4月8日 ~……悪くは無いかもしれない。俺はそんな風に思うようになってきていた。~
クレープを食べた後、僕達は話しながら公園の中を歩いていた。
「へぇ。じゃあ、八年振りの再会なんだ」
僕達の話を三人から聞き、見波さんはそう言う。
「そっかそっか。つまり、八年振りに再会したのに、全く気付かなかった岡村君に腹を立てて、天月さんは保健室送りにしちゃった訳なんだ」
彼女はからかうような視線を天月さんに向け、言葉を続けた。
天月さんはばつが悪そうに視線を逸らす。そんな様子が可笑しいのか、玲司と菜々香が笑った。
……悪くは無いかもしれない。俺はそんな風に思うようになってきていた。
しかし、そんな平和な時間は長続きしない。
「ちょっと遊ぶくらい良いじゃん?」
「そうそう。そんなに怖がる事無いって」
道から少し外れた所で、世辞にもガラが良いとは言えない男三人が一人の女の子を囲んでいた。女の子は何度も断っているのだが、男達は木を背にする女の子の逃げ道を塞いで、諦める様子は微塵も感じられない。
「ちょっとっ。その子嫌がってるじゃない!!」
そこで、一番最初に動いたのは天月さんだった。彼女は男達の間を抜け、女の子の前に割って入る。
「行こう」
そう女の子に言い、彼女の手を引いて、この場を去ろうとした。
「まあ、待ちなよ」
が、男達もそう簡単に通してくれない。
「君も一緒に遊ぼうよ。女の子が居た方がこの子も来やすいじゃん?」
男の一人が天月さんに手を伸ばした。しかし、その手は天月さんの手によって打ち払われる。
それに気分を害した男は、今度は乱暴に手を伸ばした。
「調子にのってんじゃ……っ!!!」
だが、その腕は玲司によって自信の後ろに回され、関節を決められる。
「テメェ等こそ調子に乗ってんじゃねぇよ」
目を鋭くした玲司はそう言い放った。
「このっ……野郎は引っ込んでろ!!」
別の男が玲司の顔に向け、拳を放つ。しかし、玲司は空いた手を間接が決まっている男の襟を掴んで、そいつの顔を拳の軌道上に持ってくることにより、回避した。
みんな玲司の攻防に目をとられている。だから、俺を除いて、もう一人の動きに誰も気付かなかった。
「おいお前等っ!!」
そいつは天月さんの背後から、彼女の首筋にナイフを突き付けた。つもりだったのだろう。だが、男の後から伸びた僕の手がナイフを覆っている。僕は男の動きに気付いた僕は、彼の視覚外から接近していたのだ。
男は背後から現れた僕に対する驚きから立ち直る間もなく、その体は宙を舞う。
「天月さんっ、その子を連れて離れて!」
男を投げた僕は舞にそう告げ、玲司の方に目を向ける。
どうやら、あちらも片付いたようだ。
「恭介、逃げるぞ!」
玲司の声を受け、僕等は急いでその場から離る。
しばらく走って、奴等が追ってこない事を確認し、歩調を落ち着かせた。
息を整えると、天月さんが俺の元に来る
「恭ちゃん。手、出して」
舞がそういうその理由に心当たりはあるのだが。
「何ともないから大丈夫だよ」
僕はそう断った。
「いいから出して」
しかし、天月さんは引かない。有無を言わさない口調で再度要求した。仕方なしに先程ナイフを握った右手を彼女に差し出す。すると、その手には掌と指に二文字を描くように血が滲んでいた。
天月さんは僕が差し出した手の付け根を握る。
「菜々香、清潔なハンカチある?」
菜々香は天月さんの問いに肯定すると、綺麗に折り畳まれた白いハンカチを差し出す。
それを受け取ると、天月さんはそのまま僕を引いて歩き出した。
近くにあった水道まで行くと、彼女は僕の手を水で流し、ポケットティッシュを宛てがい水分を取る。
最後に菜々香から受け取ったハンカチを掌に、彼女自身のハンカチを指に巻き、処置を終えた。
だが、天月さんの手が僕を放す事は無かった。
「えっと……ありがとう、天月さん」
手を引かれてから続いていた沈黙にとうとう耐えられなくなり、僕はとりあえずお礼を言う。
「ううん。それより、ごめんね。わたしを助けた所為で怪我させちゃって」
彼女はそう言うと、ずっと掴んでいた僕の手を放した。
「じゃあ、戻ろうか」
天月さんが踵を返して歩き出す。僕も追いかけるように、足を前に出した。