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22世紀の企業傭兵たち【打切】  作者: 八雲 辰毘古
Mission3:Anny Memonic
16/23

 自分の身体を盾にして、二人を逃がす。そして、リヴィエラと名乗る女と対峙した。彼女は身構えたまま、音もなく俺との間合いを測っている。その蒼い瞳は、冷徹に研ぎ澄まされた刃のような視線を放っていた。


「どきな」

「やなこった。退けと言われて退くやつなんていない」

「力付くでも退いてもらうよ」

「やれるものなら」


 左腕の痛覚は激しかったが、意図的に無視できた。俺は相手の様子を伺うようにして、時間稼ぎを試みた。

 このオフィスはビルの十二階。()()()()()()()()何の装備なしに、窓から飛び出しはしない。

 だがニンジャやくノ一ならどうか。人体改造を施された、特殊な企業戦士の場合は。


 リヴィエラは足を浮かせるようにフラフラと身体を揺り動かしている。まるで機先が読めない。機を読もうと神経を張り詰めても、トカゲの尻尾を掴むように、するりと避ける。そういう具合に彼女は間合いを取り続けている。そこで俺はあることに思い至る。


 その瞬間、彼女は金属片を投げてきた。俺はあいだにあるロウテーブルを蹴り上げ、盾にした。机が部分的に凹む。突き出されたロウテーブルを押し返して、リヴィエラは俺との間合いを詰める。

 俺はリヴィエラの第二撃を避けながら、その脇腹に蹴りを入れた。完全には当たらなかったが、命中はした。彼女は壁に身体を打ち、体勢を一瞬だけ崩した。

 だが止めを刺さずに、俺は間合いを取る。出入り口を塞ぐためであり、かつ同時にくノ一の奇手を警戒してでのことだった。代わりに俺は口を開く。


「貴様()()()所属だ」

「……答える必要はないわ」

「なぜ殺す」

「任務だから」

「その目的は」

「私のポケットマネー」


 彼女は笑う。まるで肉食獣が獲物を見つけたときのようだ。


「あなた、なかなか強いけれど、そろそろ限界なんじゃない」

「なに」

「私の投げた銀玉、毒入りのお手製よ」


 言われてみれば、すでに左腕の感覚がなくなっている。だが、俺はなるべく痛覚への思考を止めていた。


「なるほどな。だが、そんな小細工が俺に効くと思ってるのか……」

「カッコつけないでよ。人体には限界があるものよ」


 艶然と笑う。勝利を確信しているような、余裕のある微笑み。

 思ったよりも毒の回りが早かったようだ。俺の身体が熱を失い始めている。左腕は動かそうと思っても動かない。力なくぶら下がっている。


「ふふふ、あと何秒間保つかしら」


 もはやリヴィエラの構えは緩み始めている。俺の様子をすでに把握しているのだろうか。だが、その確信が隙だというのに気付いていない。


 俺は胸元に右手を置いた。

 右手も逃さじと彼女も金属片を投げる。

 そして、銃声。


 俺は右腕にも金属片を受けた。

 だが彼女は左胸から血を流す。


「畜生、やられたね……」


 リヴィエラは斃れた。

 俺も斃れる。そして、意識は遠のく……



   *  *  *



「……きろ、起きろっ」


 目覚めると、知らない天井が見えた。

 テッドの真剣な顔が見える。


「なんだテッドか」

「しゃんとしろ。なにがあったって言うんだ」

「ここは、どこだ……」

「知ってる伝手を漁って出てきた闇医者のとこだよ。ジン。誰にやられたんだその傷」

「……くノ一だ。リヴィエラと名乗っていた」


 テッドは眉間にしわを寄せていた。


「なるほどな。とうとう奴らもなりふり構ってないってことか」

「どういうことだ……」

「ジン、まだ休んでなよっ」


 と、チェンが突然俺の起き上がるのを押し留めた。


「チェン、なんでお前がここに」

「言っても聞かなかったんだよ」


 テッドがやれやれ、という身振りで答える。よく目を凝らすと、その傍らにアニーもいた。


「どうやら全員で移住してきたって感じだな」

「まさしく」


 大げさにため息を吐くテッド。


「それで、なりふり構っていられない、とはどういうことだ」

「簡単だよ。ニンジャは老人貴族(オールドクラート)お抱えの〈財閥〉にしかいない、とんでもない企業戦士なんだから。暗殺さ……アニーの記憶、流出した情報を人体ごと抹殺しようって寸法なんだよ」

「なんだと……」

「つまり僕らはどうにかしてアニーの記憶を解放するか、アニーを生贄にするか、二つに一つということだ」

「そんな……」


 脇で聞いていたチェンが、ぽろっと声を漏らす。


 ところで俺の身体はどうなったのだろうか。もともと改造された身体だったが、今自分がどういう状態にあるのかは気にならずにはいられなかった。ふと腕をみる。両腕とも機械の腕だった。


「すまない。かなり毒が回っていたらしく、再生はできなかったよ」

「まあ、いいさ。……待て。お前、俺の身に何があったのか、本当にわからなかったのか」

「うん。チェンに呼ばれて戻ったときには、君しかいなかったからね」

「おい待て。そうすると俺はあいつを斃したわけじゃないってことになる」

「えっ」


 そう言った途端、悪い予感は的中した。

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