第六話「母の秘め事」
ちょっと現在と、過去が混ざりそうで、わかりづらいです…すいません。
夕日は傾き始めていた。
―こんなにあの頃のことを思い出したのは、何年ぶりだろうか。
あの事件の後、この家に辿り着いた李乃を百合は抱きしめて、泣いてくれた。
その涙を見たとき、莉乃の胸に熱いものが漲った。
―もう誰も信じない。でも、お母さんだけは、大切にしよう…
どんなに反対しても、お店を手伝おう。
もう、モデルには戻れない。
目立つことをすれば生き延びたことがばれてしまう。
数日後、傷の治療に専念して、家で寝たまま過ごしていた莉乃に百合は言った。
「外国に逃げなさい」
あまりに神妙な顔をしていたので、莉乃は何も言えなかった。
それでも、百合は続けた。
「あなたは、顔を知られすぎている。このままでは、また命を狙われるわ。母さん、あなたを失ったら、生きていけない。いけないの。だから、手が届かなくったって、生き延びてほしいの」
悲痛な願いだった。
自暴自棄になっていた莉乃は、百合が望むなら、それもいいかもしれない。
ゼロから始めてみるか…
仕事にも、恋にも、日本にも未練なんかなかった。
どこか遠くに行ってしまいたかった。
誰も知らないところへ行きたかった。
『蒼井莉乃』もモデルの『リリ』も知る人がいないところへ…
―何か引っかかる…
西日を見つめながら考えていた。
あの頃は、心に余裕がなかった。
でも、今改めて考えると…
―お母さんは犯人を知っていたの?
ガタっ!!
震える腕が机にぶつかり何かが落ちた。
―手帳…?
百合の手帳だった。
しかし、どう見てもおかしかった。
いたるところが破られたり、切り取られたりしている。
それも1冊ではない…4冊あった。
あの年から…
―母さん、何を隠そうとしているの?