ダンジョンマスターってたいへん
初めはただひたすら待ち続ける日々だった。
石が発する弱い光で生み出せる蜜の量では、眷属にできる蟻は日に2〜3匹。
その間、とてつもなく暇である。
創馬はそれまで暇ということがここまで苦痛であるとは想像もしていなかった。
たまに蟻がやってきて体をたたくことはあるものの、それ以外に五感を失った創馬が得られる情報はステータスとヘルプのみ。
何かアクションを起こさない限りステータスは変化しないことを考えると、ヘルプが唯一の暇つぶしの方法なのだ。
思いつく限りの単語をヘルプに問いかけたり、あ行1文字の単語から順番にしらみ潰しで意味を調べたりもした。
窓1つない狭い部屋に閉じ込められて、そこに辞書しかないような状態なのだ。
それしか心を紛らわせる方法などなかった。
眠ることができればまだよかったのだが、創馬にはそれもできない。
1匹目の蟻を眷属とするまでにはすでに時間感覚もおかしくなっていた。
視覚を失ったことによる暗闇と永劫に続くかとも思える孤独が、創馬の心を蝕む。
そんな中、訪れる蟻の眷属化はしだいに創馬の心の拠り所となっていった。
蟻を眷属とするたびに魂の繋がりができるのを感じ、少しだけ孤独が癒される。
創馬は次の蟻を仲間にできるのはいつのことかと狂おしいほどに待ち望みながら、明けない夜を過ごしていた。
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最初に気づいたのは、眷属が150匹を超えた頃だっただろうか。
離れたところにぼんやりと何かがあるのが感じられる気がした。
当然、初めは気のせいだと思った。
なにせ、それまでに幾度となく幻聴・幻覚を味わってきたのだ。
それでも、その感覚が魔力で土を感知したときと似ていたので、「人間のときの感覚じゃなくて木になってから手に入れた感覚で幻を見るなんて、いよいよ自分も人間離れしてきたな。」と妙な感慨にふけったりもした。
まあ木なので人間離れも何もないのだが。
それが幻ではないと確信したのは、さらに100匹以上も眷属が増えてからだ。
初めの頃よりも明らかに土の感覚がハッキリとしてきたのだ。
そして、眷属の数が300に迫る頃、1つの仮説に行き着いた。
『ダンジョンとは、特定の空間や建物を指すのではなく、自分と眷属の魔力が及ぶ範囲のことを指す』という仮説である。
そもそも土の存在を感じ取る方法として思い浮かぶものは土魔法 Lv.1だけだった。
そして、この土魔法Lv.1は転生した初日にDPを使って拡張され、マッピングというスキルとなっていたはずである。
ヘルプさんによるとマッピングの効果は以下の通りだ。
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マッピング
【意味】
ダンジョン内にある土の位置を感知することで、ダンジョンの形状を把握できるようになるスキル。
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逆に言うと、土の位置が感知できる場所はダンジョン内である、ということだ。
もともとの土魔法Lv.1は自分の魔力で覆った範囲にある土を感知するというスキルである。
このことを考えると、眷属の魔力で覆った範囲についても感知ができるようになったという仮説にはそれなりの信憑性があるように感じられた。
重要なのは、この仮説が正しいならば土魔法以外のスキルも離れたところで使える、ということだ。
眷属を増やせば、きっとアレも見つかるはず。
アレというのはこの巣の出入り口のことだ。
闇が広がる深い穴の中で、創馬は光を熱望していたのだった。