幸せを先っちょだけ 1
自分の欲望を詰め込んだ話。
ヤンデレ好きだから書いてみたいと思ったんだ。
自分なりのヤンデレの可愛さを書いていくが、一応言っておく……
日常ノート 一日目。
今日から新しい生活が始まったことを楽しみにしている自分がいるのが酷く怖い。
これまでの短いようで長かった十五年。独りぼっちだったのに妹が二人も出来てしまったことに嬉しみが溢れてやまない。
初対面にして「兄貴」と呼んでくれた凛音ちゃん。
「お兄ちゃん」と呼んでくれた鈴歌ちゃん。
俺は限りなく溢れ出す尊さを隠し切れなくなりそうだよ。ありがとう。
それに新しいお母さんにお父さん。
血が繋がってるかも怪しい俺を家族と言ってくれて、受け入れてくれてありがとう。
これから毎日少しずつ感謝を伝えていきたいと思います。まだ恥ずかしくて面と向かって会話は出来ないけど向き合っていくつもりでいます。よろしくお願いします。
ただの一日の感想を書くだけのノートは、それなりに楽しさを感じさせる〝これから〟のことを綴ったものが記されていた。
コンビニで売っているような一冊百円程で帰る再生紙を使ったノートは、『日常ノート』と筆ペンで書かれており、名前の欄には可愛らしさを感じる丸文字で『護守蓮』と書かれている何とも言えないシュールな物になっている。
「…………ここなら、バレないだろ」
黒歴史にも近く、そして見られてしまえば誤解を生みかねない感想文が記されたノートをベットの下に敷かれたカーペットの下に隠す。
なんならカモフラージュとしてベットの下にはしっかりと得体の知れない書物が置かれている。
「万が一の可能性もないようにしない――――」
「アニーキ!!」
ノックも無しに無造作に開けられた扉。
似非外国人のように「兄貴」と呼びながら懐に突っ込んでくる色んなところが柔らかい物体は、
「か、凛音ちゃん? 急にどうしたのさ」
昨日から一緒に暮らすことになった新しい家族の一人、護守凛音である。
発言と行動に反比例した優しそうでほんわかとしている見た目が、とんでもないギャップを生み出しており、暮らした二日間で数々の尊さを刻み込んできた我が妹。
「朝ごはん」
「そ、そうでしたか…………」
なら、どうしてロケットのように飛び込んできたんだ?
出来る兄というものはそんな野暮なことは聞かないのである。ただ黙って受け止めるのみ。
「はい敬語一回目~、今日の抱き枕は兄貴ね」
だが、この勝手に下された兄妹ルールだけは認められていない。
初日から散々な目に合わされた地獄のようなルール――――その名も『命令』。
俺はそう呼んでいる。
どんなことでも言われてしまえば何でもしなければいけない、加えて家族として新入りの俺は例えどんな内容であれキッパリとは断りにくい。
「…………分かった」
「ったくさー、もう家族なんだから敬語なんていらないって言ったじゃんさー。例え同い年でも兄貴は兄貴なんだからさー、もっと遠慮なんてしないで来いって」
「遠慮も何もないでしょ……。どういうことだよ、抱き枕って」
もっと距離感持って行こうよ。
近い、近すぎるよ。ここまでフラットな性格だとお兄ちゃん心配だよ?
「いやぁー、この体を味わってしまうと耐えられないよ」
そう言って顔を押し付けるのは蓮の腹筋。
それとさりげなく背筋も撫で回している。
まるでどっかの同人誌に出てくるようなオヤジの手つきである。
「頼む……頼むから言葉を選んでくれ。このままお母さんに聞かれたらなんて考えるだけで背筋が凍りつく」
「ダイジョブだってっ、基本的にはお母さんもお父さんも帰って来ないし。迎えに行った時に言われたでしょ? 一応会社持ってるから忙しいんだよあの二人」
「それでもだ。どうしてこんなにボディタッチが多いんだよ……鈴歌ちゃんもそうだけど、このままだと俺は精神的にやつれていくことに――――」
「大丈夫だって言ってるでしょ?」
その言葉は酷く低く聞こえた。
理由としては腹筋に顔を埋めながら言っているのもあるだろうが、言葉の強さと表情が見えないということで恐ろしさすら感じるほどだ。
「…………う、ウス」
「大丈夫、大丈夫。私たちは知ってるから、兄貴がどんな風に生きて来たか」
一瞬、時が止まったような錯覚が起こる。
何も考えられずに頭は真っ白になり、無意識にも体が小刻みに震える。
短いようで長かった十五年間。決して無駄に長く感じたわけではない。
「――――そうだろうな」
あの頃の記憶が蘇る分、凛音への応答に少しのラグがあった。
「過去が不幸だった分、私たちの幸せをプラスして兄貴に上げるから。だからしっかり家族しようぜ、遠慮なんてしないで存分に幸せを堪能してくれよ」
過去を乗り越えた先にあった現在は、最高とは言いにくいがそれでも最高だ。
初めて家族と呼んでいい存在と出会い、一般的な生活が出来ていることのどこか最高じゃないのか寧ろ知りたいところである。
「あぁ、そうさせてもらうわ」
「うん! おっしゃ、それじゃ朝ごはん食べよっか。せっかく鈴歌が作ってくれたんだから残したらダメだぞ」
「俺は食べ物を残したことがないんだ。なんたって一杯ってほど貰えなかったからね!」
「ぶらっくじょーくの炸裂だっ!?」
…………今こうして笑い合えることに感謝しなければならない。
幸せだ。物凄い幸福感で体が満たされていくのが体感できる。
だが凛音ちゃん――――凄い力で抱き着くのはやめようか。
とても柔らかいグレープフルーツが潰れてるよ?
……続くか分からん。
完全に不定期だ。
気分転換がてらに書いていくってやつ。