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動機  作者: 嘉那
1/8

プロローグ

- ここはどこだろう?


暗い森の中をただ歩いている。

どこへ向かっているのか、それすら定かではない。

体のいたるところがズキズキと痛む。

街頭ひとつない山道で、自分の手すらボーっと浮かび上がる白っぽいものにしか見えない。

きっとその腕は泥と血にまみれているのだろう。

顔も服も、全身が…

割れるように痛む頭は、まだぼうっとしていた。

それでも、私は歩き続けた。

暗闇ももはや恐ろしくなどなかった。

私は、殺された―もう恐れるものなど何もなかった。

ただ、生き延びようとする本能だけが私を突き動かしている。

もう一度だけでいい、一目でかまわない、会いたい愛おしい顔を思い浮かべる。

暗闇の中でも、瞼に焼きついた笑顔は鮮明に浮かびあがり、凍りそうな心には温かい感情が少しだけ蘇る。


そしてまた強く願った…生きたいと。


― ああ。光が…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


ルルルル…

電話が鳴る音で目を覚ました。辺りはまだ暗い。

「ふぅ…」

― また、あの夢か…

最近はあまり見なくなった夢だった。

それでも、頬はいつものように冷たく濡れているのだった。

自然と枕もとの電子時計に目を向ける。04:26AM―日本はもう夜か。

少し嫌な予感を感じながら受話器をとった。


「Hello?」

こんな時間に電話してくるのは日本からに違いないとは思ったが、反射的に英語で電話を受けた。

相手は一度ひるんだように、一呼吸おいて尋ねた。

「…莉乃…莉乃か?」

やや緊張してはいるのだが、聞き覚えのある男の声に、莉乃は少しほっとして答えた。

「俊之叔父さん?」

電話越しに相手がホッとしたのを感じる。

「ああ…」

俊之はそれだけ言って、また押し黙ってしまった。

嫌な予感がした。

いつも優しく気さくな叔父のただならぬ雰囲気に、莉乃は戸惑った。

叔父が電話をかけてくるのは、よっぽどのことだろ。

― 母のことに違いない。

俊之が莉乃に電話をしてきたことはなく、母・百合が俊之に取り次いでくれることがたまにあるだけだった。

予感が確信に変わっていくのを感じていた。

重い時間がどれくらい続いたのか。

きっとほんのわずかの時間だったに違いない。

しかし、その重苦しい空気は、時間の感覚を狂わせ、ひどく長く感じられた。

決心した莉乃は、重い口を開いた。

「お母さんがどうかしたの?」

叔父は驚いた様子で

「えっ?…ああ…」

とだけ答えた。

「叔父さんが、こんな時間に電話をくれるなんて、お母さんによっぽどのことでもあったの?」

努めて優しい口調で問おうとしたが、その声は、自分が思っていたよりずっと冷たく響いたことに、莉乃は気付かなかった。

「姉さんが…死んだっ…」

電話越しで叔父は泣いていた。


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