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インド放浪記  作者: 山田健一郎
4/4

ガンジス河

俺とロバートは

聖地へ潜り込むためガンジス河を利用する事にした。

ボートを使い河の上流から侵入する。

様子を見ながら下流へ移動し、可能ならば接岸し上陸する。

その後素早くロバートの馴染みのホテルに潜り込む。

単純な作戦であるが試してみる価値は有りそうだ。

早速実行する事にした。

ホテル前にいる馴染みのサイクル・リクシャーに乗り込み

二人はヴァーラナシー・カント駅へ向かった。

そこでオート・リクシャーに乗り換え目的地へと急いだ。

オート・リクシャーとは幌付きの三輪オートバイの様な物で

昔のダイハツ・ミゼットを彷彿させる乗り物である。

目的地に着いた二人はボートマンを雇い

小さな手漕ぎの船に乗り込んだ。

ボートマンは船を漕ぎながらも常に陸の上に注意を払っていた。

少しでも人影が見えるとすぐに身を伏せる。

彼らは軍隊や 警察に見付かる事が非常に恐ろしいらしい。

ヒンドゥ(ヒンズー教徒 ) のカースト の最下層であるハリジャンのボートマン達にとっては

法を 破って外国人相手に商売する事は命懸けであった。


小船は河を下って行く。

水は濁っていて、全く河の中の様子がわからない.

時折牛の死骸や何か生物の死骸らしきものが流れていく。

いや、流されていたのは我々で彼らは立ち止まって

じっと見送っていたような気もする。

その頭部に開いたふたつの黒い窪みは、

とても深い奈落の底へ通じているような気がしてならなかった。

その時小船の反対側に何かの気配を感じ俺は振り返った。

そこには・・・・・・大きな魚の背びれがあった。30cm程の大きさであろうか。

まるでサメを想わせるその背びれはゆっくりと船の進行方向へ動いていた。

俺は呆然とその光景を見ていた。

声も出せなかった。それは ゆっくりと河の中へ沈んでいった。

「ロバート!!今そこにでっかい魚がいた。

とてもでかい奴だ!!」

「でかい魚?」

「ああ多分2メートルぐらいあったんじゃないか!!」

「ハハハ 何馬鹿なこといってんだ。俺は今まで一度だって

そんなモン見たことねーぞ」

「本当だって」

「見間違いさ」

俺は黙り込んでしまった。

(しかし・・・・・あれは・・・)


やがて人気の無い所を見計らいボートマンは船を岸に付けた。

俺達は岸に上がると迷路の様な街の中へ潜り込んでいった。



二人はロバートを先頭に、狭い路地を右へ左へと進んでいった。

街はしんと静まり返っている。

人っ子一人歩いていない。商店の戸は全て閉ざされまるでゴーストタウンだ。

気のせいであろうか。何処からかクスクスと笑う声が聞こえる。

やがて二人はあるホテルの前に辿り着いた。

しかし門は閉ざされ鍵がかかっている。ロバートは力任せに門を叩いた。

「ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!ドン!!」

暫くすると鍵を開ける音が聞こえた。

褐色の肌の少年が二人を中に招き入れた。

俺はソファーに沈み込み、ジョイントに火を着け吸っている。

(ジョイントとはシガレットペーパーで大麻の葉を捲いた物である。)

ロバートは奥の方で宿の主人と懐かしそうに話している。

暫くしてロバートが俺の方に歩いてきた。

「ケン、今日からここに泊まろうぜ!!俺は荷物を取ってくる。

オマエはここでのんびりしてろ。」

そう言ってロバートは出ていった。

俺は部屋に案内してもらいベッドの上で寝そべった。

マリファナの酔いも手伝い俺はいつしか眠りにおちていた。


「ゴーン ゴーン ゴーン 」

鐘の音がする。その鐘の音に混じり人々の祈り声が聞こえてくる。

明け方であった。

俺は二階の部屋の窓から下の通りを眺めていた。

朝の祈りの時間は特別なのであろう。

供物を持った人々が通りをヴィシュワナート寺院の方へ歩いていく。

ヴィシュワナートとは「世界の主」という意味である。

屋根が金で覆われているためゴールデンテンプルとも呼ばれている。

一時間程経ったであろうか。

街は先ほどの喧騒が嘘の様に静かになった。通りからも人の気配 が消えた。

(ロバートの身に何かあったのだろうか?)

俺はこれからどうするべきか考えてい

ホテル前にいる馴染みのサイクル・リクシャーに乗り込み

二人はヴァーラナシー・カント駅へ向かった。

そこでオート・リクシャーに乗り換え目的地へと急いだ。

オート・リクシャーとは幌付きの三輪オートバイの様な物で

昔のダイハツ・ミゼットを彷彿させる乗り物である。



やがて人気の無い所を見計らいボートマンは船を岸に付けた。

俺達は岸に上がると迷路の様な街の中へ潜り込んでいった。


「コン・コン・コン」

宿の主人がドアを開け部屋の中に入ってきた。

「今すぐここから出てってくれないか?」

「えっ!! 何だって!!」

「あんたをここに泊めた事がばれると非常にまずい。」

「急にそんな事を言われても・・・・・」

「いいから出てってくれ!!」

俺は外に放り出された。

後で人に尋ねたところあの魚は川イルカだったらしい。 しかしワニ(インドガビアル)もいるらしい。

インドガビアルは口が細長く小魚しか食べないらしが、

ガンジス川に流れる人間の死体を食べさせるために、

凶暴な種類のワニも放流したと聞いた時は悪い冗談だろうと思っていた

・ は途方に暮れていた。

街はしんと静まり返っている。通りに人影はない。

俺はあてもなくトボトボと歩きだした。

(まずい事になた。 どうしたらいい?)

「タッタッタッタッタッタッタ」

何処からか10才位の少年が走って来た。

「ホテルを探してるんだろ?」

「・・あ・・・ああ。」

「ついてきな!!」

少年は走りだした。

俺は少年の後に続いた。

通りの角を幾度か曲り、そのホテルに着いた。

看板には「ALAKHNANDA GuestHouse」とある。

少年は辺りを見回すと素早くドアを開け俺を招き入れた。

そこには数人のインド人の若者が立っていた。若者の内のひとり が俺を部屋へ案内した。狭くて汚い部屋である。

シャワー、トイレは共同だ。しかし贅沢を言ってられる状況ではない。

俺は窓際に歩いていった。窓を開けてみると目前にガンジス河が 広がっていた!!

すばらしい景観であった。

(すごい!! いい眺めだ。これで50ルピーなら安いもんだ)

しばらくここに滞在する事に決めた。

ホテルの従業員らしき若者が俺に話しかけてきた。

「外に出る時は必ずドアをほんの少し開けて様子をみて」

「えっ? どうゆう事だ?」

「もし通りに警官や軍人がいたら絶対に外に出ないで!!」

「ああ。わかった、なるべく見つからないようにするさ」

その日は1日中ガンジャを吸いながら河を眺めていた。

河は悠々と流れている。時折水面に大きな魚らしき生物が水の中 から跳ね上がってくる。遠くてよく分らないが、かなり大きそう である。

(いったい ありゃどんな生き物だ?)


俺はベッドに腰を降ろし窓の外を眺めている。窓の下には河へと 続く階段がある。

ガートである。ガンジス河沿いには無数のガ-トがあるが、ここもそのひとつだ。

人々はここで体を清め、米を研ぎ、野菜を洗い、歯を磨き、死者を弔う。

河へと向かう段差は、途中で河沿いの道と交わっている。左手の 方角から牛が歩いてきた。

立派な牡牛である。その牛の後ろから二頭の小柄な牛がついてくる。

彼の家族であろうか。

牛は窓の中から彼らを観察している俺に気付いた。

牛は男の事をじっと視ている。男との距離は10M位であろうか。牛は突然吠えだした!!

牛は何故だか猛り狂っていた。俺を怪しい奴だと思ったのであろうか?

(たしかにあやしそうな奴にみえたのだろうが) 

「ヴオ~ッ!! ヴオ~ッ!!」と凄まじい声で叫んでいる。

俺は呆気にとられて見ていたが、あまりの迫力に窓を閉めて彼らが立ち去るまで身を潜めていた。

牛は叫びながら徐々に遠ざかって行った。暫く後、俺は窓を開け飽きもせずに河を眺め続けている。

妖しい煙に包まれながら何時しか俺は妖しい眠りに落ちていった。

次の日、街はようやく活気を取り戻した。戒厳令が解除されたのだ。

俺はロバートを捜し出すようホテルの従業員に依頼した。


俺はマニカルニカー・ガートにやって来た。

俺の目の前で薪の上の人間が勢いよく燃やされていた。

女性であった。

やがて女の足がポロリと焼け落ち、何処からか走り寄って来た犬がそれをくわえて去っていった。

死体を搬入する入口から何故か白い牛が入って来た。迷い込んでしまったのであろうか?

その牛は人が燃えている様をじっと視ている。火葬師達は何のリアクションも起こさない。

牛は全く動こうとしない。何とも不思議な光景であった。

人々はここヴァラナシに死ぬためにやって来る。

ヒンズー教徒にとって聖地で火葬され聖なる河に流される事は至上のよろこびである。

輪廻転生から解放され解脱の境地にたてるらしい。


翌日である

俺は飽きもせずにホテルの窓から河を眺めていた。

牛は相変わらず吠えている。非常に興奮している。自分の近くを人が通ると咬み付いていた。俺はそれを見てゲラゲラ笑っていた。(草吸いいすぎ!!)しかし何故だろう?オレは前世であの牛と何かあったのだろうか?

俺はとりとめのない事を考えながら河を眺め続けていた。

その時突然、部屋のドアが開いた!!

白人男性が凄い勢いで飛び込んで来た。

「ケン!! 無事だったか!!」

ロバートであった!!

その日はお互いの無事を祝いビールとガンジャで宴を開いた。

ロバートはビールが大好きであった。

「ケンパイ!!」ロバートはがんがん飲んでいた。

「か・ん・ぱ・い だっちゅ~の。何度言っても分からん奴だ」

二人はヘロヘロになるまで飲み続けた。何時しか泥の様に眠りこんでいた。


下の写真はネパールポカラ(カトマンズから自動車で10時間ヒマラヤ山脈の麓)で撮ったものです。

挿絵(By みてみん)


下の写真はインドの聖地ベナレスの雑踏です。

挿絵(By みてみん)

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