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かみつき!  作者: 黒猫時計
05/ 果し合い
21/29

01

 あれは、死の宣告にも等しかった。


 天音に噛み憑かれ、結果、鳩羽から死の予告をされ……。

 日常が崩壊し始めた時から、少なからず嫌な予感はしていたんだ。


 芽依や鏡也、美織さんに奏先輩と何気なく過ごす毎日が、いずれ終わってしまうのではないか。もちろん、それが自分の死で終わることなんて、俺は想像していなかったし、それを望んでもいやしない。


 ただ、当たり前の日常に少しばかりの変化があると、漠然と思っていただけだ。

 道を歩けばそこら辺に怪異がいて、手を上げれば諸手を上げて挨拶を返してくれる。


 そんな平和的な風景を、想像し思い描いていた。

 けど、現実は違った。希望的観測は幻想だった。


 俺は、大妖怪、九尾狐の玉藻にけったいな呪いを仕掛けられ、狐狸ヶ崎の街には、数多の怪異が蔓延るようになった。

 天音の話によると、仕掛けられた蠱毒とやらに注ぎ込まれた妖力に、各地に散る怪異たちが誘き出されているという。


 永瀬は日夜、増え過ぎた怪異を鎌鼬を伴って、愛刀の禍刈で封滅するという日々を送っている。学園は、期間未定で休学中だ。


 美織さんが、事情が事情なため、それを欠席扱いにはしないと、母親である学園長に直談判してくれた。その美織さんも、蠱毒の発見のために、無理を押して千里眼を使ってくれている。


 俺たちも、協力してくれている二人のその厚意を無駄にしないため、死を宣告されたあの日から狐狸ヶ崎を駆けずり回った。


 天音もその間、美織さんの家に行っては怪しい場所の照らし合わせなどを積極的に行っていた。

 けれどなんの手がかりもなく、無情にも時間だけが過ぎ、すでに八日が経過していた。

 放課後。商店街近くにある小さな公園で、いま俺たちは小休止をとっている。


「確認するぞ天音。俺の命は、あと二日もないんだな?」

「ああ、それは、間違いない」

「しかし、厄介なことになったなー。まさかこんなことになるなんて、思いもしなかったよ」


 別に嫌味のつもりで言ったんじゃないのに、天音は申し訳なさそうに耳を垂れている。


「主殿は、わしを恨んでおるか……」


 ついにはそんなことまで口にし始めた。

 ここ八日、なんの手がかりもなく、ただ我武者羅に走り回っているだけで、特にこれといった成果はないに等しい。


 けれどどうだろう。それは何も天音のせいだけじゃない。天音に憑かれて、多少の霊感を得ているにもかかわらず、なんにも感じられない俺にも、その責はあるはずだ。

 だけど天音は、いつぞやの昔話のように、それをまるで自分の責任みたいに感じてブルーになっている。


「なんでそんなこと言うんだ?」

「だって、わしがお主に憑いたばっかりに、こんな、生死を分ける闘いに身を投じねばならんくなったのじゃぞ」

「……まあ、最初はさ、正直、お前に憑かれたほんっとに初めの頃は、重老爺とかいう怪異の方がまだマシだと思いもしたさ。耳元で、お稲荷さんお稲荷さんうるさかったし、いつも偉そうだし――」


 つい本音を吐露すると、天音は、うぅ、と参ったように顔をしかめ、呻いた。


「でもさ、お前と一緒に暮らすようになって、思ったんだ。こんな不思議体験、滅多に出来ないんだろうなって。だって神様に憑かれるなんて、普通ありえないことだろ? それに、お前の耳とか尻尾とか、温かくてすごく気持ちいいし。家族が出払ってる今、あの家に一人で暮らしててさ、今まではぜんぜんそんなこと気にしてなかったのに、二人で過ごすようになっていま思う。寂しかったんだなって。だから、お前と一緒にいられて俺はすごく楽しいし、感謝してるんだ」


 我ながら恥ずかしいセリフだと思う。

 でも、天音の気が少しでも紛れ晴れるなら、こんな言葉も恥ずかしがってなんかいられない。


 天音に目をやると、耳はしっかりと立てていた。

 でも俯いていて、表情がよく分からない。

 着物の裾をぎゅっと握ると、天音はいきなり顔を上げた。


「それは、わしの台詞じゃ、馬鹿者」

「いてっ」


 なぜか思いっきり、弁慶の泣き所を蹴られた。

 涙目になって蹲り、自然と天音と同じくらいの高さになって見た天音の顔は、なぜかすごく嬉しそうに笑っていた。


 にしても、感謝? 俺はいつの間に、神様に感謝されるようなことをしたんだろう。食事や風呂のことかな?

 でもそんなものは、一緒に住んでるんだから当たり前だろ。


「別にそれくらい、感謝されるほどのことじゃないだろ? 責任の一端は、千歳稲荷にサボりにいった俺にもあるわけだしさ。だから、天音がそんなに気負わなくてもいいんだよ。お前神様だろ? だったら、もう少しくらい威張っててもいいんだぞ。天音らしくもない」

「うーん、感謝しとるのは、それだけではないんじゃがな」

「ま、いいから。まだ死んだわけじゃないし、あと二日あるだろ。それまでになんとしてでも、蠱毒とやらを探そう」


 その時は、まだ余裕はある、そんな風に思っていた。

 けど、結局、なんの手がかりも掴めないまま、さらに一日を浪費した――。


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