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カブレラ・ストーン

作者: 目262

 三年間のペルー駐在を終え、帰国の荷造り中に、家主の親父が一抱え程の丸い黒石を持って来た。

 表面にトリケラトプスのような恐竜が掘り込まれている。だが、これは額の上にも大きな角があって合計四本の角がある。親父は、これはカブレラ・ストーンだと言った。

 昔ペルーで発見された石で、恐竜と人間の絵が掘られており、原始時代に恐竜と人間が共存していたと日本でも一時期話題になったが、贋物だという結論が出たやつだ。しかし親父は、これは本物だと言う。

「カブレラ・ストーンが発見された当時、土産物として多くの複製品が作られた。それらが贋物だと判断されただけで、本物は確かに存在する。これは、その一つなんだ」

 彼は一枚の白黒写真を俺に見せた。俺が借りている家の前で、中年男と、家主に似た少年が、件の黒石を挟んで笑っている。家主は写真の中年男を指差した。

「この人がカブレラ博士で、子供がわしだ。わしは子供の頃、博士の手伝いをやっていて、その縁でこの石を貰った。昨夜、博士が夢に出て、お前にこの石を渡せと言われた。だから餞別代わりにやるよ」

 そんな石をもらってもしょうがないので俺は断ったが、親父は白黒写真と一緒に無理矢理置いていってしまった。

 家主が帰った後でネットでカブレラ博士のことを調べてみると、なるほど白黒写真の中年男と同一人物だということがわかった。 

 俺の手元にあるのはカブレラ博士直々のストーン、つまりは本物の贋物である。こんな物があっても使い道がない。始末に困った俺は、高校時代の友人を思い出した。化石探しが趣味だった彼は大学で考古学を専攻し、今ではカナダのアルバータ州で恐竜の化石を掘っている。なかなか洒落の通じる男なので喜ぶかも。俺は軽い冗談で、彼の大学宛てに石を送り付け、早々に日本に帰ってしまった。

 数日後、出社する準備をしていると、けたたましく電話が鳴った。例の 友人からのものだった。到着した石を見て、感激でもしたのかと受話器を取ったが、彼の声には明らかに怒気が混じっていた。

「あの石は何だ?何を企んでいるんだ?今、新種の恐竜を発掘中だが、完 成予想図が、あの石の絵にそっくりなんだよ。皆が発表前で神経質になっている時に、変な物を寄越して混乱させるな!」

 なおも喚き続ける電話などそっちのけで、俺はデスク上の白黒写真を見つめた。

 あれは間違いなく本物の贋物だ。しかし、それでも数十年前には確実に存在していた石に、当時は未発見だった恐竜が何故描かれているのだ?

 偶然だろ?

 そう問い掛ける俺の視線に、写真の中の二人組は黒石を挟んで、悪戯っぽい笑顔で返した。

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