03 邂逅✧︎
──『コンビニ人間』 村田沙耶香著
吸い寄せられるように、その本を手に取り、貸し出しカウンターに並んだ。
わたしには、この本がわたしにとって、特別なものであることがすぐに分かった。
それは本好きの人間にしか分からない──所謂、第六感のようなもの。
急く気持ちで家に帰り、トイレを済ませ、部屋に籠もって……勉強机の上をふきんで拭いて……背筋を伸ばして正座して……高鳴る胸を押さえながら……頁を開く。
────そこにあるのは──圧倒的な生きづらさだった。
そして──この小説を読み進めていくうちに、「王様は裸だ!」と大声で叫ぶ子供の姿が頭に浮かぶ。
誰もが気づいているけど、口にはしない──子供以外は。
──そんな身も蓋もない話なのだ。これは。
目から鱗が落ちる思いがした。ボロボロと。
こんなこと、書いていいんだ……そう思った。
わたしはこの物語を、一文で言い表すことが出来る。
これは──“中年フリーターが、『そんな生き方してちゃダメだよ』と、世間から様々なハラスメントを受ける”──ただ、それだけの話だ。
もう少し詳しく、紹介させていただく──。
主人公は古倉という36歳の女性。
ずっと、周囲の人間と自分の感覚はズレている──社会の中で自分は機能出来ていない──そんな疎外感を抱えながら生きてきた女性だ。
彼女の一人称視点で、物語は紡がれる。
古倉さんは大学一年生の時、不図思いたち、コンビニバイトを始める。
その完全にマニュアル化された空間で、彼女は生まれて初めて、この世界の中に居場所を見つけることが出来たのだった。
コンビニの中では、今まで不可視だった社会のルールが可視化されていた。
古倉さんはコンビニのルールに従い、働くことで──生まれて初めて──他者から必要とされる“世界の部品”になることが出来たのだ。
当時13歳だったわたしは、自分以外にも、他者とのズレに苦しみながら生きている人がいることに、大きな衝撃を受けていた。