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01 巨大な隕石が地球に迫りつつあった✧︎

❉ 本作は村田沙耶香著『コンビニ人間』に対する重要なネタバレが含まれています。これから同作品を読もう思っている方は、ブラウザバックをおすすめします。


“────彼の吐息が、次第に湿り気を帯びてゆく。

 濡れた熱を湛えたその呼吸が、わたしの肢体を蟻のように這いまわる。


 わたしが、ゆっくりと手を伸ばし、彼の髪を優しくくと──。

 息を重ねるように、彼の右手がわたしの頬をそっと撫でる。

 

 彼の指先から、わたしの皮膚の表面に、さざ波のような何かが流れ込む。

 




 その瞬間。

 ──わたしの頬から二の腕にかけて、白い綿毛のような体毛が、びっしりと生えていることに気が付いた。”






 ここまで打ち終えると、わたしはテキストエディタの画面を閉じて、大きく息を吐き出した。


「ふぅ~」


 よかった、嬉しい…………思ったより早く、脱稿出来た。


 胸中でそう独り言ちると、わたしは壁の時計に目を遣った。


 時刻は、まだ16時。お客さまが来る気配は、まったくない。





 ◆ ◆ ◆





 ──西暦12,020年12月x日


 地球に巨大な隕石が迫りつつあった。


 この事実に天文学者が気が付いたのは、実に5年前の西暦12,015年のことである。



 各国政府は4年間、この事実を秘匿した。国民がパニックになることを恐れたためだ。

 

 だが、一年前の今日、世界中の政府がタイミングを合わせて、事実の公表に踏み切った。


 もちろん、社会は恐怖と混乱の坩堝るつぼと化した。


 多くの人々が不安に狂い、多くの人々が命を絶つ……そんな悍ましい光景が世界中で展開された。





 だが半年も過ぎると、人々は平穏を取り戻していた。



 人類最後の日に備え──天日に干した、清潔なシャツを折り畳むように──人々は自分達の心を丁寧に丁寧に──ゆっくりと畳み始めた。



 地球最後の日の、人々の過ごし方は、概ね次の三つだ。



 ・一つ目──仕事を休み、家族や恋人、友人と過ごす。これが50%。

 ・二つ目──普通に仕事をこなし、普段どおりの最期を望む。これが5%。

 ・三つ目──家族も仕事もおざなりに、自分のしたいことをする。これが45%。

 






 今日は地球最後の日。



 地球に巨大な隕石が迫りつつあった。

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