プロローグ4
【正体不明が【10体】現れた!】
【正体不明は攻撃してこない】
「……!」
杖を手にした瞬間、目に見えない何かが身体を、脳内を、そして魂に至るまで駆け巡った。
同時に知識が、先程まで持っていなかった数多の魔術の技が心身に刻み込まれたのを感じる。
【”あなた”は【魔術知識:初級】を覚えた】
【以降は【修行】【戦闘】【何らかの行動】等で魔術を覚えていきます】
≪どうだ? 我が杖身は馴染むであろう? 我も些か驚いたぞ。予想はしていたが、初期適合率が100%を超すとはな≫
杖から発せられる声はとても嬉しそうで、楽しそうである。
”あなた”もまた新しく得た知識による昂りを感じている。
この知識を速く、早く試してみたいと。
≪フフ、小僧。貴様は最初に虫と遭遇した時、相手の出方を待ち様子見に徹していたな。戦士としては消極的だが、魔術師としてならば正当だ。故に、今度はそこから一歩足を踏み込んでみろ――――このように≫
【正体不明に【インサイトレンズ】を使用。対象の全ステータスが開示されます】
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Name:マジックイーター
Lv:1 経験値:1
種族:ワーム
HP:15+12=27
MP:2+4=6
力5 体5 知1 魔1
精2 器2 速2 運1
魅1
基本攻撃力10+2=12 基本防御力7+0=7
基本速度2+0=2 基本命中3+0=3
基本魔法攻撃力2+0=2 基本魔法防御力3+0=3
耐性:無 弱点:火、光 無効:盲目
【現在装備】
【蚯蚓の牙】:攻撃力+2。
【スキル一覧】
常時スキル
なし。
戦闘スキル
【体当たり】:単体物理攻撃。ダメージ補正1.2倍。
【魔力喰い】:単体物理攻撃。対象からダメージ分MP吸収。
戦闘外スキル
なし。
ドロップ品
【蚯蚓の体液】(100%)
【蚯蚓の表皮】(80%)
解説:大人ほどの大きさの蚯蚓に似た怪物。魔獣と呼ぶほど危険度は高くないが、素人が軽々しく手を出していいわけでもない。
精々が【体当たり】かそのまま齧りつくかの攻撃手段しか持っていない。
暗闇に完全に適応しているため
【魔力喰い】の名前通り、魔力を含んだ物品を餌としている。だからと言って魔術を無効化出来るわけではないが。
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杖が使用した魔術【インサイトレンズ】が怪物の情報を丸裸にした!
正体不明の怪物の正体は、まあ大凡の予想通り蚯蚓……【マジックイーター】という名前らしい。
≪分かったか小僧? 魔術師の基本は情報の奪い合い。こうして敵の情報を解き明かしてしまえば、なんのこともない。後は煮るなり焼くなり、だ≫
なるほど、確かに。
”あなた”は感心したように頷き同意する。
相手の情報、それもどのような攻撃に耐性を持ち、そして弱点であるのか。それがデータとして判明するのだ。有利にならないはずがない。
≪最も自身の情報に妨害効果を付与してくる者も中には存在している。虫共にそんな知恵は無い故に問題は無いが、そんな時には何が物を言う? どう行動すればいい?≫
⇒1.え……直感?
2.殴り倒せばいい
【ダイス判定。前回【観察眼】を取得した為、判定自動成功】
直感……と言うか、観察であろうか?
相手をよく見る。ただそれだけでも状況は変化するはずだ。
≪そうだ。その点に関しては貴様は合格だ。弱点を看破する以前に、貴様は虫共が光に弱いという事を見抜いていたな? その観察能力は未だ未熟ではあるが、後々重要になってくるぞ≫
何だろう、褒められているのか何なのか。
≪クク……褒めているとも。我が主たるには不足だが、それはこれから教育すれば良い。では次から本番だ。魔術戦の花形……攻撃魔法を使用してみせろ≫
使用してみせろ……と杖は言うが、”あなた”はまだ何の魔術も覚えていない。
だが”あなた”に不安は無い。
もう知識はあるのだ。たった今与えられた物でも、初級の術ならば使えるはず。
肝心なのは、なんの術を使うかだが――――
1.素直に火属性
2.いや光属性も捨てがたい
3.いっそ他の術も……
【ダイス判定。1D3――結果【3】】
……何だろう。ここは素直に火か光を選択するのが正しいのだろうが――――別の選択肢を選ぶのも悪くないのではないだろうか。
天邪鬼染みた好奇心が”あなた”の心を満たしていく。
”あなた”が選択した魔術は――――
1.あのヌメヌメした奴を洗い流す! 水だ。
2.大地が地味? ならば地属性の強さを知れ!
3.風こそ最強! 切り刻んでやろう!
4.闇の炎に抱かれて消えろっ!
5.もういっそ全部使っちまうかー!
【ダイス判定。5D1――結果【3】】
風こそが最強だと証明しよう!
”あなた”は何処かから電波でも受信したのか、風属性の魔術を選択した。
【”あなた”は【初級魔術:風】を覚えた】
【”あなた”は【風刃】、【風乱閃】を覚えた】
さあ……風の刃を受けてみろ!
【マジックイーターAに攻撃! 【風刃】使用――ダメージ【15】】
マジックイーターは風の刃によって切り刻まれる……が倒れない!
「…………」
≪…………≫
沈黙が痛い。
≪この……天邪鬼めがッ! なぜそこで素直に火か光を選択せんのだ!? 貴様の今の魔力で、かつ相手の弱点を突かずして一撃で倒せるか戯けがッ!!≫
杖に怒られた。
理不尽だと思うだろうか。思わないだろう。むしろ自業自得である。
”あなた”は少し項垂れる。
≪面倒な所だけ”奴”譲りか!? ええいッ、このままでは話しが進まん……かくなる上は――――≫
1.【初級魔術:火】を覚えろ!
2.【初級魔術:光】を覚えろ!
【ダイス判定。1D2――結果【2】】
「……」
≪いいな! 光属性だ! 光属性を使うんだぞ!?≫
一方的に決められるのは何とも気に入らな≪貴様の天邪鬼が原因だッ!≫……仕方がないので”あなた”は光の属性魔術を使う事にする。
【”あなた”は【初級魔術:光】を覚えた】
【”あなた”は【光槍】、【光雨】、【治療】を覚えた】
≪覚えたな!? ……よし。では虫共の顔も見飽きたしな、光の全体攻撃【光雨】を使うのだ……【光雨】を、使うのだぞ?≫
使わなかったら分かっているな、という脅し。
最初に会った時よりも感情的になっているようだ。
何故だろう? と”あなた”は内心で首を傾げる。
まあ、ともかく。次は全体攻撃【光雨】を使うべく、精神を集中させる。
【敵全体に攻撃! 【光雨】使用――特攻ダメージ【33】】
【敵は全滅した! ”あなた”は経験値10を取得! 【蚯蚓の体液】×10、【蚯蚓の表皮】×8を取得!】
一瞬だ。
光の雨……正確にはか細くも鋭い光線が文字通り雨となって、一瞬にして蚯蚓の群れを蹂躙する。
闇を明るく染め上げる幻想的な光景とは裏腹に、後に残ったのは怪物たちの無残な死骸だけである。
「…………ッ」
≪やれやれ……最初から弱点を突いておればこうなるのは明白なのだよ。解るか小僧。いや天邪鬼?≫
手に持つ杖から失礼な言葉がまた飛び出した。
誰が天邪鬼かと。
その反論に杖は声色に若干の疲労を滲ませる。
≪ああ、ああもう良い分かった。小僧が実は天邪鬼だったり、”奴”に思った以上に似ていたり似ていなかったり……色々と散々ではあるが――――もうなんか面倒だ。これ以降は貴様の事を小僧改め馬鹿弟子と呼ぶ事にする≫
「……」
小僧だの天邪鬼だの、馬鹿弟子だの好き放題だ。
弟子呼ばわりは、まあ”あなた”にも異論はない。
事実、この杖の助言と助力があってこそ魔術が使えるようになったのだから。
だがまあ、その反面名前で呼んでもらいたいものだが。
≪名前? 貴様に名前などあるのか?≫
「…………」
≪…………≫
何故だろう。
今、とても重要な言葉が聞こえた気がする……。
そう言えば、そうだ。
”あなた”の名前は――――いや、”自分”は、なんだ?
≪――――良い。今は考えるな。だが同時に忘れるな。その疑問はいずれ貴様自身の運命を決めることになるだろう≫
その声色は、とても優しかった。
≪名乗るのが遅れたな――――ああ、”奴”が名付けた名など名乗りたくは無いが、”奴”は我の事をこう呼んでいたよ――――世に不和を告げる者、不協不調の魔杖【ディスコード】と≫
無間の底の底の底。
暗い闇色の屑籠の奥底で。
”あなた”と魔杖”ディスコード”は出逢い。
そうして、物語は紡がれる。
【ダイス判定。1D100-90。10以上で――――【-41】成功あるいは失敗?】
これにてプロローグ、あるいはチュートリアル終了?
なお特別な事が無い限り、作中のダイス目で0はクリティカル、100はファンブルとします。
ただし結果的にそれがどうなるかは、不明。