悪魔の正義
"人々は私を「悪魔」だという。この醜態が故、首を縦に振ってしまう。"
―この世界はよく出来ている。「普通」でない者は排除される。醜い心は見にくいものだ。自分では分からない。目に映すものが全て。私は醜く生まれた。たったそれだけのことだった―
私は普通ではない姿に生まれた。その醜態が故、ひとたび目が合えば、人々は肉親を殺されたかのように罵声を浴びせ、体裁と共に去っていく。当初は「戒め」であったはずが、どこか彼らは「快楽」を覚えるよう、日に日にその過激さは増していく。日が昇るのを何度数えただろう。いっそのこと。と、自害を頭に浮かべてしまう。が、正直な所、生きたくもないし死にたくもない。これは我儘と言っていいのだろうか。苦悩の末が選んだ愚問は「何故、化け物に感情が宿ったのか?」行く宛のない正解のやり場を探している。勿論、正解なんてないと分かっている。ただ、ただ、悲しいだけなんだ。望んでもいないのに生きるのに精一杯だ。と、今宵も黒の涙と共にゴミを貪る。
もし、劣等感で塗れた感情の中に1滴。ほんの1滴でもインクを落とせたなら、それが何色であったとしても白く美しく輝くだろう。そして、今の耐え難く、惨い苦痛すら感じない程に対価に価値があったのだろう。たとえそれが私を蔑んでいたとしても。
私を見て、何を思う?
投槍の正義を盾にするあなたは。
私を見て、どう思う?
弱者を嘲笑うあなたは。
―素晴らしい世界だ。こんなにも優劣で語れるなんて―
彼らは悪における善を善という。その善はやがて私を消し去ろうとするのだろう。と、増していく過激さは語っていた。
―それは、いきなりだった―
「おい!お前、何見てんだ!こっちへこい!」
なにか気に触れることがあったのだろう。ストレスとは非常に厄介で、人を盲目にさせる。いつものように彼らは私を囲んだ。会話から察するに、彼らの内の1人の親族が亡くなってしまったらしい。偶然にも、落胆している姿を目の当たりにしてしまった私に八つ当たりをするのだろう。当たる対象が見つからなければ、押し付けるのみ。とでも言うのだろうか。そうこうしているうちにいつものように暴行が始まった。痛みには慣れないもので、酷く、痛い。すぐさま手で頭部を隠す為、何も見えない。が、何故かピタッと暴挙は止んだ。腹いせにしては小さすぎる為、不吉な予感がした。そしてふと、目を開けるとなにかが光っていた。
彼らの内の1人が重く光った凶器を翳していたのだ。
「いけ!」
私の1分後の世界を彼らは黒く染めようとした。
私は何故かその世界をまだ、まだ。見たかった。
膝の上に落ちたのは黒い涙。
私の1分後の世界は赤く染まっていた。
悲鳴が耳に残ったまま
抜けられない沼をまた1人で歩いてく。
ーそしてまた人々は言うの。私を「悪魔」だと。ー