表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/16

05 コンビニ人間1✧︎


 午前中は買い物客で溢れていたこのコンビニも、午後には客足がすっかりと遠退いていた。


 隕石の衝突によって、人類が死に絶えるのは21時21分と予測されている──これは多くの天文学者がはじき出した共通見解だ。



 あと5時間半もある。



 「コンビニ人間』はたった161頁の物語。


 二、三時間で読めてしまう。

 じっくり味わって読んでも、あと2回は読める筈!




 ──なんという幸福だろう!


 


 わたし以外、誰もいない店内。カウンターの中に堂々と、バックルームからパイプ椅子を持ち込んでゆったり座る。


 お客様もいないので、店内に流れる音楽は、既に全て切っている。

 冷蔵ショーケースのコンプレッサーの低い振動音以外に、コンビニエンスストアに音はない。


 そして、わたしは店内の陳列棚からドリップコーヒーを取り出して、袋を開けてカップにのせた。そのカップに、ポットのお湯をコポコポと注ぐ。


 淹れたばかりのコーヒーを、カウンターの上にコトリと置くと、黒い液体の表面に蛍光灯の白い光がとろりと回った。

 


 コーヒーを一口飲んで──わたしは澄んだ心で、ページを開く。


 最初の一文はこうだ。






“──コンビニエンスストアは、音で満ちている。”





 この文章が目に飛び込むや否や、目から涙が溢れ出る。

 続く物語が、頭の中で再現されるからだ。



 

 紡がれる地の文は……ありふれた言葉ばかり。

 にも関わらず、これらの言葉は怖いくらいの浸透圧で、わたしの身体を…………心を…………暴力的な強さでもって、侵食していく。







 

“──私は「治らなくては」と思いながら、どんどん大人になっていった。”


 ──古倉さんが他者とのズレを抱えながらも、解消出来ず、時間だけが過ぎてゆき、気が付けば36歳。そんな心の叫びだ。





“──ドアをあければ、光の箱が私を待っている。いつも回転し続ける、ゆるぎない正常な世界。私は、この光に満ちた箱の中を信じている。”


 ──このコンビニの中でなら、社会と繋がっていられるという、痛々しいまでの信頼。





“──就職か結婚という形でほとんどが、社会と接続していき、今では両方ともしていないのは私しかいない。”


 ──歳とともに社会から切り離されてゆく古倉さん。

 だが焦りのような感情はなく、その事実を第三者的に傍観するだけ。

 作中内の古倉さんは、どこか感情が欠落した人間として、描写されている。


 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ