初日=状況確認
うん、まあ無難。
初めての拠点作り。
その簡素で雑だが、初めて自分の手で成した成果に”あなた”は感慨深いものを感じる。
≪素材が虫でさえ無ければなあ……≫
虫の何が悪いのか。
この状況で贅沢は言えないだろうと”あなた”は思う。
……まあ確かに多少ぬめぬめ感は拭えないのは事実だが。
≪魔術を選択しておけば、新しい術を教えてやったんだが≫
それはそれ、これはこれである。
ダイスの決定は絶対。
それがこの世界の掟だ……としておこう。
≪はあ……ともかくこの、なんだ蟲小屋に入るぞ。今の状況とこれからすべき事を教えてやる≫
「……」
了解ししょー。
”あなた”は意気揚々と拠点の中へと歩を進めた。
――拠点【頑丈な蟲小屋】
拠点の中は人一人が入るだけで狭く感じる広さだ。
だが野宿よりはマシだろう。安心感がある。
ディスコードが小さく詠唱し、拠点の真ん中に光が灯される。
≪さて……まずは何から説明したものかな≫
1.【屑籠】について
2.【ディスコード】について
【ダイス判定。1D2――結果【2】】
”あなた”は師匠ことディスコードについて質問してみた。
≪我についてか? まあ何のことはない。この【屑籠】を創造した”奴”……いけ好かないが実力は確かな魔導師によって作成された魔法具だよ≫
魔法具……簡単に言えば魔術師の扱うような杖や魔術を書き記した魔道書を示す言葉だ。広義ではポーションのような回復薬や即席魔術を込めたスクロールなども当て嵌まる。
≪そうだ。我の与えた知識を活用出来ているようで何よりだよ我が弟子≫
それはどうも。
しかし”あなた”は腑に落ちない。
他者に魔術知識を授与出来るほどの魔法具がどうしてこんな場所に存在しているのだろうか。
≪【屑籠】に落ちている以上理由は解りきっているだろう。”奴”にとっては我ほどの魔法具でも失敗作扱いなのさ。屈辱的だがな≫
「…………」
これ以上突っ込んだ事を聞くと怒られそうだ。
もう少しコミュニケーションを取ってから、改めて聞く事にしよう。
≪次にこの【屑籠】について説明してやろう≫
【屑籠】、より正確には【魔導師の屑籠】と呼称するのが正しいとディスコードは説明した。
ディスコードを制作した魔導師が魔術的に生み出した大穴であり、これ自体が一つの世界に匹敵する広さと深さを持つ異空間であると。
マジックイーターを始めとする魔法具を餌とするような怪物たちが蠢き、捨てられた道具を自然に処理するようにしてあるのだとか。
≪今我々が居るのはその空間の最下層部だ。ここの性質上、最下層部は最も下級の虫共くらいしか生命は存在しておらん≫
だが、上層部は違う。
「……?」
≪これが俗に言うダンジョンとやらならば下層にいくほど強力な魔獣が出現するのだろうが、この【屑籠】においては上層……つまりは外に近づけば近づくほど、より強大な者たちが蔓延るよう出来ている≫
ディスコードのような魔法具……自我を持つ存在が、最下層から上層へと進出してこないように。
仮に上層へと至る手段を得たとしても、それを妨害すべく守護者と呼ぶべき存在が一定各所に配備されているらしい。
その口振りからディスコードはその前例を幾つか知っているようだった。
≪まあそれなりに長い事ここに居るからな。我と同等規模の機能を持ち、個別に行動できるような物も存在していた、と言う事だ≫
過去形だ。つまり今は――――
「…………」
≪我は先に逝った物共ほど浅慮ではない。この【屑籠】は深淵、奈落と言って差し支えない超深度領域だ。如何に強力な魔法具であれ……一つで成せることなど多くない≫
どれほどの力を内包していても、魔術師の道具という根源的な存在理由からは逸脱できない。
魔術師の杖という形態を持つディスコードだからこそ、この闇の中でじっと耐え凌いできたのだ。
だが、状況は変化したのだと、ディスコードは笑う。
≪長い年月を待ち続け、ついに我を振るう魔術師をここに得た。まだまだ未熟であり、天邪鬼気質な小僧ではあるが……ようやく、行動を、目的を開始することが出来る≫
目的。
それは――――
≪この【屑籠】からの脱出――――ひいては”奴”への復讐と言ったところか。貴様にとっても悪い事ではないはずだぞ弟子よ≫
「……」
そうだ。
”あなた”の胸中で幾つも渦巻く思いは、単純明快に、死にたくないという感情だ。
死にたくないなら、どうすればいい?
⇒1.ディスコードと共に外を目指す
≪そう――――それしか選択肢は存在していない。我一つだけでも、貴様一人だけでも絶対に脱出は不可能だ。だが、一つと一人の組み合わせならば可能性は生じる≫
だから協力しろ、と。
我も協力してやる、と。
「…………」
≪我は魔術の知識を伝授し、貴様はその知識を持って魔術を、技術を磨き強くなれ。そうすれば、必ずやこの【屑籠】より脱出できる≫
悪魔の契約のような誘い。
だが既に賽は振られている。
”あなた”とディスコードの思惑はここに一致したのだ。
【大目的が設定されました】
【大目的:【魔導師の屑籠】の外を目指せ!】】
「………………」
どれだけの時間が掛るかは分からない。
だが、やらなければならない。
絶対に。
≪ちなみに……この最下層を含めて外に出るまでに何層あるか、知りたいか?≫
「…………」
何だろう物凄く嫌らしい声色である。
にやにや笑っているような、”あなた”がどのような反応を返すか期待しているような……
1.……一応、聞いておく
2.……いや、やめておく
【ダイス判定。1D2――結果【2】】
「……」
≪まあそう言わずに聞け馬鹿弟子≫
どちらしろ聞かされるらしい。
≪この【屑籠】の一層の広さはおよそ中小国一つ分。横と縦の高さはおおよそ等しい。そしてだ――――我がここに捨てられた際に計測した大凡の階層数は……【10D100――【418】】階層ほどだ≫
「…………」
418階層……その中途半端ながらも無駄に多い数に”あなた”はため息を吐いた。