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22世紀の企業傭兵たち【打切】  作者: 八雲 辰毘古
Mission4:Long Long Goodbye
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Present2

 テッド・ウェンという名前を持った男の生涯は、語り出すと案外あっけないものだった。いかに人間が魅力的で波瀾万丈な人生を送っても、取捨選択をしているうちにそれは一冊の本に収まってしまう。いや、ひょっとしたら短篇小説か、三行で片付けられてしまうのかもしれない。文字列(テキスト)に直して三十億字にもなる生体情報(ヒトゲノム)は、たとえ生命の不可思議さ複雑さを表しえたとしても、その生命が送る生涯の豊富さをなんら示さないのであった。


 だが彼の語り出した人生を、自分のなかで再構成することは悪いことではないだろう。


 彼はそれまでつつがなく過ごしていたはずの人生を、七歳のときに失った。テロだ。親戚の結婚式のさい、人間原理主義過激派による遠隔機(ドローン)爆発テロで、家族重役ともども皆殺しの憂き目に遭ったのだ。

 この事件を知るためには、彼の家庭、つまりアーツ・インダストリー社が何をしていたのかを知る必要がある。アーツ・インダストリー社……俗にAI社と呼ばれるこの〈財閥〉は、略称から類推できるように、人工(A)知能(I)やビッグデータを本格的に利用し、成功した大企業の一つだ。成立は「第四の波」が活発に起った二十一世紀中葉のことで、その商売方法ビジネスモデルはユニークなものだった。

 オーダーメイド・オートメーション。簡単に言えば、個々人の需要に完全に応対した自動生産ラインのことだった。消費者一人一人の日常的な癖、感覚、仕草、そして職種や生活スタイル、あるいは代謝……そうした瑣末な情報を、生活補佐AIから収集し、それらをもとに、例えば化粧品の分量比を調節する。比率が〇.二ポイント変わるだけでもこうしたものは効果の差異が生まれるため、この新しい型の生産ラインは、当初化粧品の分野で成功を収めた。やがてこの生産方式の可能性を他の分野に押し広げ、ウェン一族は一大〈財閥〉へと飛躍的な成長を遂げたのである。これは二〇四五年以降の人工知能を活用した一つの完成されたビジネスモデルとして絶賛されていた。近現代史を学ぶうえで欠かせない一つの教養とすらなっていた。


 しかし、人工知能を巡るもう一つの潮流が、二〇四五年以降の人類の歩みを止めていた。

 人間原理主義だ。

 これは二十一世紀中葉に起きた機械破壊運動(ネオ・ラッダイト)から生まれた思想であった。人工知能による雇用危機が惹き起こしたこの運動は、実に多くの地域を席巻し人工知能産業を始め、あらゆるテクノロジーの進歩を妨げるに至った。

 だが単にボイコットや暴動によって事業や開発を妨げるならまだ良かった。問題はこの運動に目をつけて、テロリズムへと発展させる勢力がいたということなのだ。エドモンド・ティレンダーと言う名で知られている過激な策謀家は、機械破壊運動(ネオ・ラッダイト)にマハトマ・ガンジーなどの様々な思想的意味を付与することで、人間原理主義という思想を確立させた。


『機械に依らぬ、己自身の手作業を真実とせよ。糸車に本当の価値を見出せ』


 マハトマ・ガンジーもこのような連中に引用されたらたまったものではないだろう。だが、彼らは糸車を象徴とした旗を掲げて週に何度かデモ活動を起こし、そしてときには〈財閥〉の重役などを暗殺していた。すでに国家など形骸化している時代である。彼らの取り締まりには思いの外に手間がかかってしまっていた。

 結局のところ、〈ギルド〉制度が現れたことで彼らの活動は終止符を打たれた。個々人の技能を尊ぶ〈ギルド〉の制度は、人間原理主義の目標にかなっていたし、実際上の雇用をも改善させた。こうして不満が掻き消され、支持基盤を失ったティレンダーは、やがて自殺した。その後テロリストグループは離散したとも言われている。だがテッドの蒙った悲劇はその活動の全盛期に行なわれたものの一つなのだ。


《その事件が人間原理主義者のテロだとちゃんと知ったのは、しばらくあとのことだった。僕は軽く一年ほど入院し、ナノマシンによる細胞補修だの、色んなケアを受けていた。全身が内と外から焼かれるような気分だったよ。前世紀の抗ガン剤の作用よりはまだマシなのかもしれないけど、とても辛かったよ》


 記録のなかでテッドは喋り続ける。まるですべて懺悔し尽くして、天国に行ってしまおうという罪人のように見えた。だが時代に反して声だけの記録では、彼がどんな顔をしてこの話をしていたのか、類推しかできないのだ。

 無知は恥だ。そう言っていた本人は、果たして何を考え、何を思って記録をしたのだろう。考えることだ。考えなければ先には進めない。


《でね、もうわかったと思うけど、それから僕の復讐が始まったんだよ。とりあえずは十三歳まではある企業の養護施設に居て、その後〈闇黒街〉で情報屋をやった。カネのために人殺しをしたり、言うにも憚るような拷問の作法だって覚えたりした。そして待った。待って、調べ続けたんだ。僕の家族を、僕の人生を踏みにじった連中の正体を……》


 テッドは語り続ける。

 それに対して俺たちは黙り続けていた。レオナルドも一鳴きすらせず、礼儀正しい姿勢で耳を傾けているかのようだった。

 そして、少しだけを間をおいて、テッドは語り出す。そこから現れたのら、予想外な名前だった。


《そいつの名前はターナー・ウィルソン。〈ギルド〉協会の現トップで、隠れ人間原理主義者……》

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