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22世紀の企業傭兵たち【打切】  作者: 八雲 辰毘古
Mission3:Anny Memonic
14/23

「その日、僕はブラック・マーケットを散歩していた。ちょっとした取引(ビジネス)があったからね。でも、その取引については深く話す必要はないと思うから、省かせてもらうよ。

 問題だったのは、そのあとのことだ。僕は近くのバーでひと休みしていたんだけれど、そこで声を荒げて少年が恐喝されている現場に出くわしたんだ」

「どんな調子だった」

「それはこの子の方がよく知っている。だけど、そのときの状況を正しく知ることと、今回の依頼内容を把握することとは違うことだよ」


 その口調には、有無を言わさぬ調子が含まれていた。


「良いだろう。先を続けてくれ」

「そして、僕は最初は無視していたんだが、途中で恐喝しているのが〈闇黒街〉の連中だということがわかってね。しかも、この子の電脳に用があるらしい。アニー、君にも先に言っておくけど、君は記憶屋(メモニック)なのさ。企業機密やなんかを記録した人間媒体の一つさ」

「馬鹿な、この子どもが」

「そこさ。まさか子どもが企業機密を持っているとは思うまい。そういう盲点を企業は巧みに利用する。権益を守るために、データが流出しないように、彼らは人材と徹底的に使い込む」

「なんてブラックな企業なんだ」

「それは違うな。記憶屋というのは、人体を介した一つのメモリーバンクなのさ。だから、一つのみならず、多くの企業が彼のような記憶屋を利用している。しかも、彼もそうだが、そもそも自分の稼業がどういう物か自分でも知らないことが多い。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「えっ……」


 ここで初めてアナーシーが声を出した。その声は震えている。


「おれ、……その、自分が何を憶えているのか、わかってないんですか。自分の記憶なのに……」

「その通り。君は何がなんだかわからないまま恐喝され、そして僕に匿われたわけだけれども、その真実を知っておかなければならないから言うんだ」

「そ、そんな……」


 彼は頭を抱えた。


「彼には悪いが、先を続けてくれ。そもそも、そこでどうしてお前が出てくる」

「簡単な話だよ。儲け話には首を突っ込まずにはいられないタチなんでね」


 テッドは意味深でありながら感情の読めない顔をする。


「素直に言うと、興味を覚えたんだ。僕はそのなかにちょいと顔を出して、のんびりと絡んだ。すると奴さん怒ってね。彼に銃をぶっぱなそうとするから、僕がその手をへし折ってやった。そして僕は悠々と彼を連れて出たんだ」

「それでここまで来たってのか」

「うん」

「最近お前、自分勝手が過ぎないか」

「もともとそういう契約だったでしょ。君は仕事の最中は僕の手を借りれる。だけど仕事のほかでは僕に干渉しない」

「確かにそうだが」

「それに、僕のバックグラウンドにも干渉しないことも付いていたはずだ」

「……お前は何を考え、そして何を焦っているんだ」


 虚を突かれたような顔をして、テッドは突然笑い出した。


「それ以上関わらないでほしいな。君には関係のないことだ」

「ならそうしよう。与えられた仕事はちゃんとするさ。当面は少年の保護だ。しかし記憶屋を保護して得られる報酬とはなんだ」

「わからないのかい。企業の機密そのものさ。これを使っていくつかの大企業と駆引き(ビジネス)できるんだよ。情報は常に最も高い値打ちを誇る通貨なんだから」

「……お前」


 だが、そこから先は敢えて何も言わなかった。言っても無駄なのだ。彼の考えていることは何もわからない。人格侵入を試みればまた違うかもしれないが、それは法律に悖るうえ、契約内容に反する。


「……わかった。お前のやろうとしていることが何であろうと構わん。とにかく二週間、子どもを護っていればいいんだな」

その通り(ザッツライト)


 テッドは指をぱちんと鳴らした。少年は自分の頭上で為される会話をまだ完全には了解しきれてないらしく、震えてばかりいる。


「ところでテッド。具体的にはどんな危険があり得るんだ」

「それは……わからない」

「なんだと。危険性(リスク)がどれだけか計算しないでやったのか」

「まあね」

「なぜだ」

「それを言う必要はない」

「なるほど。じゃあ俺は考えられる限り最大限の危険性を相手に二週間をすごさなければならないってわけか」

「そういうことだね。僕も最大限手伝うさ。どこかの〈ギルド〉オーナーのように胡座を掻いているわけじゃない」

「そうしてもらいたいな。さもなくばこの場で射殺しているところだった」

「珍しいな、君が冗談を言うなんて」

「雨が降っているからだよ」


 心の奥から滲み出る苦い味を噛み締めながら、俺はそう言った。

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