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過去の鍵  作者: ブルーガソウ
一章
2/14

4月7日 ~…恭ちゃんのっ…バカーーっ~

嘉指名高校入学式。校長先生の祝辞が終わり、生徒の名前が1人ずつ呼ばれている。

岡村(おかむら) 恭介(きょうすけ)君」

僕のクラスの担任であろう女の先生が、僕の名前をマイク越しに呼んだ。

「はい」

僕は返事をして立ち上がる。

「川端 健介君」

すぐに次の人の名前が呼ばれたので、僕は席に着いた。

僕は一組の出席番号四番なので、最前列に座っている。その為、他の生徒の立った姿を見ることが出来ない。まあ、例え見えたとしても知り合いなんて居ないだろうけど…。

 ・・・・・・・・・・・

「2組、青山 望さん」

 ・・・・・・・・・・・

 僕が座った後も、次々に入学生の名前が呼ばれていく。

「3組、天野 磨叉和君」

 ・・・・・・・・・・・

「4組、赤坂 美佳沙さん」

 ・・・・・・・・・・・

「5組、伊藤 和馬君」

 ・・・・・・・・・・・

「以上、新入生二百十名」

 やはり、最後まで僕の知っている名前は呼ばれなかった。二日前に引っ越してきたばかりだから、当然と言えば当然だろう。



 入学式が終わり、教室に戻った。僕の席は窓際の一番後ろなので、外を見ながら一息吐いている。

「ようっ、恭介!」

 突然だった。後ろから男の声が僕の名を呼んだと思ったら、僕の首に腕が回され、それが僕の首を絞めた。

「っ!……誰っ!?」

 僕は後ろの男に問う。

「誰だぁ? お前、親友の名前を忘れたとは言わせねぇぞ」

 男の首を絞める力が強くなった。これ以上は不味い。ギブアップの合図に、僕は男の腕を軽く何度も叩いた。これで終わらなければ、冗談では済まない。

「いきなり連絡が取れなくなったと思ったら、何の音沙汰も無しに帰って来やがって。こっちがどれだけ心配したと思ってんだ!?」

 男の言ってる事が僕には理解出来ない。僕が流石に抵抗しようとしたその時だった。

「ほら、その辺にしないと。恭介死んじゃうよ?」

 薄れ行く意識の中、今度は女の子の声が耳に届く。

「ったく、分かったよ。ほれ」

 その言葉と共に、ようやく男の腕が解かれた。僕は咳き込みながら、体内に空気を入れ、呼吸を整える。

「大丈夫?」

 男を止めた声の主であろう女の子が僕の背中を摩りながら問う。

「……何とか」

 どうやら、相手に敵意がある訳では無さそうだ。普通に考えれば、これだけ遠い町に引っ越して来たのだから、僕に敵意を持ってる人間なんて居るわけが無いのだ。

 呼吸が落ち着いた所で二人の姿を確認する。

 男は(しな)るように伸びた短髪に鋭い眼。身長は僕よりも高く、身体もがっしりしている。

 女の子の方は凛とした瞳に、旋毛の少し下で纏められた茶髪に頬の下まで垂れている(びん)。彼女からは活発そうな印象を受けた。

「それにしても、さっき恭介の名前が呼ばれたからビックリしちゃった。帰ってくるなら連絡くれればいいのに」

「全くだ」

 僕の事を心配してくれた少女とは対照的に、男の方はご立腹の様だ。

 酸素不足により落ちていた思考力が回復してきて気付いた事がある。もしかしたら、この二人は八年前の友人だったのではないだろうか?

「あの……変な事を聞きますが、二人は僕の友達ですか?」

 僕の言葉に二人が固まった。早く復帰したのは女の子の方だった。

「えっと……何言ってるの?」

 困惑した表情で彼女は問う。

 どうやら正解の様だ。なら、言わなきゃいけない。

「……実は、記憶障害で二年前以前の記憶が無いんです。……すみません」

 二人の表情は困惑から驚愕に変わった。それはそうだ。久し振りに会った友人に記憶喪失になりました、と言われたら、誰でもこうなるだろう。

「嘘だろ?…本当に俺達の事、憶えてねぇのかよ?」

 男の方が僕の両肩を掴み、問う。

「……ごめん」

 どの位の間だろうか。周りは皆ざわついてる中、僕達三人は沈黙した。が、それはもう一人の少女によって破られた。

「恭ちゃん!!」

 声のした方に視線を向ける。目に映ったのは、一人の女の子がこちらに凄い勢いで歩いて来て、僕の胸倉を掴む、という光景だった。

 先程まで一緒に沈黙していた二人が顔を見合わせて、女の子の方が“不味い、舞の事を忘れてた!”と言った。

「…わたしに会うのがそんなに嫌だった?」

 目の前の少女は目に涙を浮かべ、僕の事を睨み付けている。

「舞、落ち着けっ。何があったかは知らんが、多分、理由があ・・・」

「玲司は黙っててっ」

 女の子は胸倉を掴んだまま、睨みを効かせて放った一言で男の言葉を遮り、すぐこちらに視線を戻した。

「あ、一昨日の女の子」

 癖の無い髪にパッチリした瞳。僕はこの子が交差点でぶつかった女の子だという事に気付き、思わず呟く。

「っ!?……恭ちゃんのっ…バカーーっ」

 言葉と共に、彼女の右拳が俺の左頬に向けて放たれた。絶妙な捻りの入った右ストレートに吹っ飛ばされたのを最後に、僕は意識を手放した。

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