07 コンビニ人間3✧︎
そして、わたしが『コンビニ人間』で最も好きな表現が、次の二つの文章だ。
“──正常な世界はとても強引だから、異物は静かに削除される。まっとうでない人間は処理されていく。
そうか、だから治らなくてはならないんだ。治らないと、正常な人達に削除されるんだ。”
“──皆が不思議がる部分を、自分の人生から消去していく。それが治るということなのかもしれない。”
──この世界は、“普通の人”の存在を大前提にして成立している。
だから……どこか変な人は、煙たがられるし、平均的な人間への回帰を強いられる。もしくは削除される。
これは今も世界のどこかで息を殺して生きている、“異物”たちの苦しい立場を生々しく表現している文章だ。
……そして、白羽は当然のようにバイトを首になり…………古倉さんと同棲を始める……!
男女が二人でいることで、世間から向けられる怪訝な目を躱すことが目的だ。
所謂、偽装結婚のようなもの。
──この超展開には正直、驚かされた。
だが、彼らの思惑とは裏腹に、世間は、彼ら二人に、好奇の目を向け楽しがる。
その様子は──他人の痴話や醜聞を、酒の肴にして楽しむような────下種な人間の、下卑た眼差しを伴った、それ。
そして、コンビニバイトの仲間内では定期的に飲み会が行われていたようだった。
18年間働いてきたにも関わらず、古倉さんは一度も誘われたことがない。
その飲み会に初めて古倉さんは誘われる。こんな台詞で。
“──「ちょっとちょっと、何時の間にそういうことになってたのー!? お似合いなんだけど! ねぇ、どっちから告白したの? 白羽さん?」”
“──「そうそう、今度、古倉さんだけでも飲み会においでよ。本当は白羽さんが来てくれればいいんだけどねー!」
白羽さんを嫌いだと言っていた菅原さんまで、「私も白羽さんに会いたいです! 誘ってくださいよー!」と言ってきた。”
──尾籠な下心を隠す気もないこれらの台詞は、読んでいて気分のいいものではない。
やがて白羽の勧めで、古倉さんはコンビニバイトを辞めることになる。正規の雇用を探すためだ。
“──バイトが辞めていくのは困る、人手不足なんだから次を紹介して辞めてほしいといつも言っていた店長なのに、嬉しそうだった。”
“──私は、皆の脳が想像する普通の人間の形になっていく。皆の祝福が不気味だった。”
──古倉さんにとって、この世で唯一の居場所であるコンビニ。
そこを去ることで仲間たちが喜んでいるという──あまりに切なく、残酷な現実。
・
・
・