14 今日は地球最後の日1✧︎
──わたしは訝しりながらも、外に様子を見に行くことにした。
自動ドアを出たところで、二つ目の破裂音が鼓膜を揺らす。
コンビニエンスストアの前に横たわる、人気のない真っ暗な国道を、警戒する動物のようにゆっくりと渡った。
ガードレールから見下ろす遥か向こうの港街。
先ほどと同じで、街の明かりは侘しく、寂しい。
ただ、先刻と異なるのは、いつもは観覧車がピカピカと光っている場所に、ひゅるひゅると花火が打ち上げられていた事だった。
ここから見るとかなり小さく……星の瞬きに毛が生えた程度の可憐さだ。
ヨロヨロと天に向かって打ち上げられた花火の種は、上る勢いが死んだ位置で、小さな花を咲かせる。
遅れて、光の花が弾ける乾いた音が、わたしたちの町まで届く。
小さな花と。小さな音。
今日は、地球最後の日
巨大な隕石が、地球に迫りつつあった。
Y市が今日のために準備していたプログラムなんだろう。
ここから見える花火は、とてもとても小さくて、文字通り塵芥のようにしか見えないけれど──。
──けれど。
この花火はこの日のために……職人さんが思いを込めて作ったものなんだと思うと、なんとも言えない尊さが胸が締め付ける。
食い入るように花火を見つめた。
街の明かりが、殆んどない冬の闇。
食い入るように花火を見つめた。
風もない。
聞こえる音は、空気を切り裂きながら上ってゆく花火玉の音と。
闇の中で弾ける、破裂音だけ。
わたしは寒さを忘れて花火に見入った。
破裂して、炎色反応を呈し、広がり、放物線を描いて落ちてゆく煌めき。
その煌めきは地上に届くことなく、夜に縋りつくようにして溶けていく。
人類最後の日の催しとして、これ以上ないくらい、儚く……切なく……美しい……。
その時、不図、誰かに呼ばれたかのような感覚が体の中を駆け抜けた。糸で引かれるみたいに、くるりと、後ろを振り返る。
わたしの視線の先には、宝石のようにピカピカと輝くコンビニ。
その背後にはどこまでも広がる紫黒の闇。
わたしとコンビニの間には、清浄な空気が満ちている。
──突然、わたしの脳裏に『コンビニ人間』の言葉たちが渦巻き始めた。