二話
学校が終わり、修也と茜といつもの道を亮は帰る。話す内容はもちろん、謎の木の板のことだ
「だからよぉ、これは何らかの合図なんだって。異世界、いやもしかしたら宇宙人とか?」
「そんなことあり得るわけがないだろ。馬鹿か?」
修也はずっとこの調子で話を聞かない。ため息をつきながら、亮は軽く流していく。ふと、茜が呟く
「けどさー、だったらそれって何なんだろう?失踪事件は実際にあったんでしょ?ならそれも何らかのメッセージだったりして」
「テレビや小説の見すぎだっての」
「いっつも休み時間に一人で本読んでるやつに言われたくないけどね」
茜の言い分に反論したかったものの、事実なので飲み込んでおく
「じゃあよ、亮はどう思うんだ?これのこと」
ずっと夢物語を話し続けていた修也が問う。亮は先ほどから否定しかしていないからだろう。木の板を修也から貸してもらうと、亮は話を始める
「こんなもん、イタズラに決まってるだろ。……見るからにそういう怪しい書き方で、オカルト好きな奴らが食いつきそうなもんだしな。失踪事件の方はわからんが」
「夢がない奴だ」
「あんたは妄想しすぎなのよ。もっと別のことに頭を使えばいいのに」
修也が呆れ肩をすくめたところに、茜の追いうちが入る。亮はその様子を遠くから見るような気持ちで見ていた。この世の中にそんなありえない、夢のような話は無い。夢を見ることさえおこがましいと、亮は二人の視界から離れるようにしてともに帰った
三人の家は学校から近く、方向も同じだ。ゆえに仲良くなり、つるむことも増えた。先に分かれるのは亮で、じゃあとだけ言って二人から離れようとする
「あ、亮ー!今晩11時半にはここに集合なー!」
思わず亮は振り返る。まさか本当に学校に行く気だとは思わなかった
「ちょ、何言ってんの!?危ないしダメだよやめときなって?」
「近くでこんな面白そうなことやってんのに見逃せっかよ!」
修也と茜は、言い争いながら亮とは別れて行った。その後ろ姿をみて、亮は唇をかみしめ自分の家へ帰る。口ではあんなことを言っていても、本心では何が起こっているのか、何が起こるのかということが気になって仕方ない。だが、亮にはその気持ちを押えることしかできない
少し歩き、家につく。鍵を開け、中へと入ると、リビングのテーブルに書置きがある
『亮へ、今晩はこれで何か買って食べなさい。あと、今日のノルマはちゃんと終わらせるように。母より』
書置きの下に、千円札がおいてある。それを取り、コンビニへと適当な弁当を買いに行く。誰もいない、静かな広い家で弁当を食べ、自室に向かい今日のノルマ――――積み上げられた問題集と向き合う
亮の両親は、大学の教授だった。二人とも頭はよく、亮の兄と姉もそれを受け継いだのか好成績で、二人ともいい大学へと入りそれぞれ一人暮らしをしている。しかし、亮は、出来が悪かった
親にいつも兄や姉と比べられ、頭の悪さを嘆かれ、自分には何の道もないと思うようになってしまった。やがて、亮は物語の世界へと逃げるようになっていった。だが、その物語の世界は、実際にはない。あるのは非情な現実だけだ
――――口にこそ出さないものの、こうやって落ちぶれていた亮を気にかけてくれている茜と修也には、感謝してもしきれない。二人が同じ高校じゃなかったら、亮はとっくに潰れていたと思っている
やがて10時を過ぎ、両親が帰ってくる。母が亮の部屋へ無言で入り、ノルマの確認をする。頷くと、さっと部屋から出て行った。いつもこんな感じで、ノルマが終われば寝ていいということになっている。終わらなかった場合は、明日へ持ち越し、休みも潰れる
そんな生活にうんざりしていた亮は、倒れるようにしてベッドへ倒れこむ。亮の部屋は狭く、二階の奥まったところにあった。ご丁寧に、外鍵までついている。鍵がかかる音がし、そのまま寝てしまいそうになる
だが、まだ駄目だ、明日の分のノルマも今のうちにできるだけ終わらせておく、そうしないと親は怪訝な顔をし、晩飯代やら睡眠時間やらが削られるだろう
机に向かって問題を解いていると、窓からなにか音がした。何かと思って窓の方へ寄ってみる
そこには、二階まで登ってきている修也がいた
「んなっ……お前、なんで!?」
窓を開けると、修也は手を伸ばし亮の手を引っ張る
「決まってんだろ、行くぞ!」
修也は亮の話を聞いていない、無理やりに連れて行こうとする修也を、亮は強く拒絶した
「そんなデマに乗ってこんな時間に遊び歩けるか。一人で行けよ」
「つまんねーじゃん。俺はお前と行きたいんだ」
「断る。そもそもなんで俺なんだよ」
「いつもつまんなさそうにしてるからかな」
「……ほっとけ」
これ以上話しても無駄だと、窓を閉めようとする。それを、修也は止めた
「別にいいじゃねぇか、一回くらい。こんな息の詰まるようなつまらない学生生活で終わる気かよ?」
「……人生なんて、そんなもんだろ」
「一回くらい、馬鹿やった思い出作ろうぜ、亮」
修也は折れない。これ以上話しても無駄だと思った亮は、適当なパーカーとパンツに着替える。ようやく観念したか、と修也は満足げだ
おそらく親がまた見回りに来ることは無いだろうが、念のため布団に本などを入れ寝たように偽装しておく。また、靴は玄関に置きっぱなしのため、中学校以来使ってない上履きを履くことにした。幸い、そこまでサイズは変わってないようだ
「じゃ、行くか」
修也が先に行き、亮は部屋を最後に見回し注意深く窓を占める。ゆっくりと屋根から降りると、素早く家から離れるように走った
「脱走成功、ってか?」
修也が笑う。初めて夜中に飛び出した亮も、心なしか楽しくなり、自然と笑っていた。走りながらいつもの通学路に入ると、誰かが歩道の真ん中に立っている
「やっぱり、来たんだね……まさか亮までいるなんて……」
茜が、非難する目で立っていた。修也は茜を誘わなかったらしいが、茜は待ち伏せていたのだ
「昔から何回も何回もこういうことやってるからねぇ……修也は。さあ二人ともいい歳なんだから今すぐ――――」
「行くぞ、亮!」
不意打ちで、修也が走り出す、亮が追いかけると、そのあとを茜も走り出した
「全くあんたはいつもいつも!」
……茜と修也は、小学校のころからの仲らしい。高校で知り合った亮にはわからなかったが、昔から修也はこうだったのだろうか
そう思うと、もう少し前から修也とは仲良くなりたかったと思ってしまう
「しかし、まさか亮もついてくるとはねー、全くこういうこと興味なかったと思ったのに」
体力の尽きかけた亮は、直ぐに茜に追いつかれた。本気で追い抜くそぶりはなく、なんだかんだ言いながら修也に付き合うらしい
「邪魔だったか?」
「いやいや、そんなことないよ人数多い方が楽しいもん」
……本当は修也と二人きりが良かったのかな、そんなことを思いながら、学校へ走った
学校?




