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人形使いクビになる

待機所に入室したわたしを、団長がが険しい顔つきで見つめていた。


「来たか、ドロシー。まぁ、座ってくれ。」

「失礼します。」


わたしは室内にあるボロ椅子の中で、一番きれいで頑丈そうなものを選び、そこに腰かける。

一番ましなものを選んだつもりだったが、それでも椅子の足がぎぃぎぃと悲鳴をあげる。


「相変わらずぼろいっすねぇ~ここの部屋。」

「まぁな、俺らみたいな弱小パーティーに貸してもらえる部屋なんてこんなもんさ。」

「ふ~ん。」


わたしは椅子に腰かけたまま、ぐるりと部屋を見渡した。

部屋の隅には蜘蛛の巣が張り、薄汚いコンクリートの壁には変な模様の染みが浮かんでいる。

ここがわたしたち「朱の旅団」にあてがわれた待機所である。


ギルドに正式に登録されたパーティーには、このような待機所が与えられる。

待機所のランクはパーティーの戦績や収益、ギルドへの貢献度で決められる。

わたしたちに与えられたのは、最下等のこの部屋だった。(もとは物置き部屋だったらしい。)


ただ、あまりにも汚いので、この部屋を使うことは少ない。

わたしたちは普段、行きつけの酒場などで作戦会議をしているのだ。


「ここにくるのも久しぶりっすね~。」

「そうだな。」


「で、話ってなんすか?」

「あ、あぁ、……それなんだがな……。」

「……?」


団長はどこか歯切れの悪そうな調子で話し始めた。

「実はお前に、パーティーを辞めてほしいんだ。」

「……はい?」


一瞬何を言われたのかわからなかった。

しばらくおいてから、脳がようやく事態を理解し始める。


「わたしがクビ?なんで?!」

当然の疑問だ。わたしがなにかしただろうか?パーティーの各種支援はきちんとこなしているし、犯罪行為に加担したこともない。(犯罪スレスレのことは何度かやったことはあるけど)

自分で言うのもなんだが品行方正で善良な冒険者である。


しかるに団長の答えはひどく簡潔なものだった。

「人件費の削減のためだ。」

「人件費?」

「うむ。今から詳しく説明してやる。」


団長の説明によるとこうだ。

なんでも、ギルドへの上納金の最低限度額が、来月から値上がりするらしい。

しかも先週末、急に決まったとのこと。


正直、今のパーティーの稼ぎでは上納金を収めるのは難しい。

人員を減らし、経費を削減するしか方法はない。

団長は副団長と協議した結果。パーティーで一番若いわたしに白羽の矢がたったということらしい。


「パーティーのなかじゃお前が一番若い。その歳ならいくらでもやり直しがきくだろう。しかし、他の奴らはそうじゃない。やり直すには年を取りすぎてる。次がないんだ。」


「……団長……。」

「言いたいことはわかる。しかし、俺達にはこれしかないんだ。頼む。分かってくれ!」


団長が真剣な表情で頭を下げる。目の端には涙さえ浮かんでいる。

団長がこういう顔をするときは、決して自分の意見を曲げたりしない。

わたしが折れるしかないのだろう。


「……わかりましたよ。頭を上げてください。」

「……わかってくれるか。すまんな……ほんとうにすまん!」


団長は涙を袖で拭いながら頭を上げた。

「退職金ぐらいでますよね?」

「もちろんだ!……あまり多くは出せんが……。」


こうしてわたしは、4年の長きにわたり所属していたパーティーを、本日クビになったのだった。






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