメラを確認した。

女は買い物カゴに商品を入れるフリをして腕にぶら下げたバッグにポーションを入れた。そして何食わぬ顔でレジに並んだのだ。

女は買い物カゴに入れた商品だけ清算して店を出た。それをオカモトが呼び止める。


「お母さんちょっと待って」


『何ですの?』※音声は変えてあります。


「お会計してない商品あるよね?」


『……急いでますので』


「お母さん!お母さん!?」


女はフィールドに待たせていたフライドラゴンタクシーまで走った。オカモトは女を追いかける。ここまで来て逃がすわけにはいかない!オカモトから再び『鬼』のオーラがほとばしる!


「ダメだってんだろ!大人しくっ!なっ!?あんた何したか分かる!?万引きだよ!?……事務所行こうな?」


『……あんた後悔するでぇ』


女は不気味に微笑んだ。『フライ・ドラゴンタクシー』。一回の乗車で庶民の月収程する高級な移動手段。女は金に困っているわけでは無さそうだ。なぜこんな事をしたのか我々には分からなかった。



「ポーション。やけどなおし。パワーグミ……まだあるでしょ?」


女は我々の想像以上の商品をバッグに入れていた。どれも安い商品ばかり。買おうと思えば女ならいくらでも買えるだろう。


『お金払いますぅ。払えばいいやろ?なんぼ?』


「そういう事じゃねーんだよ!」


エルフの店長がテーブルを強く叩いたが女はそっぽを向いて反省の色がない。


「うちみたいな小さな店はお前みたいな奴のせいで簡単に潰れちまうんだよ!分かってんのか!?1000年間守ってきた大事な店なんだよ!」


『だから払うゆうとるやないの!100倍にして返し足るわ!拾いんしゃい!』


女は宝石を床にばら蒔いた。


「やろう!ぶっ飛ばしてやる!」


「店長さん!落ち着いて!じゃあね。お母さん。自警団長とご家族の方を呼ぶからね」


『呼んだらええやろってさっきからゆうとんのや!』


女はなぜここまで強気なのか?10分後にその答えが分かった。団長はスーパーに着くなりオカモトを怒鳴り付けた!


「貴様は何て事を!はやく王妃を解放しなさい!」


なんと女はこの国の王女。Gメンに捕まっても自信満々なのも頷ける。我々はオカモトに同情した。『権力者がスリルを味わうために犯罪行為をする』というのはよくある話だが、よりによって王妃を捕まえてしまうとは。下手すればオカモトは死刑である。権力には敵わない。少しでも罪を軽くするためにオカモトは王妃を解放……しなかった。


「万引きは犯罪です!許されるべきではないと自分は思います!」


「オカモト!?貴様は死にたいのか?」


『なんやのあんた!?あーあ。終わりやであんた。王様が来たわ。殺してくれって泣いて頼むまで拷問したるわ。あー!あんたー!こっちやでー!』


ガンバー・ファルトール。七つの国を武力で統一した世界一の強者。この国の王。妻を拘束され激怒しているのかオカモト以上のオーラを出している。我々は恐怖のあまり歯をカチカチと鳴らした。膝の震えが止まらない。

オカモトだけは王を見つめ微動だにしない。


「おんどれかぁ!ワシの妻を捕まえやがったのは!話は聞かせてもろたでぇ!」


「……」


「死にたいんか?おぉぉん!?」


「私は正義を執行したまでであります!」


「ほぉん!?そうかぁ!?……まぁ殺しはせん。キツイお仕置きはしたるがのぉ?」


『あんた!何をぬるいこと言っとんの?国民に舐められるで!ぐちゃぐちゃにして殺し……』


信じられない光景だった。王は妻の頬を貼り倒して髪を掴んで無理やり立たせた。


「おんどりゃ甘やかしすぎたのぉ!離婚じゃ離婚!裸にひんむいて性欲旺盛なゴブリンだらけの檻にぶちこんだらぁ!」


『なんれぇ?……やらぁ』


「だーっとれ!おぅっ!誰かこのアマ連れてけ!」


王の張り手一発で顔がパンパンに腫れた王妃が連行されて行く。


「おんどれ名前はなんやったかの?」


「オカモトと申します!」


「オカモトか。久しぶりやで。俺に意見するゴッツイ肝っ玉の奴は。暇な時に城に来い。俺、直営の軍の幹部にしてやる」


「あの。奥さまは」


「あん?まぁ説教はするがゴブリン云々は嘘やで?なんやお前信じたんかいな!ピュアやの!ますます気に入ったわ!」


そして王はガハハと笑いながら事務所を後にした。オカモトはそれから一分後にため息をつきながら床にあぐらをかいて座った。


「……さすがに死んだと思ったぜ」


我々は今日。本物の『正義』を見た気がした。



「よく寝てるよ。おい父ちゃんは死ぬとこだったんだぜ?」


家に帰れば鬼のオカモトも一人の父。息子の寝顔を確認して一人静かに酒を飲む。

オカモトは離婚をして息子と男二人暮らし。

一息ついたオカモトに私は今日の事をたくさん質問した。彼に聞きたいことが山ほどあった。


「『息子にカッコ悪いとこを見せたくない』それだけさ」


オカモトという男の強さの理由を知れた気がした。彼は息子の為に明日もきっと正義を貫くだろ……


「あっ。やべ」


彼はポケットからキュウリを取り出した。


『このキュウリ一本にも生産者さんの思いが込められてるんですよ』あの時のキュウリである。


「あー。そういえばそのまま万引きを追いかけて……うっわ」


「……カットしておきますね」


これは取材班としてではなく一人の女として言った。


「えー。うーわ。……カッコ悪いぃ」


「よかったですねー。自宅取材は私一人で。フフフフ」


「えー。もぉー。くそぉ」


私は頭を抱えるオカモトを可愛いと思ってしまった。



『違法ポーション』。

若者を中心に流行っているポーションを偽った『麻薬』である。

この麻薬を売る売人を追う一人の男に我々は密着した。


「奴等は絶対今夜この酒場に来る」


『鬼のオカモト』。


「息子のそばにいたいから」と王の直営の部隊の幹部になるのを断った男。


彼は今日も正義の為に街を走り回る。
















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