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うなぎ後うな重

「うな重を食べる夢を見たい」


 博士はポツリと呟くと助手の男の肩に手を置いた。


「わしはうな重を食べる夢を見たいのだ」


 これは困ったと言いたげな助手を無視して、博士はとっ散らかった机のがらくたを押し退けた。そして、定規とペンを使って何やら設計を始める。


助手は「はあ、そうですか」と言うものの、こういったことに慣れているので深くは追求しなかった。加えて一言「どうしてまた夢で食べようと?」と博士の隣に立って自身もペンを取る。


「人間には三大欲というものがあるだろう?」


「食欲、性欲、睡眠欲と呼ばれるやつですね」


「うむ。わしはそれを同時に満たせたらどんなに素晴らしいかずっと思案しておった。考えてもみよ、夢見心地でうな重を頬張る自分の姿を」


「垂涎物です」


 助手が口許を袖で拭う。博士はそれを見るとひとしきり頷いた。


「だろう?」


「ですが、どうアプローチするつもりで?」


「まず、うな重を食べに行く」


「ええ……」


「これは必要なことだぞ? 夢とはその日の出来事の追体験、つまり記憶の整理を行っている間に見るのだ。ホラー映画を見ると悪夢にうなされるだろう? それと同じだ。故に、夢にうな重を出すべくうな重を食べに行く」


 助手は最初の方こそ怪訝そうな顔をしていたが、最後には幾度も頷き鼻息荒く、


「では行きましょう!」


 と、博士を促した。


「待たんか。これではまだうな重が出てくるかわからん。それを確実にするためにある装置を作る」


「わかりました」


 二人は、いつの間に設計したのか博士の書いた図面を元に、速やかに装置を作りに取りかかった。


 半日の時間を要して出来上がったのは、臭素採取管と臭素増幅機、低周波安眠装置だった。


「夢には印象に強く残ったものが反映される」


「ふう。これで大丈夫ですね」


「ああ完成だ。これで、これで夢でうな重を食べられる」


 二人は感慨深く呟くと袖を涙で濡らした。


「夢の中で食べるうな重はさぞ美味しかろうな。もうヨダレが止まらん」


「博士、採取管は何本持って行きましょう?」


「すべて持っていけ。たらふくうな重の臭素を採取するのだ」


「わかりました!」


 二人は白衣を着たままラボを飛び出すと、臭素収集管を両手一杯に握りしめ鰻屋へ駆け出した。


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