創馬と蟻との共生 side 創馬
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アリ植物
【意味】
自らの体にアリを住まわせたり、食料となる蜜を提供するかわりに、害虫の駆除や周囲にある植物の繁殖の妨害を行わせるなど、アリと密接な共利共生の関係を築く植物の総称。アリノスダマ、アリノトリデなど。
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眷属が増えてできるようになったこと、その1つにダンジョン内吸収がある。
これは最初から持っていたスキルである【吸収ex】を拡張して手に入れたスキルだ。
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吸収ex
【意味】
対象を体内に吸収するスキル。(種族固有)
Lv.1:水や土を吸収し、その成分を得る。
Lv.2:植物系の物質を吸収し、その成分・機能の一部を得る。
Lv.3:鉱物系の物質を吸収し、その成分・機能の一部を得る。
Lv.4以降:閲覧権限がありません。
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exがなんなのかはよくわからないが、問題はないだろう。
これのおかげでダンジョン内のどこにあるものでも吸収することができる。
中でも一番よく使うのは土の吸収だ。
どこからを土とみなすかはわからないが、少なくとも蟻の糞やらは土と認識されるらしい。
創馬はこのスキルを使って、巣を隅々まで清潔に保つのを日課とするようになった。
実はこれによって病やカビ害の危険性が桁違いに少なくなっていたのだが、それは創馬のあずかり知らぬことである。
また、創馬にとっても巣の掃除は有益だった。
アリたちの排出物には大量の窒素やリンが含まれていたのだ。
今世では木である創馬にとって、それらの物質は成長に欠かせないものだ。
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創馬ができるようになったことは他にもあった。
それは、アナウンスというスキルである。
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アナウンス
【意味】
ダンジョン内に存在するものに意思を伝えるスキル。
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このスキルを使って、蟻達に木の実や種を持ってくるように命じたのである。
理由はスキル【吸収ex】のLv.2の効果。
おれは吸収した植物の機能を自分のものにすることができる・・・はずだ。
言葉を持たない蟻に意思が伝わるかという不安はあったが、このスキルを使い続けて1週間程した頃、1匹の蟻が外から種を持ってきた。
嬉しくなったおれがそいつに何度ももってこいもってこいと念じ続けてしまったのも無理からぬことだろう。
でも、その甲斐あってそいつは自分のところまで直接種を持ってきてくれた。
(・・・嬉しい!!)
他者になにかしてもらうのは久々のことである。
実際のところ、ダンジョン内であれば離れたところにあっても吸収は可能なので、必ずしも直接持ってきてもらう必要などないのだが、そこは気分の問題だ。
自分のために一生懸命、(アリにとっては)大きな種を持ってきてくれた。
そう思うと、アリもなかなかかわいいものである。
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(こいつはまずいな・・・)
アリたちが続々と植物の種を食料庫へと運び込むのを感じ取ったところで、創馬はやっと自分の認識が間違っていたことに気づいた。
創馬の間違い、それはアリたちは自分の命令に従って植物の種を集めに行ったのだと考えたことである。
アリたちは、スキル【アナウンス】を使って種を持ってくるように伝えてから1週間程して種を持ってくるようになった。
それがあまりにタイムリーだったため、創馬は自分の指示によってアリたちが種を持ってきたのだと勘違いしてしまった。
(まさか、冬越しの準備だったとはな・・・)
創馬がこの世界に転生されたのが夏休みに入ってすぐ、そしてそれから3ヶ月と少し経っているので、地球と同じように月日が流れているとするならば今の季節は秋ということになる。
感覚を失った上にずっと穴の中にいたせいでそれまで季節を感じることなど全くなかったが、巣の外では木々が長い冬を超えた先に新たな命を芽吹かせるため、様々な戦略を用いて種子を方々に散らしていた。
そしてアリもまた、子供たちの成長に欠かせない昆虫の死骸を集める傍、長い冬を耐え忍ぶために保存のきく植物の種子を集め始めていた。
創馬は冬を越える生命線とも言える植物の種子を、【アナウンス】によって図らずも掠め取ってしまっていたのだ。
キリギリスなんて目ではないくらいの所業である。
(おれのせいでこいつらが餓死するとなったら・・・なんか方法を探さないと。)
自分が出す蜜によって、ある程度は食料の不足分を補うことができるだろう。
自分がいた部屋が巣の中でも割と上の方にあったおかげで、すでに創馬は穴の入り口付近に葉を茂らせることに成功していた。
そのおかげで太陽の光が利用できるようになり、蜜の生産量はこれまでとは比べ物にならないほどに増えている。
しかし、冬になれば日差しも弱まり今ほどは生産できなくなるだろうし、かといって秋の間に作った分を保存しておこうにも水分の多い蜜は致命的なまでに保存には不向きだった。
ちなみに光によって得たエネルギーを蜜に変えずにそのままとっておこうと思っても、いつの間にか消費されて成長のために使われるようである。
もう種の吸収はやめたので少しずつ数が増えてはいるものの、2万を越える大所帯を食わせていくには、蜜の分を合わせても心許ないと言わざるをえない。
(どうする・・・なんとかして保存の効く食料を手に入れないと・・・こいつら死ぬぞ・・・?)
無い頭を振り絞って、創馬は必死に打開策を見つけようとしていた。