沐浴場
ベッドの上から俺は話し掛けた。
「それ・・チャラスかい?」 白人男性は 俺を見上げた。
「ああ・・・やってみるかい?」
チャラスとは大麻樹脂の事である。マリファナの樹脂を固めた物だ。
チャラス入りの煙草を吸いながら二人はお互いの事を、 話し始めていた。
その白人はロバートいう名前のアメリカ人だった。
28年前にインドに来て以来、毎年一ヶ月滞在しているらしい。
いつのまにやら2人はは意気投合していた。マリファナのせいだろうか?
ロバートは俺に尋ねた。
「今夜の宿は もう決めてあるのかい?」
「いや、これから探す」
「いいホテルを紹介しようか」
「いいホテル?」
「ああ、ガンガー(ガンジス河)の近くだ。
マニカルニカーガートも近い。俺はここ数年来利用している」
「じゃあ世話になるぜ」
列車がヴァラナシに到着した。
二人は駅前にたむろしているリクシャーワーラーの中から、 赤いチャダルを捲いている丈夫そうな青年を雇った。
ロバートは推定 180cm90kg 程である。
俺が身長175CM体重60Kgほどだ。二人合わせておよそ 150kg程度であろう。
それだけの重さを後ろの座席に乗せて
自転車を漕がなければならないのである。
元気そうな奴でないといけない。
ロバートはダシャーシュワメード・ロードへ行くよう リクシャーワーラーに告げた。
だがしかし ガートへ続く道は全て 銃を持った軍隊によって 封鎖されていた!!
目の前には30人ほどの軍人が自動小銃みたいな物を肩にかけてあたりを警戒していた。
リクシャーワーラーが 道路を封鎖している軍人から話を聞いて戻って来た。
どうやらヒンドゥ(ヒンズー教徒)とムスリム(イスラム 教徒) との対立でお互いに何人か殺してしまったらしい。
事態は次第にエスカレートしている様で暫くは、 ホテル・商店等全て営業停止、住人の外出も禁止らしい。
仕方がないので近くにあるHotel Varunaに行く事にした。 一泊200ルピーと ちと高いが新築でシャワー・トイレ付きだ。
暫くは ここで情勢の動向を窺う事にした。
3日が過ぎた。流石に3日目ともなると俺もロバートもじれてしまい、 強行突破する気になっていた。
俺は地図を眺めているうちに ある考えが浮かんだ。
北東の「治安維持のための封鎖のライン」を見つめながら
その可能性について想いを巡らせていた。